第40話 転移で辿りついた縁
「アリエッタさん! お久しぶりです!」
三年ぶりにエルカーシャちゃんとミルアムちゃんが住む町に訪れた。
エルカーシャさんが元気よく手を振って、魔転車から下りて挨拶をしてくれる。
町の至る所でミルアムちゃんが開発した魔転車が走っている光景を見ると、たった三年前のことがなつかしく思えた。
「あれからどう? 変な邪魔は入ってない?」
「はい、アリエッタさんが定期的にワープしてくれるので何もされません」
「ワープって……」
「転移のことですよ! ワープのほうがかっこよくないですか?」
そうかな? あまり名前とか気にしたことないけど、そう言うなら魔術の名前を考えてみてもいいかな。
魔術の名付け親になりそうなエルカーシャさんは今、ミルアムちゃんの助手として目覚ましい活躍をしている。
私が使っていた家の部屋を研究室として使っていたミルアムちゃんだけど、今はちょっとした大きな工房を建てていた。
魔転車だけじゃなく、最近では魔道車の受注が増えているらしい。
たった三年でエイシェイン国内にはミルアム製の魔道具が流通していた。
「すごいね、二人とも。ズドック工業も焦るわけだよ」
「あっちはあっちで安価で便利なものを作っていただければいいですよ。私達はじっくりと作るんで!」
「国王と契約した甲斐があったよ。私、及び関係者に手を出したら国を亡ぼすってさ」
「アハハ……。それで納得させちゃうのがすごいですね」
魔女盟約。私との契約が世間ではこう呼ばれているらしい。
とんでもない条件をつきつけたけど、私だって心くらいある。
私との約束を守ってくれたらいかなる脅威も排除するという特典があるから、今や多くの国が私と接触しようと躍起になっている。
エイシェインは魔女盟約国ということで、どこの国も手を出せない。
そんな不可侵国になりたいと思うのは当然といえば当然か。
「来ていただけたということはようやくやることが終わったんですか?」
「うん。なんか私の家族らしき人達がいてさ。特に私の兄のゲリッツは自分の領地でひどい圧政をしていたらしくてね。ひどい有様だったよ」
「確かフォルツランド領でしたっけ? まさかあそこがアリエッタさんの故郷だったとは思いませんでした」
「魔力差別みたいなものがひどくてね。魔術師が偉そうにしていたからちょっと懲らしめてやった」
ゲリッツはいい魔術式が刻まれた人間には自分に次ぐ権力を与えていて、それが負の連鎖となっていた。
徹底した魔術至上主義が根付いていた上に、権力を与えられた人間に限ってまともな人格をしていない。
特にひどかったのは【雷槍】とかいう魔術式が刻まれたボーマンという男だ。
私の顔を見るなり、確かこう言ってたっけ。
「アリエッタ! 今頃、何をしにきた?」
「ちょっと懲らしめにきた」
なんでこの人、私の名前を知ってるのと思ったけど驚いたことに元婚約者だという。
どんな魔術式かと少し期待したけど、ただ雷をひとまとめにして放つだけの魔術式だった。
圧倒してやったら手のひらを返して命乞いをしてきてひどかったなぁ。確か――
「わ、悪かった! やっぱり俺にはやはり君しかいない!」
「は?」
「俺はカトリーヌと離婚する! 美人だから結婚してラッキーと思ったが、ひどい女だよ! いくら言っても散財を止めないし夜遊びがひどくて……。アリエッタ、俺と結婚しよう!」
「結婚って要するにあなたと一緒に暮らさなきゃいけないんでしょ? 嫌に決まってるでしょ」
ボーマンが泣きすがってきたところで、カトリーヌが帰ってきたんだっけ。
ボーマンの私への言葉を聞いてしまったらしく、それからはひどかった。
「なんでこんな今頃ノコノコと現れた女に乗り換えようとしてるの!」
「お前こそ、今日はどこへ行ってた! その指輪とネックレスはどこで買った!」
「関係ないでしょ! それよりアリエッタ!」
カトリーネが私を睨みつけてきた。どうやらこの人も私を知っているみたいだ。
少しずつ思い出してきたけど、私に対して執拗に嫌がらせをしてきたんだったかな?
そうそう、この人のせいで私は町にいられなくなったんだ。たまたま転移の魔術が発動したからよかったものの、死んでいてもおかしくない。
「このブス! この屋敷から出ていきなさい! 今更、ボーマンに色目つかってんじゃない! い、いたたたいだぁぁい!」
「私に攻撃しようとしたよね?」
「は、離し、いっ! いああぁぁーーーーーーーーーー! ああぁアアアアァーーーー!」
腕の骨を折るくらいならしてやりたかった。絶叫したカトリーネがうずくまり、ボーマンがへたり込んでいる。
権力を振りかざして偉そうにしても、こうなったらどうしようもない。
「わ、私の魔術式で、回復……」
「回復したらまた同じ痛みを感じられるね。いいよ、何回でもやって?」
「ひいぃぃっ!」
ボーマンと揃って逃げ出したから、転移で目の前に現れてやった。これが最弱の魔術式だよ。
「て、転移、これ、が……」
「いやぁ! 助けて! お金ならいくらでもあげますわ! この人が!」
「はぁ!? このクソ女! 誰が稼いだ金だと思ってる!」
「あんたなんか親の七光りのくせに偉そうにしてんじゃないわよ!」
転移の恐ろしさを知ったんだと思う。どこへ行っても逃げられない。
それからは家を含めた財産をすべて破壊してから、二人を町の中に転移させた。すべてを失ったあの二人がどうなったかは知らない。
町の人達からも嫌われていたみたいだから、無事でいられるといいけどね。
などと一通り、思い出し終わった後でグオウルムさんがやってきた。
この人は町に大きな工場を立てて、労働用のゴーレムを作っているらしい。今や町にとって、ミルアムちゃんの工房と双璧を成す存在だ。
「よう! 俺様のゴーレムに乗りたくてやってきたんだろ!」
「それもあるけど、この町がなつかしくてね。ソルディさんは元気?」
「それがあいつなぁ! 近頃、エルカーシャの仕事を手伝うとかいって邪魔してやがんだよ! 不器用なんだから引っ込めっていっても聞きやしねぇ! ガハハハッ!」
「そ、そうなんだ……」
そう言われてからエルカーシャさんに案内されて工房を覗くと確かにソルディさんがいた。
だけど仕事を手伝っている気配がなく、工房内を清掃している。
「ソルディさん。そこの掃除が終わったら休憩室をお願いします」
「はいっ!」
エルカーシャさんに言われて、ソルディさんが次々と色んなところを掃除していた。
仕事の手伝いをさせても使いものにならなくて、仕方なく掃除をさせているというところかな?
エルカーシャさんは優しいから、帰れなんて言えないんだと思う。
私が顔を出すと、ミルアムちゃんと揃って歓迎してくれた。
「アリエッタさん、久しぶりです」
「景気がよさそうだね」
「はい。あの時、アリエッタさんに助けてもらわなかったらと思うと……」
「ミルアムちゃんを助けなかったら、ミルアムちゃんに助けられる人もいなかったね。私こそ、行動指針が明確になった気がするよ」
自分の力をどう使うか。それはミルアムちゃんみたいな人を助けるために使うと決めた。
もちろん私なりの基準だし、正義の味方のつもりはない。ただ私が気持ちよくなればそれでいい。
「そうだ! 久しぶりに皆で食事でもしませんか?」
「いいね。じゃあ、私が奢るよ」
「いえいえ! こう見えても私、お金持ってるんですよ!」
「特級ハンターの私より?」
「自信あります!」
国が認める特級ハンターだけあって、今の私は下手な貴族よりもお金がある。
一方でリトラちゃんは一瞬で金を食べ物に使って涙目になっていた。
しかもありとあらゆる道場に挑んでいるものだから、いくらお金があっても足りない。
なんで私が数十軒の道場に転移で送り迎えしないといけないの?
「アリエッタ。明日はバフル国にある槍術道場に行くぞ」
「またボコボコにされて泣くのによく行くよね」
「な、泣いてなどいない! あれは我なりに余裕を与えているだけなのだ!」
「はいはい。明後日はエスター国の棒術道場だっけ?」
どれも身につかないのによくやる。普通に戦ったほうが強いのになぜか意地になっているのが不憫だ。
でも転移があればどこへだろうと一瞬だし、天界にも遊びに行ける。
最弱の魔術式だなんて言われていたけど、私にとっては最強だ。
だって転移魔術のおかげで色々な人と繋がることができたんだから。
「じゃあ、ミルアムちゃん。お仕事が終わったらまたね」
「はい!」
この出会いをもたらしてくれた転移魔術に感謝して、私は宿の部屋にワープした。
━━━━━━━━━━━━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━
ご愛読ありがとうございました!
10万文字以上できっちりまとまったと思います!
「面白かった」と思っていただけたら作品フォローと応援をお願いします!
そして新連載のほうも読んでいただけると嬉しいです!
邪神、貧乏貴族に転生する~英雄の娘である公爵令嬢に溺愛された上に魔物を使って自重せずに領地改革したら最強領地になった~
家族の皆様、【転移魔法】のどこが最弱なんですか?~神獣が住む天界に転移して500年、最高鬼畜難易度ダンジョン【天獄の魔宮】で鍛えすぎたおかげで世界最強になりました~ ラチム @ratiumu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます