「良き君主」とはなんだろうか。
おそらくは自分に正直では「良き君主」にはなれないだろう。
ルイ六世の父親は、自身の好悪に正直であったが故に、失意のなかで亡くなっている。
生涯を虚像のなかに身を置いて生きることが「良き君主」の条件のひとつならば、「本当の彼」の安息の地は、菩提寺にしかないだろう。
世俗と、聖界。
ふたつの世界を「『フランス』を形作るために」巧みに束ね、虚像のなかに生きた王。それが可能だったのは、たとえみずからが虚像に生きたとしても、自身の「真実」を知っている者があればこそだろう。
その名を刻んだ伽藍で、「かくあるべき」自分から解き放たれて眠る魂。
彼らの抱えた秘密を軸として、紡ぎ出された物語。
ルイ六世が非常にチャーミングに描かれていて、良いお話です。