第12話女城主史恩

ひとしきり再会を喜びあったあと、私は摩耶に虎将の居所をたずねた。

摩耶は首を左右にふる。

「兄の居所はわかりません。あるいは白也なら知っているかも……」

摩耶は言った。

白也なら、木蓮の屋敷にいる。

すなわち、白也のあとをたどればいずれ虎将のところにいけるということか。

「兄は藤幻夜のまつりごとに反感を抱いておりました。前の姫殿下の方がよかったと何度も言っていました……」

摩耶は緑茶を飲み、そう言う。

「各地で藤幻夜のまつりごとに不満を持つ者たちが各地で暴動や反乱を起こしつつあるという。もしかすると虎将殿もそのどれかに参加されているかもな」

筋肉質の腕を組み、木蓮は言った。

苛烈な藤幻夜の政治に不満をもつ民衆が各地で反乱をおこすものの、そのすべては黒獅子兵団によって鎮圧されているという。

そして反乱に参加したものはただの一人の例外なく処刑されていると木蓮はそうつけ足した。


「恐怖をもっておさめるか……」

私は一人言のように言う。

恐怖によって人に言うことを聞かせればそれは素直に従うだろう。誰しも自分の身が大事だからだ。しかし、それは本心からではない。そのようなことでは、いずれ大きな反乱につながる。

同じ国の者同士で戦うなど愚の骨頂だ。そのすきをつかれて侲帝国あたりに攻めこまれたら、目もあてられない。

いずれにしても虎将にも会いたい。


「この国をどうしたい?」

木蓮は私にきく。


「この国をとりもどしたい。やはり藤や咲希のやり方は間違っている。強く美しい者だけが生きればいいなんてのは思い上がりに過ぎない。誰も飢えない、苦しまない世をつくりたい」

私は木蓮に言った。

その言葉を聞き、木蓮はにこりと微笑む。

「甘い考えかだな。でもそんな考えの紅音が私は好きだ」

木蓮は平然と言う。

急に好きだなんて言うから耳の先まで赤くなったではないか。


「まあ、蓮華屋さんは女たらしでございますね」

はははっと摩耶は笑う。



「私がつかえるのは紅音様だけです。紅音様が生きているのがわかったからには梅史恩様のところを辞そうと思います。そうですわ、紅音様も女城主様に一度お会いされたらどうですか?」

摩耶はそう提案する。

たしか蘭士元が天女のように美しいと言っていたな。


この後、摩耶の取り計らいで女城主梅史恩ばいしおんと面会することになった。

私と木蓮は摩耶の案内で梅史恩の居城である南梅城に登城した。

私たちはその城にある客間にとおされた。

その部屋は沙参王国でつくられた豪華な絨毯がところせましとひかれ、侲帝国でつくられた美しい白磁の壺がいくつも置かれていた。

この部屋だけを見てもこの貿易港坂伊を領する梅家がいかに潤っているかが理解できる。


ほどなくして女城主梅史恩がその部屋にはいってきた。虎柄の着物を着た、金色の髪をしたそれは美しい女性であった。大きく胸元が開いていて、あふれんばかりに豊かな胸の谷間がみえる。

そして梅史恩は宝石のような赤い瞳をしていた。

南の赤眼姫、それが私の目の前で悠然と椅子に座り、足をくむ梅史恩の異名であった。

「蓮華屋か、久しいな」

ややかすれた声で梅史恩は言う。

美しい小姓からキセルをうけとり、それを吸い、ぷかりと白い煙を吐いた。

「摩耶よ、その者が本物の大君と自称するものか」

梅史恩はその赤い瞳で値踏みをするように私を見た。

「それではこの赤宝眼ガーネットアイでおまえの素質ステータスを見てやろう」

妖しく梅史恩は微笑んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る