ENDING
エピローグ
LOVという、世界で10億人以上がプレイしていたオンラインゲームが運営会社ごと消滅したというのに、世間ではそれについて一切触れられることはなかった。
もしかしたら、テラの力でそんなゲームが存在していたことすらなかったことにされてしまったのかもしれない。
だが、少なくともリョウと沙也加とメイの三人は、LOVのことやオロチ本社で起きた出来事をはっきりと覚えていたし、何なら視界の左端のメニューアイコンも未だに見えたままだった。
まあ、日常生活で邪魔になることもないし、気にしなければそのうち見えなくなるだろう。
ともかく、オロチ消滅から数日がたち、拍子抜けするくらい平和な毎日が戻って来た。
夏も終わりに近づいた、土曜日の昼下がり。
まるでラストスパートとでも言うようにギラギラと降り注ぐ日差しの中、陽炎がゆらゆらと踊る早稲田通りを、リョウは自転車で疾走していた。
空はびっくりするくらい青く、一筋の飛行機雲が定規で引いたみたいに綺麗に空を二分割していた。
「おーい、リョウくーん!」
高田馬場駅の券売機前、日陰になった場所から沙也加が手を振っている。
白いノースリーブのブラウスにジーンズ、麦わら帽子という爽やかな服装で、太陽よりもなお明るく元気に輝くような笑顔をこちらに向けていた。
「悪い、お待たせ!」
リョウが自転車を降りて言うと、沙也加は首を振った。
「私もちょうど今着いたところだよぉ」
「そっか。とりあえず、暑いから早く行こうぜ」
リョウは自転車を手で押しながら、沙也加と並んで歩き出す。
目指すのはもちろん、ゲームセンターのミカドだ。
「リョウ君、ちょっと日焼けした?」
沙也加がリョウの顔を覗き込んでくる。
大きな瞳に、アスファルトに照り返した光が映ってキラキラと輝いている。
「そうかな? 自分じゃわかんねーけど……」
リョウは思わず目をそらした。
距離が近いと何だか緊張してしまう。
「うん、健康的でいいと思うよぉ」
沙也加は、そんなリョウの横顔を見ながら微笑んだ。
ミカドに到着すると、二階ではちょうどメイとサチがスト
サチはあの日以来、毎日のようにミカドに来ているらしい。
それどころか、彼女のゲームの腕前はリョウから見てもなかなかのもので、しかもものすごい勢いで成長していた。
事実、ストⅢで無敗のメイが、今まさにサチ相手に苦戦を強いられている。
メイの使用キャラはケン、サチの使用キャラはトゥエルブだった。てか、初心者のくせになんちゅーマニアックなキャラを使うんだよ。
向かい合わせになった対戦台の裏表で、二人のうしろにはそれぞれの応援団が集まり、全員が固唾を飲んで画面を見守っている。
ちなみにメイよりもサチの方が応援団が多いのは、普段メイにボコボコにされているプレイヤー達がサチに仇を討ってほしくて応援してるからだろう。
二人の体力ゲージはどちらも残りわずか。あと一撃でKOしてもおかしくない状況。
互いに間合いを探り合い、牽制を繰り返していたが、タイムが残り十秒を切って点滅し始めた時、遂にサチが意を決したようにジャンプで飛び込んだ。
メイのフードの下の目がキラリと光る。
「サチ、この状況で甘えが出たようっすね! 死ねぇー!」
コマンド入力しながらメイが叫ぶと、画面が暗転する。
対空で神龍拳……!?
これは終わった……そこにいる誰もがそう思った。
サチ以外は。
「メイさん、甘えたのはあなたの方ですよ! 無敗伝説をここで終わらせて差し上げましょう!」
ガキンガキンガキンガキンガキィーン!
「ゲッ!!」
メイの顔が青ざめる。
神龍拳を全部ブロッキングしやがった!?
そして暗転する画面。
「しかもここでスーパーアーツかよ!」
トゥエルブが突進し、空中でケンの体をズタズタに引き裂く。
ズバズバズバズバシャーッ!! キュイーン!! ユーウィン!
「やりやがった……」
「「うおおおおおお!!」」
店全体に響くような大歓声が巻き起こった。
「や、やりました! ついにメイさんを打ち破りましたよ!」
立ち上がってガッツポーズをとるサチ。
サチの応援団はもちろん、メイの応援団も歓声を上げてサチの勝利をたたえる。今にも胴上げが始まりそうな勢いだ。
「わあ、サチさんすごーい!」
沙也加も応援団にまざって、パチパチと拍手を送る。
「くそーっ、こんなに負けて悔しいのは生まれて初めてっす。リベンジっすー!」
メイも立ち上がり、本気で悔しそうに叫んでいる。
「ぶっ、くくく……あーっはっははははは!」
リョウは思わず爆笑してしまった。
自分でもびっくりするくらいの大爆笑。
こんなに心の底から笑ったのは、何年ぶりだろう。
考えても思い出せないくらい、本当に久しぶりだった。
「あっ、神主様! 私の雄姿、見てくれましたか!?」
サチがリョウに気づき、笑顔で駆け寄ってくる。
「あーっ、コラ! 勝ち逃げは許さんっすよー!」
「わああああ」
メイがサチの腕を掴んで引っ張り、席に引きずり戻す。
「あはは、ちょっとメイちゃん、必死過ぎぃ」
沙也加がそんな二人を見てケラケラと笑い、リョウも腹を抱えて笑った。
笑いすぎて、楽しすぎて、涙が出てしまった。
思えば、夏休みが始まった頃は、人生なんてクソゲーみたいにつまらないって思っていた。
でも、それはきっと間違っていたんだろう。
人生を最悪のクソゲーにするのも、最高の神ゲーにするのも、プレイヤーである自分次第なんだ。
ならば。
俺の人生が最高の神ゲーになるように。
この仲間たちと一緒に、全力で楽しんでやるぜ!
<END>
神がかりゲーマーズ:俺の人生は神様が遊ぶゲームだった。しかもバグって詰んでた件 あいきんぐ👾 @gameandnovel
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます