第13話史恩との会談
梅史恩の赤い瞳が淡く輝く。それは魔術めいた美しさであった。
女城主史恩はぷかりぷかりとキセルを吸い、白い煙をはく。
「ふむふむ、乳周りは九十三
赤い瞳で見つめながら、史恩は言う。
たぶんだけど史恩は私の体周りの大きさを言っているのだろう。
木蓮の前でそんなことを言われて、恥ずかしくてこの場から立ち去りたい気分になった。
「なるほど、たしかに真名に桜紅音とある。年は十八で剣術は日向流をおさめていると。状態異常になっているな。魔女の呪いを受けている。それで顔が変えられているのか……」
女城主は私を見つめながら、ぶつぶつと言った。
よくわからないが、どうやら私が本物の
しかし、不思議な能力だ。
見ただけでその者が何者かわかるなんて。
「ふふふっこいつはね、宝来島の朱魅山に住む魔女にもらったんだよ」
史恩はその不思議な瞳の由来を教えてくれた。
「どうりで桜都の様子がおかしいと思っていたけど、まさか偽者と入れ代わっていたなんてね」
煙草の葉を小姓に詰め替えさせ、新しい物を史恩は吸う。
「おそれながら、史恩様。摩耶はおいとまをいただきたく思います」
深く頭を下げて、摩耶は言う。
「そうかい、わかったよ。おまえの本当の主人が生きていたんだ、そっちに行くといいさ」
女城主史恩はあっさりと摩耶が辞めるのを認めた。
「それで紅音殿、あなたはどのようになさるのかな?」
史恩は私にきく。
「私はこの国を取り戻したい。恐怖と力でおさえこむことはこの国での内乱の原因となり、不幸な戦いと死を生むだけです」
私は女城主に言う。
「そうだね、あたしも前の大君のやり方の方が好きだったよ。あまっちょろいけど藤のやり方よりも何万倍もいいね」
史恩は言う。
そこまで褒められるとなんだか、気恥ずかしい。
「よし、あたしもあんたにつこうかね」
ぽんっと魅力的な太ももを叩き、史恩は言った。
どうやら、この女城主は私の味方になってくれるようだ。
「前々から藤幻夜のやり方が気に入らなかったんだよ。あんなのはそう長くは持たない、一過性のものだ。それに奴ら、あつかましくもこのあたしに軍資金の供出を要求してきた。あいつら金はどこからか湧いてくるとでも思ってるのか」
史恩は苦々しい口調で言う。
藤幻夜が要求した軍資金は三万両だという。
出せないこともないが、一度出してしまうと際限なく要求されるのは明らかだ。
「一銭を稼ぐ苦労を知らぬ者のやり方ですね」
呆れた口調で木蓮は言う。
ほんのわずかな利益をだすのに商人がどれほど頭をひねり、知恵をしぼっているのか考えたことがあるのかと木蓮は言った。
「本当に蓮華屋の言う通りだ。やつらは金の大事さがわからない。言えば誰かが持ってくるものと思っている。しかし、我が領地を守る兵は藤に比べれば圧倒的に少ない」
史恩はため息をつく。
梅家の領地はこの貿易港坂伊とその周辺のわずかな土地だけで、今や天弓国の四分の一を支配する藤家に対抗するにはあまりにも心もとない。
かと言って藤家の財布となるのは独立した諸侯としての矜持が許さない。
牛の尾よりも鳥の頭となることを女城主梅史恩は望むようだ。
「そうだ、紅音殿。あなたも朱魅山に住む魔女に会われたらどうですか?」
史恩はそう提案する。
「宝来島の朱魅山に住む魔女……」
私は史恩の赤い瞳を見て、言った。
「紅音殿がこの国を取り戻したいのなら、その魔女の力がきっと必要になる。誇り高いあの魔女は人をやって来るような者ではない。紅音殿自らが出向き、その力を借りるべきだ」
史恩は言う。
私は史恩の言葉に頷く。
万を越える軍を持つ藤幻夜に対抗するには御雷衆の始祖でもあるその魔女に会い、力を借りるべきだと私も思った。
翌日、私たちは貿易港坂伊の南海に浮かぶという宝来島に出立することになった。
天に弓引く国の物語 赤髪の優しき姫は流転する 白鷺雨月 @sirasagiugethu
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