転生したら王族だったけどTSしてしかも七女。ブサイクな辺境伯のところに嫁に行かされるという話を耳にしたので禁断スキルで世界最強になって無双しますけどいいですか?

スロ男(SSSS.SLOTMAN)

じぃじの夢

「という夢を見たんだ……」


「「じぃじ!」」


 山田豊作はベッドにしがみつく双子の孫を見つめ、微笑んだ。双子は一卵性の女の子で見目形はそっくりだが、髪の色と瞳の色が違うので見分けはつく。お揃いのフリル多めの純白のドレスを着ているが、山田からはちょこっと肩が見えるだけだ。


「おじいちゃんをあまり疲れさせるんじゃないよ」


 双子の背後には布とも樹脂ともつかないような一体成形のボディスーツを着た妙齢の女性。双子——レイパとパレの歳の離れた姉、グランだ。


「大丈夫だよ、グラン。お前は優しい子だ。でもおちびちゃんにも優しくしてやってくれ」


 山田は咳き込み、それからサイドテーブルにあるストロー付きの小さな水筒から水を口に含んだ。


 天井を見ながら、

「こういう奇天烈な夢を見ると戦後すぐ、もの心ついたときのことを思い出すよ。まだ日本は貧しく、ここらへんも砂利道ばかりでアメリカさんがでっかい車で行き来していた。甘いものなんて滅多に食べられなくてナア」


 双子が大人しくじぃじの話を待っているのを見て山田は微笑む。本当にいい子に育った。


「まだ映画とかも白黒だったしテレビなんてものもなかったが、ヤケに記憶に残る映画だかなんだかの記憶があって、それがやっぱりどこぞの王様だか貴族だかの末っ子で、女の子ではなかったが家を飛び出して冒険者になって……」


     *


「またジジイが変な寝言いってるぞ。王族がどうとか」

 山田秀英は居間のソファにだらしなく寝そべりながら缶ビールを手に取った。

「最近、特に多いのよ。気味悪くってねえ。……なんか孫がいて、それに話しかけているみたいなの。当てつけかしら」

 妻も同じくカウチポテトスタイルでテレビを眺めながら答える。

「イマジナリー孫か。ボケて徘徊するよりマシだな」

 ハ、と吐き捨てるように笑って秀英もテレビへと視線を戻す。

 テレビでは転生がどうのというアニメが映っていて、嫁が観るものがないと変える地方局でしょっちゅう流れている。

 ぼんやりと観ていると、その昔親父が冗談めかして話してくれたホラ話に似ているようで、なんだか寒気がした。


「寒くないか?」


「まだこの時期は冷えるよね」


 言いながら妻はテーブルに手を伸ばし、二度三度手を泳がせた後、小さく舌打ちをした。キツい視線が向けられて、秀英はため息をつきながら立ち上がった。


 なんともいえない宇宙人だか未来人だかみたいな恰好の、えらいべっぴんさんが立っている幻覚が見えて、思わず腰を抜かしかけた。


「なにやってんの、あんた」


「なんでもない」


 奥の間の、父親が寝る部屋は薄暗い。寝息は聞こえないが、まさか死んだということはないだろう。流石にそこまでは弱ってはいない。早くともあと一年は存命だろう。

 壁にかかる空調のリモコンを取ろうとして足を踏み出すと、部屋から小さな子の走り回るような音がしたが、聞かなかったことにした。

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