01
***
――………
🤖 ゲーミング和尚
『やっぱ、しらゆきだわ。冗談抜きで神。これはもう審議全スルー脳死施行でいいだろ。技術開発もいらないし、もし産業自体が衰退しても(ほぼあり得ないけど)離脱も容易。観光とか他の産業との相性もいい。ローリスクハイリターン』
🔵 パパピコ
『( ゚∀゚)σそれな』
🐱 にゃンクス
『全くの同意。プラスこれまで培ってきた日本のノウハウがあれば他の国じゃ真似できない。まさにクールジャパン。世界よ、来い…!!!
👻 人生の有料会員
『いやいやいやw あり得ないでしょ。そもそもこの問題を経済だけで考えるのがあり得ない。治安とかどうするの? 経済が回っていればいい国になるなら米国の犯罪率はなんなんですかね? それもローリスクってw 新しく産業を興すのには莫大な予算が必要だし、技術は進歩させ続けないとすぐ古くなって廃れる。技術開発しなくていい=メリットって安直すぎでしょ。廃れたらそれに従事しようとする人も減少するから結局経済だって衰退するし、教育にも影響でるよ? もうちょっと考えてからコメントしたら?』
🦜 ネットの犬
『うっわ、長文キモwww』
🔵 パパピコ
『なに語っちゃってんの? 誰もおまえの意見なんて聞いてないから。空気読めよ』
🐱 にゃンクス
『@人生の有料会員 おまえもう船降りろ』
🤖 ゲーミング和尚
『@人生の有料会員 しらゆきも言ってるけど、まず経済を回すのが最重要だろ。じゃないと国全体が衰退して、治安を守るための予算も捻出できなくなるんだから』
🐱 にゃンクス
『のるな和尚!!! 戻れ!!!』
🦜 ネットの犬
『@ゲーミング和尚 こういうガキはどんなレスしても喜ぶだけだからスルー推奨。しかも学生なら今はもろ放課後じゃん。この時間にコメ欄でウザ絡みしてくるとかw どうせ友達の一人もいなくて、人生寂しくてネットで憂さ晴らししてるメンヘラかまってちゃんだよw』
👻 人生の有料会員
『@ゲーミング和尚 しらゆきも言ってるけどwww 自分の意見は持っていないのかな? そもそもの前提が間違ってるんだよ。まず日本の治安がいいのは予算が多いからっていう根拠はどこ? あとコメントはちゃんと読もうね? 問題は治安だけじゃないんだよ。
@ネットの犬 友達の有無でしか人生の豊かさ語れないとか……小学生かな?w 二足歩行になってから出直してきて』
🤖 ゲーミング和尚
『@人生の有料会員 そっちこそ、ちゃんとしらゆきの動画見たのかよ』
👻 人生の有料会員
『見たからコメントしてるんだよw こっちは誰かの意見をそのまま垂れ流してるわけじゃないから。そもそも経済回せって言ってるけど、その産業で今と同じかそれ以上に経済が回る根拠を、しらゆきも提示できてないよね? しらゆきが言ってることは全部正しいと思っちゃってると、そんなことも気づけないのかな?w これだから信者はwww』
🤖 ゲーミング和尚
『なんでそんな顔真っ赤なのか知らんけど、喧嘩腰の人と建設的な議論とか無理だから相手にすんの止めるわw 後は好きなだけ一人で喚き散らしてろよwww』
👻 人生の有料会員
『えっ? 逃げるんですか?w 一人じゃまともに議論もできないとか……もしやキッズ? だとしたらごめんね。しらゆキッズにはちょっとむつかしい内容だったね。もう追いコメしないから、まずはママからネットの使い方を教えてもらってね!』
――………
👻 人生の有料会員
『結局のところ、考えなしに人の意見に乗っかるだけで自分まで頭使ってる気になってるから、少しでも動画の内容以上を反対意見で出されると逃げるしかなくなるんだよね。まぁ、しらゆきの切り抜きを見てイキってるのはその程度ってことでw』
👻 人生の有料会員
『まったく。おまえら――ちゃんと自分ってヤツ持ってんの?w』
***
「――フッ。また勝ってしまった」
スマホ片手に頬杖をつき、唇を釣り上げてほくそ笑んだ。
「やっぱ、ネット底辺で乳繰り合ってる信者共を叩き潰してるときが、一番生を実感するんだよな~。いくら潰しても湧いてくるところがチャームポイントだね。
――ハッ! そうか、これが再生可能エネルギー。SDGs! ……すげぇよ。どれだけ潰していいなんて……こんなのきみらと
地球の未来は明るい。満面の笑みで達成感に浸りながらグッと伸びをする。
それなりに長い時間を同じ体勢でいたから全身がピキピキ鳴った。
「っ……ぅ……あ゛ぁ~」
心地良い疲労を感じながら一気に力を抜いて、息を吐く。
シンと静まった放課後の教室に自分以外の人影はない。ただ、遠くの方に帰宅中の生徒たちの談笑が微かに聞こえる。
「……勝者とは常に孤独。頂は、肩を組んで立つには狭すぎる」
なぜか物悲しくて、ほんのり哀愁すら感じさせる静けさが、どことなく孤高な雰囲気を醸しだしている……気がしなくもない。実に良きだ。
今この瞬間、この空間は僕のためだけに存在している。
愉悦に口を歪めながら、ゆっくりと立ち上がる。どれ、次は現実の下々の者共を見下ろしてやろう、と窓際に向かおうとして――ふと、さっきのコメ欄が脳裏を過ぎった。
『キモい』『消えろ』『メンヘラ』『かまってちゃん』。
心ない暴言の数々。
コメントに込められた悪意が、容赦なく切りつけてくる。
相手の
あぁ……なんて……、
「――なんて薄っぺらい連中なんだ! ふふ、あっはっはっはっ! 笑いが止まらないぜ!! 四六時中ネットに張りついて意識高い系の金魚の糞をしときながら、高校生一人に言い負かされるとか頭空っぽかぁ? 知識詰め込む前に脳みそ入れとけ。そんなんでよく経済がどうのとかドヤ顔で講釈垂れたなぁ! 算用数字の読み書きからやり直してこいボケぇえええ!!!」
高笑いと罵声が教室の静寂を突き破り、廊下まで響いた。
「……っ」
アーッ! 誰もいない放課後の教室で好き勝手にする謎の優越感キクぅ。静寂を叩き壊すのぎもぢいいぃ。脳汁止まらないのおっほぉおおお!
「うっ! ……ふぅ。しかし、こうも張り合いがないとレスバもクソおもんないな」
賢者タイムで急に冷静になるこの感覚、これがたまらんのよ。なんて言うかもう、何もかも無駄なことに思えて……人生って感じがするよね。
「フッ……むなしい勝利だ」
「むなしいのはきみの人生だろ」
「誰だッ!? 人の頭の中を覗くとか犯罪だぞ! 道徳の授業で習わな痛ぁい」
振り返った瞬間、膝に叩き込まれた打ち下ろしローキックに顔をしわピカして崩れ落ちた。
……痛い……超絶怒涛に痛い。
小学三年生のとき、初めてラブレターを貰って、浮かれきって待ち合わせ場所に行ったら、待ち構えていたメスガキ三銃士のクソガキスマイルに抉られた心と同じくらい痛い。
酷い……ッ! こんなのってないよッ!
どぱどぱ血が溢れる心の古傷と、痛いのを越えて痺れてきた膝を抱えて蹲った。
なんでだ……僕は、こんな非人道的な暴力に晒されなきゃいけない人生歩んでない!
フェミさんのトゥイッターには何時間でも笑みを絶やさずつき合ってあげるし、ヴィーガンアカウントに張りついて
外人さんに道を尋ねられたときだって、相手が日本語なら花丸満点の愛想笑いで対応する!
「こんな心優しい好青年にいったいなんの法的根拠があって暴力を振るぱァッ!?」
今度は立ち上がるのにビンタを合わせられた。
……すっごいイイの入った。パーンッ! っていったもん、パーンッ! って。
ジンジンする頬を押さえながらお嬢様っぽく横座りでしなを作り、暴行犯をキッと睨んだ。
「ユウリ……ッ!」
「……ゆかり」
うるツヤ黒髪ロングの長身和風美少女が、こちらを見下ろしていた。
ピンと伸ばされた指が、ハーフリムの眼鏡を脇からクイッと押し上げる。芝居がかった臭っせぇ仕草なのに、思わず見入ってしまうくらい様になってる。
モデルですって言われたら、でしょうねって返すレベルの美人。
そして、そのすべてをぶち壊す、地面に黒くこびりついたガムのゴミを見るような目。
キリストでも右の頬を打たれる前に鋭く踏み込み、ボディからアッパーのコンビネーションを叩きこまずにはいられない存在っているのよね、って目!
普通ならマイナスにしかならない人を人とも思わない態度だけど、こいつの場合はそれすら美貌を引き立てるアクセントだ。
なんてイケメン。やだっ、頬が熱い。まっすぐ顔を見れないよ……涙でな!
「ふゔ、ぐすっ。踏ん張った瞬間とか振り向きざまとか、わざわざ力を逃がせないタイミング狙うなんて……ッ! 暴力とか時代錯誤だ。言葉でやれ言葉で!! 脳筋がよぉ! なんで、どいつもこいつも頭ん中に脳みそ以外のもの詰めてん……だ……よ、ねぇ……」
切れ長で涼しげな一重の瞳が、眼鏡越しに凍てつく波動を放ってた。
視線冷たッ! 冷ややかすぎるだろ。その温度は人が死ぬ……いや、むしろすでに片手じゃ足りないくらい殺してる奴の目だ、これ。
……とりあえず逃げよ。
「……はぁ」
「っ!? な、何さ?」
わざと聞こえるよう、あからさまに吐かれた溜息にビクッと肩を跳ね上げて固まる。
逃げ腰だったせいで中途半端な、誘い受けの立ちバックみたいな体勢になった。そんな僕をユウリは肥溜めを覗くみたいに顔を逸らしながら横目で見下し、もう一度溜息を吐いた。
なまじ美人なだけに、凄まれたり蔑まされたりすると、こう……くるものがあるよね。
これが一部の
――受け入れ態勢はバッチリだからさ。
いつの間に内心をお漏らししちゃっていたのか、ユウリが押っ起てた中指で眼鏡のブリッジを押し上げながら、すんごい嫌そうに顔をしかめて口を開いた。
「いや、たとえきみでも子供の頃はもう少し純真だったんじゃないかって思い返してみたんだけど……出会ってからずっとそんな調子だったなって」
「物心ついたときから初志貫徹が座右の銘なんだよね、僕」
「チッ」
視線の底冷えが凄かった。むしろ僕への低評価の底が抜けてる。
舌打ちの鋭さに心が千切れそうだ。
「おいおい、幼馴染で腐れ縁だからってフレンドリー過ぎやしない? 泣いちゃうよ?」
「腐れ縁とか、汚いものを結ばないでくれる? あと礼儀を語るなら、まず私の視界を汚してることを謝ってからにして」
「えっ!? うそうそ、どっか汚れてる?」
「……性根とか生き方とか。まとめると――人生そのものだね」
人生の汚点は聞いたことあるけど、人生が汚物っていうのは人類史上でも初じゃない?
ハッ!? もしかして……さっき床に倒れ込んだときに埃がついちゃった?
やだもぅ。ちょっと男子ぃ~、ちゃんと掃除して! 先生に言いつけるよ?
服を引っ張ったり体を捻ったりして全身を確認していると、ユウリが哀れみに満ちた視線を向けてきた。
「きみをこの世に産み落としてしまったお母さんの気持ち……考えたことある?」
「おい、しまったとか言うな! いいの? このままだと僕は本当に泣くよ? 泣きながら、生まれたとき僕が泣かなくて駄目だったと思い込んだ母親の方が泣いた、出生時の平均体重並に重い話をするよ? ……本当にいいんですか?」
「大丈夫。きみが亡くなるとき、きみの周りは笑顔で溢れているよ」
「もしかしなくても暗に死ぬことを勧めてるよね?」
「………(にこっ)」
「そこは否定しろよ!」
くそッ、笑顔がめっちゃ可愛いからって許さないからな。
そっちがギャップで攻めてくるなら僕は自分の強みを活かすぞ!
こちらを舐め腐ったその態度に、覚悟を決めて拳を固める。
ギリギリと音が鳴るほど強く握り締め、大きな楯を構えるようにくっつけた両手の甲をユウリに向け、その手で口元を隠しながら顎を引き――潤んだ瞳で上目遣いに見つめた。
「ぅぅっ、酷い、酷いよ。ゆかり何もしてないのにぃ、ユウリがいじめてくるぅ。ぴえん。ぴえん超えてぱおん」
「この程度ピーピーさえずらないで、男がぶりっ子とかキモいだけだよ。あと古い」
「僕はともかく、ぴえんとぱおんへの誹謗中傷は止めてもらおうか! 古くねぇし! 最先端だしッ! 突端すぎて先がないだけだから! つまり男なんだから強くとか、男なんだからぶりっちゃ駄目とかって考えの方が古い!
それってぇ――男性蔑視ですよねぇえええ!!!」
「黙れ」
「はい」
「帰る」
「はい」
茶番に一区切りつけて、並んで教室を出た。
この程度の掛け合いなら打ち合わせも必要ない。僕たちは、なんだかんだ息も気も合う友達なんだ。
「それと私のは男性蔑視じゃない。ゆかり蔑視だから」
……友達だよね?
***
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