星宿

梅田 乙矢

空へ

私の住んでいる田舎では、精霊流しならぬ

星宿ほしやど飛ばしという風習がある。

読んで字のごとく死者の魂を空へ飛ばし

星に宿らせるというものだ。

毎年お盆の日には、手作りの小さな気球をみんなで空へ飛ばす。

だが、今年は星宿飛ばしができなくなってしまった。


大きな地震が起こったからだ。

建物は倒壊し、水や電気は止まり、食料も

飲料もなく、たくさんの人々の命を奪った。

みんな避難所での生活を余儀よぎなくされた。

水が出ないから衛生環境も最悪だ。

手を洗うことすらできない。

感染症も蔓延まんえんしてしまった。

そんな厳しい状況でも行方の分からない

家族や友人を探すために毎日、瓦礫がれきと化した町を探し続け、そして落胆した表情で帰ってくる人達がいる。

そんな彼ら彼女らを見るのはとても

辛かった。


避難所での生活は思っていた以上に

長引き、仮設住宅などができるまでに

かなりの時間を要した。

少しずつだが、町は復興へ向けて動き始めていた。

そんな中、妙なことが起こり始めたのだ。

災害で亡くなった人達が夜になると歩いている姿が目撃されるようになった。

最初は少ない人数だったが、日に日に増えていき 今では多くの人が亡くなった時の

ままの姿で歩きまわっている。

もちろん話しかけても反応はないし、

無表情のままだ。

自分達の帰る場所を探し彷徨さまよっている。

遺族の気持ちを考えるといたたまれない。


震災の傷跡はまだ残っていたが、みんなで話し合い亡くなった人達の魂をしずめようということになった。

遺族含め多くの人々が空のよく見える大きな広場へと集まっていた。

それぞれの手にろうそくが入った小さな気球を持っている。

ろうそくに火を点け、故人を思い空へと

飛ばす。

遠く遠く彼方かなたへ。

星に宿るために。

温かく優しい光をともした無数の気球が空へと登っていくさまは美しく、一つまた一つと星になっていく。

彷徨さまよい歩いていた人達も夜空を見上げ、星に宿ることができた者から一人ずつ空に溶け込むように消えていった。


そう、これはさよならではない。

空からいつでも大切な人は家族を見てく

れている。

そして、家族もまた星を見るたびに

大切な人を思う。

いつでも、いつまでもずっと繋がって

いる。

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星宿 梅田 乙矢 @otoya_umeda

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