第15話 予想外の力ー1ー
「話が逸れまくって忘れてたけど・・・任務ランクⅥに挑むのか・・・」
冷静に、いや普通に考えておかしいことはわかるが、一応、現執行者(エンフォーサー)最強を誇る戦士と俺の力をもってしたら大丈夫、という若干自画自賛を含んだ自信がなければ勝てるビジョンが見えなかった。
任務自体は明後日。場所は今回も郊外。レクイエムではなく、最近日本に進出してきたとされる海外発祥のテロ組織。相手も超越者で、使用エージェンシー、フォースに関しては全く不明だが、海外からの情報によると、その組織の幹部クラスの人間は一人で一般的な軍人五百人と対等に戦えるレベルらしい。あくまで「一般的な」軍人なので超越者と簡単に比較できないと聞くが、それでも訓練をしっかり受けた精鋭たち五百人でようやくのレベル。侮れない、と緊張しているのが本音だ。少しでも緊張を和らげようと、訓練場で訓練して帰ることにした。
「・・・ふぅう」
念を込め、目の前にある的に照準を合わせたリボルバーのトリガーを引く。それと同時に訓練室内に銃声が響き、目の前の的は的としての役割を見失う姿になる。
「・・・やはり違う」
司令の言葉で思い出した。自分はこれまでの戦闘で、フォースを行使した際、「別世界に行った感覚があった」のだ。しかし、先ほどのはそういった感覚がなかった。
「発動の要因の一つを満たしただけで、まだ自らの力のみで発動するフォースとは違う・・・完成ではない・・・」
と思うと、頭に不安がよぎる。完成度と強さは基本的に比例する、という感覚で違いはないのだろう。とするならば、FAASによる強制覚醒状態というのは実は完全な覚醒ではなく、不完全な覚醒、つまり弱いフォースの発動につながるのではないか、と。
「それが真実になるならば・・・」
もし、それが真実になることがあれば、今回の任務ははっきり言って俺は役に立てない。すべて焉修に任せることになる。
「いや・・・不安が一番の敵だ・・・押し殺せ」
そう自分に言い聞かせ、訓練を続けて帰ったのは午後二十三時だった。
「ついに今日か」
時が経ち、ついに任務の日となった。訓練の量が自分の不安を少しだが押し殺してくれている気がする。だが、不安がゼロというわけではない。無論、聞かされている敵の強さもそうだが、それ以上に自分の力が不完全なのではないかという不安が大きい。
「とりあえず、やるしかない」
と腹をくくった。
では行くとしよう。
「エリアジャンプ コード ミッションポイント」
「ここが任務地か」
テロ組織は当たり前だが公に顔を出さない。そのため、こういった類のやつが屯するのは大抵廃ビルか、閑散とした閉鎖地域くらいだ。今回もその例にもれず、森の中にポツンと立っている一つの廃れた倉庫が木の隙間からこちらを覗いている。
「お前が和中隼人か」
と後ろから声が聞こえた。その声に「あぁ」と返しこちらからも問いかける。
「君が祇園寺 焉修か?」
「その通りだ」
第一印象は落ち着いた、といった感じだろうか。だがその奥に秘められた力がその涼やかな表情から漏れ出ていて、強大な力を肌で感じることができる。
「早速だが、我のフォースについては聞いているか」
「ああ。司令から一昨日聞いた」
「なら話が円滑に進む。我の力は謙遜しても強力と言える。しかし強力が故の代償は高くつく。そのため我はこの汎用型武器を使って戦う」
「それも聞いた」
「そうか。なら話さなくてもいいかもしれないが一応言っておく。我は司令の命により緊急時を除いた崩壊魔法の行使を禁止されている。だが、もし対応に緊急を要することになったら、我は迷わずこの力を行使する」
「は、はぁ」
「我のこの力は対象物以外をも飲み込む。死にたくなかったら、発動の前兆が見えたら敵から離れろ。分かったか」
「わ、わかった」
これは俺がどんな状況であろうと、構うことなく戦闘に挑むということの表れだろう。
「こうしてる間にも時間は過ぎていく。もう行くぞ」
「あ、うん、行こうか」
すると焉修は目先の倉庫に足早にかけていった。それを追うように、自分も走って向かった。
「この感じ・・・」
倉庫が近づいていくにつれ、だんだんとフォースの気配が強くなっていく。まだ眼前にいるわけではないので、正確な強さはわからないが軍人五百人を相手に出来る超越者だ。相当大きなものなのだろう、と覚悟している。
「そういえば・・・葦名はいないんだな」
今回の任務には葦名が来ていない。焉修がいるからなのか、それともまだあの事を気にしているのかはわからない。
「・・・何を油断している。急な襲撃を常に考え行動することが、何よりも大切だ」」
「あぁ、すまん」
焉修の言葉で、警戒をより一層深めた俺は森の深くに入っていった。
「ついたな」
眼前に現れたのは一見何の変哲もない倉庫だが、その中からは異様ともいえる気配が漏れ出てきてる。
「・・・汎用型武器 展開(ブート)」
倉庫のドアを前にした焉修は汎用型武器を展開(ブート)した。
「法器・・・みたいなもの・・・?」
確か彼のエージェンシーは法器と司令から聞いたはずだ。自分にも汎用型武器として銃型のものが渡されたことがあるのだが、やはりその人その人に合わせているのだろうか。
「・・・何を見ている。行くぞ」
「あ、あぁ」
少しばかり軽蔑した目で見られた気がするが、気のせいということにしておこう。先に入っていった彼の背中を追うように倉庫に入っていった。
倉庫の中は意外に綺麗だった。外こそ、あまり整備されていない感じでツタやコケが無整備に生えていた。
「・・・早速お出ましか」
焉修が見据える先に空気も逃げるような重圧とオーラを出す男が一人。あの時のレクイエムの幹部は「血のような赤」でまとわれていたが、この男は「明るい赤」が感じ取れる。しかし存在感という意味では比べ物にならないほど大きい。
「これがランクⅥ・・・」
奴の重圧に気圧されながらも、自分もFAASを起動し、エージェンシーを構え奴に照準を合わせる。
「隼人、いくぞ」
「あぁ」
焉修からの任務開始の合図と同時にフォースを発動する。今回の任務内容は「抹殺」。危険度が非常に高いため、情報より抹殺のほうが適切だと判断されたためだ。
「分解特攻(ディーコンポジッション)」
焉修の汎用型武器による技が発動され、男の周りが漆黒に包まれる。すさまじい力だ。しかし男の周りの漆黒を打ち破るように光があたりにまき散らされた。
「・・・挨拶もなしに攻撃か・・・」
それまでずっと背を向けていた男がこちらを見てきた。
「ちっ、やはりガラクタだ」
そうつぶやく焉修に男が話しかける。
「なかなかのものだ。しかしそれではそこら辺の凡人に通じても、私にはかすりもしない」
「減らず口を。まさかだと思うが、今のが本気だと思ったのか」
「そうは思ってないさ。なぜなら『弱すぎるから』だ」
「なんだと?」
俺は見逃さなかった。男に「弱すぎる」とあおられた焉修の手が先ほどとは違い、強く握られていることを。
「どこの軍かは知らんが、よくこんな弱い兵を送り込んできたな、という意味だ」
「その口を今にでも塞がせてやる」
間違いない。焉修は奴のあおりで怒気が増している。それと同時にただでさえ大きかった力がさらに大きくなったように見受けられる。
「塞げるものなら塞いでみるがいい。さあ、かかってこい」
その声と同時に焉修は手の平に炎のようなエネルギーの集合体のようなものを生成し
「熱放射弾(サーマルラジエーション)」
と唱え男に向け発射した。それは男の眼前で爆発のような現象を起こし、無数の放射状のまばゆい熱エネルギーのようなものが男を突き刺しに行った。依然として男は腕を組んだまま何もしようとしない。そして何もしない男に放射状のエネルギーが到達する手前、突如としてそのまばゆい光は姿を消し、男は無傷。腕は組んだままで、何かをした形跡もない。
「貴様、まさか・・・今のは無効化(デリート)か」
「違う。確かに原型は無効化(デリート)だが、亜種みたいなものだ」
「ではさっきの分解特攻(ディーコンポジッション)も」
「あぁ、ご想像の通りだ」
「しかし・・・無効化(デリート)は超越的熱量(フォースタクト)の消費が激しく、コントロールも難しい。理論的にだけ可能とされていたものをなぜ貴様が使える」
「なぜ私が使えるか・・・。そもそも無効化(デリート)ではないが・・・。ならこちらからも質問させてもらう。そんなことを知ってどうする」
「どうするか・・・だと」
「そうだ。君にこれを問う理由、それは私が君たちをここで殺すからだ」
と言い放ち、掌をこちらに向ける。その掌には漆黒のエネルギーが集まっていく。
「あれは・・・我の・・・」
「お返しするよ。君の力・・・!」
男の掌に集まったエネルギー体がこちらへ一直線に向かっている。
「隼人!あれに飲み込まれたら命はないぞ」
「わかった」
急いで判断を下し、何とかそのエネルギー体から離れる。が、しかし焉修と離れてしまった。
「我が察するに、あいつが扱うのは反射魔法(リフェクション)だ。しかもほぼ最大レベルだと考えられる。攻撃を仕掛けたとて、その攻撃が丸ごと吸収され、保持状態に入り、いつでも放出可能な状態にする、という魔法だ」
焉修が焦ったような声でこちらへ説明する。
「あいつに魔法、そちらでいうエクシード・フォース、それを行使しても奴のものになり、反射をもって反撃されるだけ。つまり奴に放出系は通じない。おそらく自己強化系以外の魔法は通じないと考えられる」
「だったら崩壊魔法は?」
男の反撃を躱しながら焉修に問う。
「崩壊魔法も放出系だが、放出系にもいろんなものがある。分解特攻(ディーコンポジッション)と熱放射弾(サーマルラジエーション)は相手に直接攻撃を与える直接攻撃系、崩壊魔法 中でも我が使う吸収型は生成攻撃系の範囲に入る」
「生成系なら大丈夫なんじゃないんですか」
男が無尽蔵に放出している漆黒のエネルギーから避ける片手間に焉修に訴える。
「しかし、これがもし奴の反射魔法(リフェクション)の影響対象内だったらどうするんだ」
「このままでも野垂れ死ぬだけだ!焉修、崩壊魔法の発動を!」
このままではいつか体力と集中力の限界がきて共倒れしてしまうだけだ。やってみる価値はある。そう思った。
「・・・っふ。我に指示するとはいい度胸だ。いいだろう」
「焉修・・・!」
「なら我に時間をよこせ。司令から聞いているな。二十秒だ」
「わかった。稼いで見せる」
「任せたぞ・・・」
ここから二十秒。焉修を守り切って見せる・・・!
焉修は汎用型武器を捨て、エージェンシーを取り出した。
「崩壊魔法、待機に移行」
準備に入った焉修の目の前に立ち、男に照準を合わせる。
「非制限創造(アンリミテッド・ブレット)・・・発動・・・!」
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