糞とペンギン

「あの、まあまるさん?...こちらは?」


その黒く丸い不確かな何かを拾い上げたあわびは、それを生成したと思われる相手に質問を投げかけた。


すると、次は謎の掛け声はなく、その答えだけが口元に示された。


『ふ ぁ っ く』


「いえ、あのどうしてそこで私が罵られいるのでしょうか?」


困惑するあわびに、何かを思いついたようにみずきが話しかけた。


「あの、師団長。もしかして...なんですがその黒く丸いものは、まあまるさんの-その-うんち、ではないでしょうか?」


『せ い か い』


「これ、大便だったんですか!?それにしては、随分と硬い。いや、ほんとに、龍の鱗よりも硬いですよ、これ?」


『り ゅ う ざ こ』


「まあ、まあまるさんから見ればそうでしょうが...「ペシペシ」」


と、そこへあわびの執務室に、扉を2度はたく音が響いた。


「ああ師団長、重音が例の新人を連れて帰って来たようです。」


「おや、早かったですね。お入りください。」


部屋主の許可を貰った扉の前のモノが、失礼しますという声と共に入室して来た。


「ただいま戻りました、隊長」


数の子を一頻り齧り終えたまあまるさんが視線を上げた先には、ビシッと、音が聞こえてくるほど綺麗な敬礼をした透明な帽子から透明な長髪を垂らしたペンギンが立っていた。


驚愕に目を見開くまあまるに、お茶目にウィンクしながらあわびが教えてくれる。


「ふふっ、びっくりしましたか?紹介しておきましょう。彼は、我が師団の第三分隊隊長、双葉 重音です。見ての通り少し変わり者でして、ペンギンの着ぐるみを着て歩いています。ああ見えてとても強いんです。まあまるさんも気に入ると思いますよ。」


『う ん す き』


見た目が同じケモノ同士であるからだろうか。どうやら好みがうるさそうなまあまるさんも、重音を一眼見て気に入ったらしい。


「おお、ありがとうございます、まあまる殿。ご紹介に預かりました通り、拙者、双葉 重音と申します。気軽に重音と呼んでくだされ。」


その嘴からは読み取れないが、明らかに相好を崩していることが伝わるような弾んだ声で重音がまあまるさんに挨拶をした。


「そうだ、重音。新人を連れて来ていたのでは?」


そう問いかけるあわびに、重音は思い出したように頷くと扉に向かって呼びかけた。


「何をしておる、樹殿。入って来なされ。」


「し、失礼致します。この度、第八独立師団第三分隊に配属されました、月桂 《つきつら》いつきです。日本軍最強と名高い、第八師団に入れて光栄です!よろしくお願い致します!」


ペンギンに促されて入って来た、まだ少年とも取れそうな年齢の青年は、緊張半分興奮半分といった様子で入室すると、そう名乗った。





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世界最強まあまるさん 一年中数の子食べたい @noahoshimiya

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