第3話 転生魔王の夢
「蒲池さんは帰られましたのに、青柳さんは帰らないのですか?」
今後の計画について話し終わった後、知事は帰宅したが、俺は知事の部屋に残って、佐藤さんを迎えに行っていた時、さっきまで不在だった時に届いた郵便物の確認をしていた。
「こう言うのも、秘書の仕事なんですよ。郵便物にカッターナイフが入っていたり、殺害予告入っていたりしたら、知事の命にかかわりますからね」
「大変ですね」
「師匠は帰らないのですか? 帰るなら、私が送りますよ。奥多摩なら、夜遅くなったら、危ないですし」
知事は、大切な師匠を置いて帰ってしまったが、佐藤さんは怒る事も無く、普通に部屋に貼られている日本知事をじっと眺めていた。
「送らなくても良いですよ。私、これから青柳さんと住みますから」
「……何ですって?」
「これも蒲池さんの指示です。私、青柳さんとこれから行動するようにと、前から言われていました」
実家暮らしではなく、都内のマンションで一人暮らしだから、急に女子高校生が部屋に来ても大丈夫――ではないが、一つ屋根の下で、女子高校生と住むと言うのが問題だ。知事の秘書が、女子高校生と同棲なんてマスコミに知られたら、知事の辞任に発展するかもしれない。
「引っ越しの心配は心配なく。あの家は、私の魔力の半分で作り出した幻なので、あの山の中に、家は存在しません。最低限の物は、あの部屋に移動させてありますので」
「後に、奥多摩の怪談として受け継がれないですか?」
「あ、心配なく。そういった事も、ちゃんと対処しておきました。近所の人たちの、ここ数日間の記憶を、消しておきましたので」
そう言った事も、躊躇なくなるところは、魔王の名残なのだろう。
「青柳さんの護衛ぐらいできます。最近、強盗や通り魔事件が頻発しているので、夜道も安全。それと家事も出来ますので、秘書の仕事で疲れている青柳さんの代わりに、私が洗濯などの家事をやりましょう」
「それだと、佐藤さんの勉学に支障が出ませんか?」
「大丈夫です。高校で習う事は、すべて覚えているので、成績は心配なく」
家事は確かに面倒なので、いつもコンビニ弁当で、部屋の掃除も気が向いた時ぐらいしかない。俺もやらないといけないが、佐藤さんがこう言っている以上、佐藤さんの言葉に甘えても良いかもしれない。
「佐藤さんが、嫌では無ければ、私は大丈夫です」
「私は平気です。私は待っていますので、ゆっくりと郵便物の確認をお願いします」
そう言って、佐藤さんは思案顔で、ずっと日本地図を見つめていた。佐藤さんも本気で、日本全土を東京都にしようと思っているのだろう。どうして佐藤さん、異世界の魔王が、知事に協力しようと思ったのか、それが疑問に思いながら、郵便物を確認した。
俺のマンションは。新宿から30分ほどの国分寺市にある。23区と比べて家賃も安く、インフラも店なども充実していて、住みやすい街だと、個人的に思っている。
「満員でしたね。このような乗り物を毎日乗っていたら、業務をする前に疲れてしまうでしょう。私がこれからワープで送ってあげましょうか?」
「ありがたい話ですけど、定期もあるので、最低元を取るまでは、乗らないといけませんよ」
「そうですね。すぐに甘えてくる輩じゃなくて、私は安心しました」
猫を被っていた佐藤さんも。少しずつ毒を吐くようになってきたするが、俺は。駅から徒歩で10分のマンションに案内した。
「ま、散らかっていますけど、上がってください」
一人暮らし向けの、1Rの部屋だ。
「お邪魔します」
佐藤さんは、礼儀正しく、玄関で靴を並べた後、紙袋を俺に手渡した。
「これからお世話になりますので、さっき買ってきた、お菓子です」
「……さっきっていつですか?」
「移動中です。25分間、退屈だったので、残った魔力でワープして、百貨店で買ってきました」
普通の女子高校生を目指しているなら、そう言ったことを、軽々しくやるものではないと思いながら、紙袋を受け取って、俺は頭を下げた。佐藤さんは、俺の横にいたはずなのに、消えていたことに気が付かなかった。
「それと、私ぐらいなら、口調を崩しても大丈夫ですよ。敬語が堅苦しいと言うか、無理して言っている感が、否めません」
「……試してますか? すぐに楽な方を選ぶ、馬鹿野郎じゃないかって」
「それは、青柳さん次第です」
佐藤さんは、手で隠しながら、大きな欠伸をしていた。
「まあ、蒲池さんがいない方が、話しやすい事もあります。青柳さん、今日もお疲れ様です。明日からは料理しますので、今日はテイクアウト品でお願いします」
「それも移動中に?」
「はい。25分って、それぐらい出来てしまうぐらい、膨大な時間なのです。じっと電車の広告を見ているなら、スマホで電子書籍を読んでいた方が、有意義だと思います」
庶民的な考えも持つ魔王様だが、そう言った面は、この世界の女子高校生らしいと思った。
「秘書って、頭をめっちゃ使うんですよ。だから、頭を休めるためにも、ボーっとしていた方が、楽なんですよ」
「一理ありますね。そうならないよう、私も協力しましょう」
ファミレスの料理をテイクアウトした佐藤さんは、俺の分を差し出した後、俺にこう言った。
「青柳さん。どうか蒲池さんの夢、野望を止めるために、私にも協力して欲しいです」
東京が小さくて何が悪い? ~そう思うのは、俺だけじゃなくて、魔王様だって思うはず~ 錦織一也 @kazuyank
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