冒涜バトル 遺体キングブレード!

適当

絶対冒涜遺体デスバトル!  未来ホビーは死体遺棄!?

 やあ、みんな! 今日も元気に遺体投げてるか? 俺は、左前ひだりまえデス。遺体を愛する小学生5年生さ! 

 人の死体と、それを使った最新のバトルホビー“遺体バトル”が、何よりも大好きなどこにでもいる小学生ってやつなんだ。

 俺の夢は、俺に遺体バトルを教えてくれた爺ちゃんの遺体とともに、全国大会を勝ち抜くこと。だけど、そんな遺体バトルを金儲けの道具にしようとする悪い奴らの影が……。遺体を冒涜するやつは、絶対ゆるせねえ! 

 爺ちゃん、地獄で見ててくれよな。

 火葬場より熱い、俺の遺体スピリッツを!!


──西暦200XX年。


 混迷を深める世界情勢と多死社会化により、某国では死亡数が出生数の50倍を上回る異常事態が発生。人々は、日々増え続ける膨大な遺体の処理に悩まされ、火葬場は数年先まで予約で満杯。効率化のために知らない家族同士が同時に葬式を上げ、自殺する前に葬儀場の予約を確認せよと言われるほどの大葬儀時代。

 コンビニよりも墓地のほうが多いと言われるそんな時代に、政府は遺体の埋葬を原則禁止とした。そして、防腐処理を施した遺体を各家庭で100年以上保管し続けなければならない「遺体保存法」を制定したのである。

 あまりにも急な決定に、置き場のない遺体の処理に困る人々が続出。遺体は粗雑に扱われ、人々の間で死は別の意味で忌避されるものとなっていた。そこに現れたのが葬儀屋からホビー企業へと転身した巨大企業・ムクロシス社だ。同社が遺体を活用すべく発案した“遺体バトル”が子供たちの間で大ヒットを飛ばすや否や、それまで捨てられぬ無用の長物と化していた遺体の存在価値が一変。今では、大衆の間で知らない者はいない巨大な娯楽へと変化を遂げたのである。

 最新の防腐処理によって、丈夫で長持ち。多少の衝撃では損壊する心配がない遺体は生前の身分や貧富の差を問わず、頑丈で壊れない玩具として第2の人生を歩んでいく。当初は「人の尊厳を弄んでいる」「別に遺体じゃなくてもよくない?」「フィールドから飛び出したおじいちゃんが、隣の家の塀に刺さった」などの苦情が相次いだものの、子どもたちの間で広がる爆発的なブームとそれに伴う経済効果は、遺体バトルを認めさせるのに十分な効果があった。


──それから数十年の時が流れた。


 遺体のある日常が当たり前となった現代では、今日もまた各地で遺体バトルが行われていた。しかし、生があれば死もあるように、光もあれば影もある。

 近年では、強力な遺体を求めて殺人を行ったり、葬儀場を襲撃して良質な遺体を奪う違法バトル集団の存在が社会問題となっていた。それに伴う違法の賭け遺体バトルの存在だ。国が認めた公営競遺体バトルではない、ルール無用の闇の遺体バトル。反社会組織による遺体量産。丈夫で壊れない遺体を軍用兵器として利用する独裁国家。人々は、死んでからも自らの尊厳を揺るがす問題に悩まされていた。

 もっとも、そうした遺体をめぐる頭の痛い問題はあるものの、表向きには各ご家庭に存在する遺体を使った競技・遺体バトルが健全に行われ、人々はその熱狂に身を委ねていた。遺体を活用したホビーは法的にも社会的にも認められ、遺体バトラーは子供たちの間で「なりたい職業ナンバー1」に輝く。かつて人気を博していた有名な芸能人やyoutuberの遺体を相棒に戦うプロの遺体バトラーたちは、老若男女問わず憧れの的となっていた。

 遺体バトラーを目指す子どもたちは、ムクロシス社が開催する「遺体バトル世界宇宙全次元パラレルマルチバース大会」の優勝を目指し、自らの遺体テクニックを磨き続ける。大人たちは一攫千金を求めて遺体の研究を続け、老人は孫の力となるべく質の良い遺体となるための老後を過ごす。この物語の主人公・左前デスも、その1人。遺体バトラーを目指し戦い続ける、小学5年生だ。

 これは彼が悪の秘密結社ネクロ団と戦い、その過程で1人前の遺体バトラーとして成長を遂げ、結婚し、子孫を残し、自らも最高の遺体となって次代へと継いでいく途中で打ち切りとなる戦いの記録である。


「あ、あれはまさか……まさか、まさかでやんす!」

「あれがわかるのか!? 知ったかぶり!」

 左前デスが、背後にいる相棒の方を振り返って叫んだ。

“知ったかぶり”と呼ばれた少年……奏須賀熱斗そうすが ねっとは、デスの相棒として知られる同級生だ。ビン底のようなメガネをかけた博士っぽい見た目と、含蓄のありそうな発言。やんす口調によって、何か知的な雰囲気を漂わせている彼は、デスの親友であり相棒である。内容はまったくもって見当違いでありながらも意味がありそうな発言をすることから、彼は周囲から“知ったかぶり”と呼ばれていた。

「いや、もうまったく見たことがないでやんすけど、どこかで見たことがあるような気もするでやんす。これは、おそらくディジャヴというやつでやんすよ」

「ほーお、まさか。この世界初公開の遺体バトルフィールドに既視感を抱くとは……ネクロ団でも知っている者は少ないはず。貴様、いったい何者だ?」

 フィールドを挟んでデスと対峙している対戦相手、ネクロ団幹部・ヨサノア紀行きこうが探りを入れるように知ったかぶりに視線を向ける。

「あ、世界初公開だったでやんすか。じゃあ、気のせいでやんす」

 知ったかぶりは、いつも知ったかぶる。

 それ故に、対戦相手はまるで自分の秘密がバレてしまったかのように重大な情報を漏らすのだ。

 左前デスが、彼を相棒として信頼している理由がそこにあった。人間としては信用していない。こんなやつ信用できるわけないだろ。


「おーーっと! 突然始まった野良遺体バトル! 喪主はわたくし、遺体バトルを実況して40年。今日も本業の医者と掛け持ちで行う審判業! 医療ミスッターの愛称でおなじみ、ミスターうんちがお送りします!」

 野良遺体バトルが始まると、どこからともなくやってくるという野良喪主(遺体バトルでは、審判を喪主と呼ぶ)も現れ、遺体バトルの準備は万全だ。デスは、たまたま肩がぶつかっただけという成り行きとはいえ、ネクロ団の幹部と遺体バトルを行うことになってしまっていた。これが、彼の運命を変えるバトルとは知らずに……。

「すげえバトルエネルギーだ! やつらの熱気で火葬場が燃えてやがる!」

「今にも遺体が生き返ってきそうな雰囲気だぜ……」

「美しい……まるで死にたての遺体じゃないですか」

 いつの間にかやってきた野次馬たちに囲まれ、左前デスはこれまでにない緊張感を味わっていた。これまで遺体バトルは数えきれないほど行ってきた。だが、この男は何かが違う。

「見せてやろう。これが我が遺体。我が妹、デスしずかよしえ!」

 ヨサノア紀行が棺から担ぎ出した遺体は、常軌を逸していた。年端もいかぬ美しい少女の全身に、禍々しいまでに取りつけられたレーザー銃。これが野良遺体バトルだとはいえ、反則ぎりぎりの軍事兵器だ。小学生同士の戦いに、このような兵器を持ち出してくるとは、デスに取っても予想外だった。

 

「ま、まさか。あの野郎信じられねえ! 妹の遺体にレーザー銃を装備してやがる」

「なんだって!?」

「超高齢化社会と医療の発展から、ただでさえ子どもの遺体が少ない時代だ。年端もいかぬ妹の遺体というだけでも高得点なのに、あの野郎。信じられねえ兵器をつけてきやがった。きっと親が金持ちなんだ」

「そうだな、絶対親が金持ちなのよ」

「親が金持ってるといいよな」

「親が金持ちだな」

 野次馬たちの言葉に、ゴクリとつばを飲み込むデス。

「親が金持ちなのか……」

「では、今こそ君、死にたまえ!」

 ヨサノアは高らかに宣言すると、バトルフィールドに向けて遺体を投げ込む。

「ま、待つでやんす!」

……投げ込むところであった。

 それを止めたのは、知ったかぶりのひと言。

「な、なぜ小学生なのに遺体にレーザー兵器を装備できるでやんすか? 親が金持ちなのでやんすか?」

「親が金持ち……ではない!」

「では、どうしてでやんす!」

「親が金持ちではないし、小学生でもないからだ」

 ヨサノアが反論を返す。

「背が低いだけで、私は立派な社会人であり大人なんだよ!」

 意外な反論だった。それは誰に取っても予想外。ヨサノアは大人だったのだ!」

「そ、そんな……あんたは大人なのか」

 デスがかぶりを振る。

「だとしたらなぜ、こんなことをするんだ。大人なのに!」

「見苦しいでやんすよ、大人なのに!」

「大人なのになあ」

「そうよ、大人なのに!」

「大人が子供相手にレーザー兵器を持ち出すのはありえねーよな」

「大人げない……」

 そういえば、そうだ。大人なのに……。何を考えているんだ大人なのに……。少年たちの的確なツッコミを受け、観衆もざわめく。人々は口々に「大人なのに」と囃し立てた。大人なのに何をしているんだ。大人なのに、大人なのに……。


「黙れ!」

 その合唱をヨサノアが一喝する。

「大人だからやるんだ! そう、大人だからやるんだよ」

 怒りの形相を崩さぬまま、ぽつり、ぽつりと言葉を紡いでいく。

「俺は、子どものころ流行り始めた遺体バトルを禁止されていた。不謹慎という理由で、大人たちは俺から母の遺体を奪って荼毘に付したんだ! あの頃の、友達と一緒に親族の遺体で遊びたかった想いは、もう戻ってこない。来ないんだよ!」

 激昂するヨサノア。引いていく観衆。光り輝く遺体。


 戸惑う人々のなかで、ただ1人。デスはその騒ぎを静かに見ていた。

 そして、ゆっくりと口を開く。

「霊夢、それは間違ってるんだぜ。ええっ、なんでよ魔理沙」

 正確には、ゆっくり実況の口調で言葉を紡いだ。ゆっくり実況は200XX年の現代においてもっとも流行っている挨拶であり、冠婚葬祭あらゆる場面で使う儀礼なのは、これを読んでいるみなさんも知っての通りだ。

「ヨサノア……。お前は間違ってるんだぜ。遺体バトルは大人でも楽しいんだ。だから、いつ遺体で遊んだっていいんだよ。だって、人はもう生き返らないんだからな。遺体も文句は言わない。大人だって、子どものレギュレーションで戦うべきなんだ。そうなのね魔理沙。私知らなかったわ。チャンネル登録お願いします」

 丁寧にチャンネル登録までの一文を並べ、相手に対する礼儀を持ってヨサノアの間違いを指摘するデス。それは、かつて2000年代に流行ったというゆっくり実況を完璧に思わせる姿だったのだ。


(そうじゃ……デス。お前は今、真の遺体バトラーとしての矜持を得たのだ)


 その時、どこからともなく老人の声が聞こえてきた。威厳を伴い、死後の世界から響くようなくぐもった声で、されどはっきりとした老人の声が聞こえてきたのだ。

「この声は……じいちゃん!」

「え? なんでやんすかこの声? どこから聞こえてるでやんす?」

「じいちゃんの霊が遺体から呼びかけてるんだよ!」

 デスは、自らの相棒であり、今から遺体バトルとしてフィールドに投げ込もうとしていた祖父の遺体を眺めた。じいちゃんが、あの世から語り掛けてきた。デスが立派な遺体バトラーになったことをじいちゃんが認めてくれたんだ。


 デスが感慨にふけっていたまさにその時、遺体から録音機器(超未来なのでスマホではなく、特殊な薄い録音機器が使われている)が滑り落ちた。

「違った。科学の力だったわ」

 科学の力であった。


 次回予告:デスの敗北。爺ちゃんの遺体がバラバラになっちゃう!? 


「負けないで左前くん。私、遺体を弄んでる時のあなたは、死蝋のように光り輝いてると思う。誰よりも死の魅力に取りつかれたあなたが負けるはずがないわ!」

 ヒロインの応援に気合を入れ直すデス。ヨサノアとの戦いは佳境へ。

 そして、戦いは新たな局面へと突入する。


「あれは! 遺体バトルのすべてが書かれているという魔法の書でやんす!」

「なんだって!? あれがわかるのか!? 知ったかぶり!」

「昔、amanozのsindle《シンドル》(電子書籍販売のサイト)で売っているのを見たことがあるでやんすよ。著者が執筆していた適当なゲーム史の本と一緒に販売停止になってしまったでやんすが……。当時でたらめだと回収騒ぎになったでやんす。サンプルだけなら、今でもイラスト投稿サイトのピクシヌで読めるでやんすよ。ただ、“続きはクリエイター応援コミュニティ・ファンボッタクッティアで”と書いてあったので、支援しないと最後まで読めないでやんすが……。あっしは動画サイトとイラスト投稿サイトは無料と決めているので、中身の確認はできてないでやんす」

「そこまでわかれば十分だぜ! 有益なようであまり意味がない情報だったが、十分役に立ったぞ。勝負だヨサノア! じいちゃんと俺は負けない!」

 

 度重なる過酷な遺体バトルにデスの祖父・左前切腹きりはらいの遺体は、もはや崩壊寸前。仮に少しでも傷つけば、デスは死体損壊等罪に問われてしまうかもしれない。

 このままでは遺体バトルが続けられない。絶望するデスの前に現れたのは、全身に無数のキャンドルと仮面をつけているが、顔だけは何もつけずに素顔を晒す謎の男・キャンドル仮面だった。彼に案内されたデスが目にしたのは、家で待っていたはずの母の遺体。「この時のために殺しておいたのだ……」。胸につけていた仮面をはずしてそう答える男の顔は、指名手配犯の父だった。

 良質な遺体を求めて殺戮を繰り返し、行方をくらませていた父・左前冥銭めいせん。彼が消えた理由、それはすべて遺体バトルに勝つためだったのだ!

 父の意志を受け取ったデスは、母の遺体を新たな相棒として再び遺体バトルに挑む。その後ろ姿を満足げに眺める父。その父を囲む警察官。デスの通報が父を牢獄へと追い込むのか。一方、ネクロ団は最強の遺体を求め、団長自らが遺体になる即身仏の儀式を決行。辛い決断を受け入れたヨサノアは、団長が入った巨大な木箱を地面へと埋めた。やがて、空気穴として刺した竹筒から洩れ聞こえてくる団長の決意。時折、「ごめんやっぱなし言い過ぎたなしだってごめん出してマジで出してねえ出して出して! やだやだやだ出してくれよねえやめるってだからねえ!」とも聞こえかねない幻聴が風の音に混ざるものの、団長の決意を無駄にしてはいけない。


 しばらくしてヨサノアが木箱を掘り起こすと、中にいた団長は苦悶に満ちた表情でそこにいた。箱を両手で叩くように腕を折り曲げ、あまりにも奇怪な姿で遺体となっていた団長。それは、まさに遺体バトルにとって最適な角度の遺体。これならデスにも負けることはない。自らの命をもってヨサノアにすべてを託した団長。傍らには、事前に書かれていた遺書。そこにはヨサノアへの激励と、彼にネクロ団を託すという団長の遺言、それを二重線でぐしゃぐしゃに取り消したあとがあった。

 遺体が入った木箱の壁には、爪でかきむしるように「だから出せって言ったじゃねえか! 助けて誰かちくしょう許さねえぞヨサノア」と読めなくもない傷がつけられている。それはきっと、ヨサノアの心の弱さが見せた幻覚であろう。

 ヨサノアは木箱を火にくべてデスとの再戦を誓う。それは、リベンジに燃えるヨサノアの魂であり、火葬場の温度。1200度の炎となって燃え上がる復讐の炎だったのだ! あやうし、デス。彼は再びヨサノアに勝てるのか!? 


 次回、「デスの敗北。爺ちゃんの遺体がバラバラになっちゃう!?」


 物語の苦情は、あの世で受け付けるぜ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

冒涜バトル 遺体キングブレード! 適当 @boutkanegat

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る