Sanctus…サンクトゥス

  Sanctus, sanctus, sanctus,

  dominus deus sabaoth.

  pleni sunt caeli et terra gloria tua.

  Hosanna in excelsis.


  聖なるかな、聖なるかな、聖なるかな、

  万軍の主よ

  天と地は あなたの栄光にあまねく満ち渡る

  天のいと高きところに ホザンナ



◇ ◇ ◇


「……神の御子みこはー……今宵しもー……――」


 しんと静まり返った冷気を伝わり、荘厳そうごんな神の家の中から、石造りの壁をぬって粛々しゅくしゅくと響いてきた賛美歌をかすかに耳にして、

――今日は、25日だったか……

 その日のミサが、毎度の礼拝よりいくぶん特別な意味を持つということに、ようやく気付いたロレンツォは、黒いコートの胸ポケットのタバコを取り出した。


 今朝ベッドを起き上がった瞬間に枕元の新しいパッケージを開けてから、凍える日差しが天頂にのぞく今の時間までに、すでに残り2本になっているのを認めて、ガラにもなく一瞬だけためらったものの、黒い皮手袋に包んだ長い指先に投げやりなシグサで一本をつまむと、ひしゃげたパッケージの隙間すきまに突っ込んでおいた紙マッチをる。


 風はないが、昨夜から夜明けにかけて降り積もった雪のせいで外気がシケっているせいだろうか……なじみのトラットリアのカウンターで補充してきたばかりのマッチは、一度では火がつかなかった。


 神経質めいたタテジワを怜悧れいり眉間みけんに寄せながらも、のんびりとした手つきで、二度・三度と同じマッチをり、ようやくユラリと立ち上がった小さな炎を、ひどく大切そうに両手の内でかばいながら、薄く引きしまった唇の端にくわえたタバコの先を、慎重に寄せる。


 エンジンをかけっぱなしで湯気をたてている黒塗りのリムジンのボンネットに、無遠慮ぶえんりょにドッカリと腰をもたれて。

 それから、寒さに染められた真っ白い呼気にまぎらせ、ドーナツ型の煙を吐く。


「"……アデステ……フィデレス……"」

 "そこにいる、信心深い人々よ"


 鋭敏えいびんな聴覚に分け入ってくるオルガンの音色に合わせ、低く冷ややかな響きを持つ声で、たわむれにラテン語の歌詞を口ずさむ。


「"……ヴェニテ・ヴェニテ……イン・ベツレヘム……"」

 "来たれ、来たれ、ベツレヘムに"


 冷淡な白皙はくせきに映える乾いた色合いの短い灰金髪アッシュブロンドの毛先をすべって、綿のような雪がサングラスの前をなぞっていった。


――チラついてきやがったな……

 ロレンツォは、立てたコートのえりを首元にかき合わせながら、純白の景色に悠然とそびえる古い教会を見上げると、からかうように、また大きな煙の輪っかを吹き上げた。



 To Be Continued…


追記:クリスマスの昼下がり、

ミサに参列しているゴッドファーザーを教会の外で待つ側近…

というシチュエーションです。

ご都合主義すぎるミステリーだったので途中で書くのがイヤになって完全にエタりました。

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