日常の1コマ
その不可思議な口元を弛ませて、醤油や鰹節に彩られた数の子を頬張るまあまるさんを見て和んでいるあわびの耳に、軽快に三度、扉を叩く音が聞こえた。
「どうぞ。」
あわびが入室を促すと、やや大柄の、しかしそれを感じさせないほどにスレンダーな丁度あわびと同い年ほどの綺麗な女性が入室した後、あわびに対して敬礼をした。
「失礼致します、師団長。」
「ああ、お帰り。副師団長。どうだった。例の件?」
「ただいま戻りました。問題ないそうです。」
そこまで言って、副師団長と呼ばれた彼女は言葉を改めた。
「いえ、正確には問題はあるのですが、野生に返す訳にもいかないため、この件は師団長に一任すると上が判断しました。」
「そりゃあよかった。ああ、じゃあこれから頻繁に顔を合わすだろうから紹介しておくよ。こちら、まあまるさんと仰るそうだ。好物は恐らく、僕と同じで数の子。なんと簡単な意思疎通なら可能なんだ。喋りかけてみるといい。」
そうあわびが促すと、副師団長は軽く頷いた後いまだに海の幸をぽりぽりしているまあまるさんに向き直り、少し膝をかがめた後その顔を覗き込みながら話しかけた。
「初めまして。まあまるさんとお呼びさせていただきますね。私、この日本軍第8師団で、副師団長及び師団長であるあわび様の秘書を務めさせて頂いております、
さて、聞く人全てを暖かい気持ちにさせるような、柔らかい笑顔と優しい声でそう話しかけた副師団長、改め鷹名に話しかけられたまあまるさん。
彼は、チラッと鷹名を振り返ると、そのふわふわした耳で醤油だらけの口元をゴシゴシと擦った後、醤油が乗り移ってまっ茶色になった耳を片方だけ振り上げて挨拶した。
『まあまるや』
『よろしゅうな』
そこからのやり取りは、先程のあわびとまあまるさんとのやり取りの焼き増しとなった。
涎かけを汚しながら手を上げる赤ん坊のようなまあまるさんに癒されながらも、日本語を介した上に意思を伝えてくる血獣に眼を白黒させながらも、なんとか事の顛末を飲み込んだ鷹名は、多少躊躇いながらもその伸ばされた茶色い耳と握手した。
-のだが、
「ふぁっっ...っく」
ころころころ...
耳で鷹名の手を握ったままのまあまるさんの口元から、大変汚い掛け声と共に何かが飛び出てきた。
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