天国のジレンマ 序
一介のヒトの子が神さまをあげつらうのは、途方もない
神さまは悪趣味だ。途方もなく悪趣味。
だって、ねえ、神さま。ありとあらゆる万物を創造したのはアンタのはずだもんな?
なら教えてよ。あのクソいまいましいバケモノに、どうしてあれほど見事な……とてつもなく綺麗なスガタカタチを与えたんだ、アンタは?
美しいモノを目にすると理屈抜きで心を奪われる、そういう性質をヒトの子の大半に与えておきながら。そのうえで、あの綺麗な綺麗なバケモノを創り出した。
そんなグロテスクな酔狂、どういうつもりで?
無神論者のアテコスリのロジックを気取ってるんじゃない。オレは、ちゃんと神さまを信じてる。なにしろ、正真正銘の悪魔をこの手で召喚したんだからね。
だから正真正銘、アンタの存在も信じてる。確信してる。だからこそ本気で恨んでる。心の底から呪わしいんだ。アンタが。憎いよ。
そう、偶然も手伝ったとはいえ、オレの血が悪魔を招き寄せたのは間違いないこと。
悪魔と出会うまで、オレはアンタの存在を信じてなかった。ヤツと出会って契約を交わしたときに、初めて天国の存在も信じるようになった。悪魔の手に堕ちた瞬間に神さまへの信心が芽生えたってわけ。それこそ皮肉なパラドックスだけど。
けど、もしも、もっと以前から神さまの存在を信じていたとしても、天国に祈りを捧げて救いを求めようなんて考えなかったろう。
救いなんていらない。悲しみと怒りと悔恨でズタボロに崩れ果てたオレの魂に、いまさら救済する価値もなかった。
ゴミクズ同然の魂……だったら、ヒトリヨガリの
ああ、あの悪魔。怖いくらいに整った男の姿をした、ツヤヤカな声の悪魔。
まったく、ねぇ神さま。つくづくアンタの悪フザケは度を越してる。残忍で狡猾な地獄の
天国はもう満員御礼だから、迷えるヒトの子をできるだけ多く地獄にヤッカイ払いしてしまおうって魂胆なんだろう?
そう邪推したくなるくらいあの悪魔は、心安げで親切そうで。物腰は一部のスキなく上品で。いやおうなく相手を信頼させる誠実な微笑をたたえていたっけ。
実際、現実にオレにとって、悪趣味な創造主よりも、誠実な悪魔の方がずっと頼りになった。
こんなクズの魂と引き換えに、悪魔は約束してくれたんだから。
「君の願いどおり、君の家族にこのうえなく
オレの目をのぞきこむ悪魔の瞳は、逃げ場のない深い闇のように真っ黒だったけれど。紫がかった虹彩は磨き抜かれた高貴なアメシストみたいに冴え冴えと輝いていた。
その輝きに吸い込まれるように身を寄せたのは、オレの方だった? ……思い出せない。いつの間にかオレは、彼の腕の中に抱き寄せられていた。
冷酷で無慈悲で
アタマの中に直にしみ入ってきて響くような、神秘的な低い声。
「我こそは闇の伝道師アルミルス。さあ、冥府の鍵をあばきし者、心して我が名を唱えよ……」
さも仰々しい口上をおごそかに述べたてた次には、切れの長い目をやんわりと親しげに細めて、
「……そうすれば、契約は成立。君の願いを叶えるために、この私が、とびっきりの趣向を凝らしてあげるよ」
マニキュアを塗りこめてあるみたいに葡萄色にツヤツヤ光る爪の造形まで、抜かりなく端正極まりない貴族的な長い指が、オレのアゴの先をそっと捕らえて上向かせる。
絹糸のような黒髪が一筋すべらかな頬に無造作にスベリ落ちたのさえ計算づくじゃないかと
「さあ、その震える唇で。呼んでおくれ……私の名を」
ミダラな吐息そのものみたいに、場違いに色めいてかすれていた悪魔のささやきは、たしかに、熟した薔薇に似た匂いをただよわせた……気がした。
To Be Continued...
追記:オカルトホラー系の耽美BLを書こうとしたところ、ミステリー方向に話がズレて収集つかなくてエタりました。
オカルトホラーBL成分をコソギ落としてプロットを練り直し、『背徳者のジレンマ』というミステリーを書き直しています。
コソギ落としたオカルトホラーBL成分も、いつかまた転生させられたらいいなと思っています。
未完成のエチュード集 こぼねサワー @kobone_sonar
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