エビ

sister

本編



「――エビ? お前、エビになったの? なんで」


 動揺を隠せず問い詰めた俺の言葉に、幼馴染である芽衣めいは「あはは……」と少し困ったような声で笑った。


 日本政府の主導で行われた『第二の人生キャンペーン』により、すべての国民は人生のうちに一度だけ“自分が理想とする姿”に変身することができるようになった。貧困に苦しむ人は富裕層に。余命の短い人は長生きできる身体に。モテない人はモテる人に。人々はそれぞれ理想とする姿に変身することで『第二の人生』を手に入れた。


 無論、それは俺たちも同じだった。運動は好きなのに運動神経がない俺は『運動神経抜群な人』に変身したし、俺や芽衣といつも一緒に過ごしてきた幼馴染たち三人もそれぞれ『アイドルのような美少女』『記憶力抜群な人』『料理上手な人』に変身した。


 そして全員が変身を終え、どんな姿になったのか見せ合おうと集合したところ『お寿司屋さんの生け簀に入った大きなエビ』に変身した芽衣と対面したのである。

 芽衣が言う。


「ちょっと変……だよね。でも『変身する先は人間じゃなくてもいい』って書いてあったから」

「だからってお前……。なにもそんな……」


 エビにならなくてもいいだろ……。

 最後まで声に出すこともできなかった俺の言葉に、呆然としたままの幼馴染たちは頷く。


「……理由。エビになった理由。聞いてもいいかな」


 幼馴染の一人であり芽衣の親友。

 アイドルのような美少女に変身したさきが、そんな質問をした。

 すると芽衣は、


「えっと、私ね、食べられたいなって思ったの」

「食べられ、たい……?」

「うん。お寿司屋さんのエビになって誰かに食べられたいの。見ず知らずの人の食事になって、ありふれた栄養素のひとつになりたいの」

「そんなの――ッ」

「でね、明日、やっとその夢が叶うんだ」


 嬉しそうに笑う芽衣。

 その言葉を聞いて、俺の背中が冷たくなった。

 明日、芽衣はお寿司屋さんで提供されるエビとして生を終えるというのか――?


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

エビ sister @sister_

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ