第2話 最年少都知事の夢


 知事の部屋の扉をノックすると、知事の声がしたので、俺はゆっくりと扉を開けた。


「失礼します。青柳、只今戻りました」


 危なかった。数秒前までは、魔力を無くした後遺症として、『スリジャヤワルダナプラコッテ』しか話せていなかったが、タイミングよく、その後遺症が治ったようだ。


「ご苦労様」


 歴代最年少、30歳で東京都の知事になった、蒲池大祐は、容姿は至って普通だ。

 そこら辺で歩いている、一般人のような風貌。特に高学歴でもなく、高卒で、知事になる前は、工事現場で働いていたと言っていた。


「知事の師匠、佐藤様をお連れしました」


 俺がそう言うと、佐藤さんは知事の部屋に入って、知事に向かってお辞儀をしていた。


「蒲池さん。改めまして、東京都知事就任、おめでとうございます」

「ありがとうございます」


 知事は席を立って、そして佐藤さんの前で、深々と頭を下げた。


「師匠。こんなこじんまりとした都庁では狭いでしょう?」

「狭くはないですよ。魔王の居城より高くて、むしろ感心しています」

「ははっ! それはありがたいお言葉です!」


 知事は、もう一度、多く頭を下げていた。この事は、副知事とか都議会議員は、知っているのだろうかと、この異様な光景を眺めていると、佐藤さんは知事にこう言った。


「その前に確認します。これから先、青柳さんも関わらせる気ですか? 青柳さんは、蒲池さんの秘書と聞いています。秘書の方を、この先どうなるか分からない取り組みに、参加させる気ですか?」

「僕は無理強いを言いません。それについては、青柳の意思を尊重します」


 知事は、僕の今後を聞いてきた。


「私は、どんな突拍子のない事をしようが、知事について行くと決めています」


 俺は、知事のカリスマ性、知事の考えに惹かれて、知事の秘書になった。

 これから衰退して行く日本を変える為、まずは首都の東京から変えるという、今後の日本のことを考えている知事の意見に、俺を含めて、多くの都民が賛同したのだろう。


「青柳さんが、そのような考えなら、私もスムーズに物事を進められます。改めまして、私は都内の高校に通う、普通の女子高校生、佐藤花子です。これからよろしくお願いします」

「普通を貫くんですね……。こちらこそ、蒲池知事の秘書をしております、青柳と申します」


 前世が魔王だったことは隠したいのか、佐藤さんは、普通の女子高校生を強調して、話していた。


「師匠。わざわざ都庁に来てもらって申し訳ないのですが、早速今後について話したいと思っています。と言うことで、早速に行きたいと思っています」


 盗聴を恐れているのか、知事は別の部屋で話すつもりらしい。


「残念ですが、青柳さんと車をワープさせてしまったので、魔力はすっからかんです」

「僕の魔力を使ってください」

「秘書を身代わりにする薄情な人では無いことに、私は安心しています。今回は3人分なので、しばらく話さないことが吉だと思います」


 佐藤さんは、知事から根こそぎ魔力を貰った後、佐藤さんは俺たちを別の部屋にワープさせた。




 佐藤さんが、俺たちをワープさせた場所は、俺が先程までいた、佐藤さんの家の居間だった。


「私が魔王だったから、大きな玉座でも置いてある、謁見の間みたいな場所を想像していましたか? そう言うのが好みなら、変えてあげましょうか?」

「出来るのですか?」

「はい。私の家、魔力で作っていますから」


 佐藤さんが小さく手を叩くと、一瞬でヨーロッパにあるような、煌びやかな内装、学生の頃の教科書で見た、ベルサイユ宮殿のような部屋になった。


「落ち着きますか?」

「……さっきのが良いです」

「美を求めすぎるのは、愚行だと言うことを、覚えておくと良いでしょう」


 佐藤さんが、小さく手を叩くと、さっきの四畳半の小さな部屋になった。日本人だからか、こう言った、畳があって、ノスタルジックな空気に落ち着いてしまう。


「蒲池さんが、現在話せないと言うことで、私が代わりに説明をしましょう」


 知事は、この部屋にワープしてから、すぐに正座をして、黙り込んでいた。知事が何の言葉しか話せないのかは気になるが、俺もすぐに佐藤さんの前に座った。


「蒲池さんは、47都道府県を全て東京都にするようです」

「これはまた、壮大な夢ですね……」


 例え東京が小さく感じると思っても、日本全土を東京都にするなんて言ったら、確実に都民からも不満が出るだろう。


「最初に一体化するのは、千葉県。東京の名を借りて、色々と施設を運営しているようなので、色々とやれば、千葉県は東京都と一体化することを躊躇うことはないでしょう」


 舞浜の有名な遊園地を筆頭に、千葉県は東京に依存している所もある。佐藤さんの言うとおり、武力でやらない限り、千葉県は東京都と一体化するのを躊躇うことはなさそうだ。


「その前に、東京都にもやる事があります。それは、都議会の了承を得ることです」

「それは無理じゃないんですか? 東京を発展させることには不満はないと思いますが、そんな侵略者紛いな事を、誰も賛成しないと思います」

「それができないなら、東京を大きくするのは、夢もまた夢。強引に進めたとしても、すぐにボロが出て、一気に失敗します。そうならないよう、まず都議会に了承を得るのは、重要なことですよ」


 知事の夢は、確実に都議会に否決され、しばらくしたら不信任案が出される展開が見える。


「けど、蒲池さんはそれが出来る。そう言っていました」


 佐藤さんは、知事の方を見ると、知事は親指を立てていた。


「どう都議会に了承を出来るかは、私は聞いていません。なので、私は蒲池さんの力量を測る、絶好の機会だと思っています」


 佐藤さんは、知事をまっすぐ見ていた。そして知事は、立ち上がって、俺たちにこう言った。


「ダイナマイト鈴木!」

「まだダメでしたか。もう少し、後で聞くべきでした」


 知事はふざけたようなことを言っているが、その言葉は、とても力強く、俺たちを安心させるような、気持ちいい返答だった。


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