第16話 予想外の力ー2ー
「君たちが何を考えているのかは知らないが、危険な要素は排除するのみ・・・!」
そう言い放つと男はもう一度掌をこちらに向け、力を入れるようにし、今度は熱エネルギーの塊のようなものを生成し始めた。
「焉修の熱放射弾(サーマルラジエーション)か・・・」
「これもお返しするよ」
その言葉と同時にエネルギー体はこちらに向かってくる。
「防ぐしかない・・・!」
そう判断した俺は念じた。「何よりも固く、何も通さない鉄壁」と。
「頼む・・・!」
そう念じ、願いながらリボルバーを強く握り、トリガーに指をかける。すると自分のエージェンシーから黄色のまばゆい光が漏れだしたと同時にレクイエム幹部との戦いの時と同じような感覚になり、同じように別世界にとんだ感じがした。
「守りたい気持ち、お前の覚悟、しかと受け取った。お前が欲する「防御の力」を
与える。お前の意志のままに、責務を全うしろ。執行者の名を以て」
(あの時と同じ声・・・)
(覚悟・・・守りたい気持ち・・・)
「覚悟をもって、行ってこい」
その瞬間、別世界から抜け出したように現実へと戻っていく感覚を感じた。
「守る・・・」
俺はトリガーを引いた。発射された銃弾は目の前で爆散し、シールドのようなものを張る。
眼前に迫ってきていた熱放射弾(サーマルラジエーション)はそのシールドからこちらへ侵入してくることはなく、届くことはない。
「防御系統の力ですか・・・。銃の見た目をしているのに防御とは・・・滑稽ですね」
(まさか、あいつ勘違いをしている・・・?)
当たり前と言えば、当たり前だ。司令に聞いた話によると、エージェンシーでのフォース発動は基本的には一種類か二種類が限界。多くても五種類ほどしか前例がないという。しかも、系統は同じものがほとんど、というか一つのエージェンシーで違う系統のフォースを扱えたものは司令が知っている限りだといないそうだ。
「・・・まぁいいでしょう。それならさらに威力を強くして対抗するまでです・・・!」
そう言うとこちらへ向かってくる熱放射弾(サーマルラジエーション)の大きさが増し、威力が増した。
「ちっ・・・やばい。綻びが出始めてる・・・」
威力が上がった熱放射弾(サーマルラジエーション)を防ぎきれていないのか、シールドに綻びが出始めている。しかも威力はどんどん上がっている。
「焉修、あと何秒だ」
「あと十秒だ」
まだ半分しかたっていないのか。このスピードで威力を上げられたらそう持ちそうにない。
「ならば・・・攻撃自体を止めさせるほか・・・」
(考えろ・・・攻撃を止めさせる方法・・・男に直接攻撃は効かない。俺の攻撃性の力はおそらく全て直接攻撃性・・・。発想を変えろ・・・何か・・・何か・・・!)
そう考える俺はある一つのことを思い出した。
―回想―
司令
「あいつのフォースは『崩壊(ディケイ)』。この力の適応範囲は対象物に限らず、フォースすらも崩し去ってしまう。そのため、この力がエージェンシーに戻ってこないため、エージェンシー内の媒介力(エージェンス・フォース)というのは徐々に減っていってしまうんだ」
―回想 終―
(そうか・・・男を止めるのではなく、あの力を破壊すればいいのか・・・。うまくいくか分からないが・・・試してみよう・・・!)
試すこと、それは相手から繰り出される力のベクトル的に正反対となる力をぶつけ、実質的な力の破壊、つまり無効化(デリート)をすること。
「覚悟・・・それは必要なんだろ・・・!」
俺にとっての覚悟・・・正誤に関しては知らないが、俺なりの答えはもう出ている。
男からこちらへと近寄ってくる力の塊に照準を合わせる。
「ん・・・?何をしている。私はこっちだぞ」
男は馬鹿にしたようにそう言う。それに俺は応える。
「何をしているか・・・だと。それを聞いてどうする」
「何・・・?」
「お前の論理だ。忘れたとは言わない。この問いを投げかける理由。それは・・・」
トリガーを若干引いて言い放つ。
「お前はここで死ぬからだ」
冷徹な視線を奴に突き刺しながら、トリガーを押し切って力の塊へまばゆい赤色のオーラを纏った銃弾が発射され、男からの力と衝突する手前、そのオーラは大きく広がり、男の攻撃の行く手を阻む。
「な、なにぃ?」
男は今までの余裕ぶっていた表情を失い、冷静さを失ったような焦ったような表情に変わった。力の強さは互角…いやこちらのほうが強いと見える。
そしてついにこちらの力が男の力を破り消滅しなかった残存の力が男に向かっていった。そしてその攻撃は男に傷を作る。
「ぐっう・・・」
冷静さを欠いていた奴は反射魔法(リフェクション)の発動が間に合わなかったのだろう。吸収する前に攻撃が届いてしまい、奴の肉体を欠けさせる。
瞬間今まで形を保っていたこちらのシールドはついに耐久力を失い、粉々に砕けた。
「えぇい。なめよって」
「遅い・・・」
どうやら焉修の準備は整ったようだ。
「発動座標ロック。吸収型崩壊魔法 発動」
焉修の崩壊魔法が発動され、奴のすぐそばに黒いエネルギー体が発生した。すると男の周りの次元がゆがんだように見えた。空気さえもが、曲がって見えた。
するとすぐに、エネルギー体から目を覆ってしまうほどの光が漏れだしてきた。
「うっ・・・まぶしい」
エリアジャンプの光とは比べ物にならないほど明るい光はしばらく続き、瞼をも貫通してきた光を感じなくなったので目を開ける。
「いなくなってる・・・」
そこにはあの男の姿はどこにもなく、髪の毛一本とも残っていなかった。
「任務完了なのか・・・」
何とか死ななかったことに安堵し、任務成功をひそかに喜んでいると焉修に声をかけられる。
「見事だった」
何か嫌味でも言われるのかと構えていた俺にとって、全く予想外の言葉だった。
「まさか相殺(クラッシュ)で我の熱放射弾(サーマルラジエーション)に対抗するとは」
「相殺(クラッシュ)・・・?」
「・・・まさかお前、知らずに使ったのか」
「あぁ」
そんなこと聞いたことも見たこともないし、ただ念じてトリガーを引いただけだ。
「相殺(クラッシュ)は向けられた直接攻撃系に対して、同じく直接攻撃系をぶつけ、力を相殺(クラッシュ)、実質的に無効化(デリート)する能力だが、扱いが難しく、ただ相手の力に匹敵する力を放つだけでは足りない。力の分散や収束についても考えないとまともに使えないものなのだが・・・。それを知らないということは、まさか今回初めて使ったのか・・・?」
「そ、そうだね」
「そんなことがあるのか・・・」
焉修が考えるようにしばらくうつむいていると森の茂みから一人の女性がこちらへ踏みよって来た。誰かはすぐに分かった。
「二人とも見事だった。まさか本当にレベルⅥをクリアして見せるとはな」
「司令・・・こいつの力は・・・」
焉修はすかさず司令に疑問を投げかける。
「・・・隼人の力はまだ未解明なことが多く、未完全ということも、加えて破天荒なものということもあり、執行者間でもむやみな公開は避けていたが、その力を目の前で見たお前になら、説明してやってもいいだろう」
と、司令は俺の力について、今のところわかってること、行ってきた実験の全てを焉修に説明した。焉修は納得いったような、そうでないような表情を浮かべ、口を開く。
「司令。隼人のことですが、こちらも研究してもよろしいでしょうか」
司令には態度が違う焉修だが、より一層かしこまって問いかける。
「お前の言う『こちら』というのは、魔法研究機関「ATDO」のことで間違いないか」
「その通りです」
意味が分からない話が展開されることを予測した俺は早めに質問しておく。
「えっと・・・『ATDO』ってどんな機関なんですか・・・?」
七人の執行者ー執行者の名を以てー @yuto_miyake
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