ネトゲ仲間でオフ会を開いてみたら、ウチの家族が全員集合しちゃった件

そらどり

ネトゲ仲間でオフ会を開いてみたら、ウチの家族が全員集合しちゃった件

「んーちょっと早過ぎだったかな?」


 とある休日のこと。俺―――真中翔太まなかしょうたは、地元から離れた駅前のモニュメント前にいた。

 もちろん、ここに来た理由は一つ。オフ会の待ち合わせである。


「ネトゲじゃ飽きるほど顔合わせるギルド仲間だけど、こうしてリアルでってなると緊張するな」


 ウチのギルド「ブランノワール」は六人と少数だが、新参者の俺にも優しくしてくれる良い人ばかりだ。


 シーフ兼ギルドマスターのSo-ma。初心者だった頃に助けてくれた人であり、孤立気味だった俺をギルドへ誘ってくれた善人だ。

 スカしたイケメン顔にバンダナ系マスクという陰影漂う盗賊スキンのせいで最初は臆したが、チャットしてみたら案外良いだったという典型的パターンだった。会話の素振り的に同年代っぽいので、リアルでも優しい好青年なのだろう。


 ヒーラーのMaria。傷ついたメンバーのHPを回復するだけでなく、徹底した幼女プレイでみんなを癒してくれるギルドの聖母的存在だ。

 スキンも幼女という徹底ぶり。だが、こういうタイプの人はリアルじゃ男という可能性があるので不安だ。できれば女性、同年代の女子であってほしい。


 勇者のヨッシー。火力不足の当ギルドにおけるメインアタッカーであり、剣士の最上位職である勇者に辿り着くほどのやり込みプレイヤーだ。

 ジャンヌダルクを彷彿とさせるスキンというのもあって凛々しさがひしひしと伝わってくる。Mariaとは違い、こういうガチ勢に至れば、むしろリアルも女子である可能性が高い。


 タンクの正俊まさとし。人気の少ない盾役を自ら担い、前線からメンバーを支えてくれる、まさにギルドの大黒柱だ。

 屈強なバイキングスタイルだが、チャットではすごく畏まった口調だったので、そのギャップには驚かされた。案外、リアルでは線の細い男性なのかもしれない。


 バッファーの吾輩は猫である。バフ役というこちらも人気の少ない後方支援職を引き受け、高難易度ダンジョン攻略には欠かせない存在だ。

 その名前の通り、猫スキンかつ語尾に「ニャ」を付けるケモナープレイヤー。正直、男か女か想像もつかないが、言葉の節々から女性らしさが伝わってくるのは間違いない。


 そして俺、サブアタッカーのShow。これで全員だ。


 エンジョイ勢の多い我らギルドだが、それでもランキング上位に食い込むほどの成果を上げている。

 これも全ては絆の成せる技だろう。互いに全幅の信頼を寄せ、己の役割を理解し全うしたおかげであり、だからこそこうして祝勝会と称してオフ会を企画できたのだ。

 

 主催者として、今日は思い出に残るオフ会にしなくては。


「んーそろそろ時間なんだけどな……」


 腕時計に目をやろうとしたその時、後ろから「もしかして『ブランノワール』の人ですか?」と声を掛けられた。

 俺は慌てて「あ、そうです」と言いながら振り返る。すると……


「いやぁ遅れちゃってすみませーん。ギルマスのSo-maでーす」

「ああどうも。showで……え、杏奈あんな!?」

「お、お兄ちゃん!?」


 何故か、妹がそこに立っていた。


「は!? おまっ、なんでここに!?」

「なんでってオフ会に参加するからよ! それより、お兄ちゃんはなんでいるのよ!?」

「俺だってオフ会で来たんだよ!」

「ええ……!?」

 

 目をぱちくりさせながら、妹は明らかに動揺を露わにしている。だがそれは俺も同じで、身内の予想外過ぎる登場に理解が追い付かない。


(い、いったいどういう……って、それより! さっきコイツ、So-maって……!)


 ネトゲで男だと思ってた奴が実は女だった、とかいうラノベ展開には何となく憧れを抱いていた。というか多分、ラノベ好きなら一度は望んだことがある展開なんじゃないかとすら思っている。

 でも実妹となれば話は別だ。あのSo-maが妹だと? 普段は俺様口調のスカシ野郎だけど時には優しさを垣間見せてくれるあのSo-maが? 嘘だろ……


 正直今でも信じられない。

 だが、こうして状況的に答え合わせができてしまった以上、もう疑いようがない。間違いなく、妹がSo-maなのだ。

 

 正面に目をやると、妹は額に手を当てながら深く溜息をついていた。どうやら妹も状況の整理が落ちついた様子だった。


「なるほど、まさかshowがお兄ちゃんだったなんて。全然気づかなかった……」

「そりゃこっちの台詞だ。オフ会で家族と鉢合わせるとか、普通ねえだろ……」

「いやぁ世間は狭いねぇ」

「うるせえ。……てか何だあのキャラ? スキンといい俺様口調といい、リアルと別人じゃねえか」

「そりゃそうでしょ。だって蒼馬そうま様を演じてるんだから」

「そうま、さま?」

「知らないの!? 某アイドル事務所所属で今世間で最も人気を集めるアイドルグループのリーダーじゃない! 特に女子高生の間じゃトレンドもトレンドよ!」

「うお!?」

 

 その熱量極まった推しトークに気圧されてしまった。


 ……そういえばいたかもしれない。最近女子高生から人気を集めている男性アイドル。すまし顔の俺様キャラで、確か名前が生田蒼馬だったか。

 てことはつまり、So-maのキャラもスキンも、全てはあのアイドルの真似だったのか。


「いいでしょ~私の最推し蒼馬様プレイ♡ 成り切ってるだけで、まるで推しと一つになれた気分になれるの~♡」

「そ、そっすか」


 アイドル事情に詳しくない俺としては賛同しかねるが、まあ他人に迷惑を掛けてないし大丈夫だろう。

 とはいえ、裏切られた気分には変わりないが。リアルでも好青年だと思ってたんだけどなぁ……


「……あ、もしかして『ブランノワール』の方たちですか?」


 そんな時、唐突に後ろから声を掛けられた。

 どうやら新たにギルメンが到着したらしい。そう思い、俺は憂鬱な気持ちを切り替えるように元気よく「あ、そうです!」と言いながら振り返る。すると……


「お待たせしてしまってすみません。Mariaと言います」

「どうも。showで……え、父さん!?」

「パパ!?」

「んん!? 翔太に杏奈じゃないか!」


 何故か、父がそこに立っていた。


「な、なんでパパがここにいるの!?」

「何でも何も、オフ会に参加するからに決まってるだろう! それよりも、なんで二人がここに?」

「オフ会に参加しに来たのよ。その……『ブランノワール』のオフ会に、ね……」

「父さんも『ブランノワール』のオフ会に来て……え? ま、まさか……」


 確信一歩手前に辿り着いた父の訝しげな独り言ちに、俺と妹は気まずそうに頷いてあげると、父の顔は瞬く間に青く染まっていった。

 それもそうだろう。家では厳格な父として振る舞っているのに、ネトゲではMariaとして徹底した幼女キャラを披露しているのだから。


 「お兄ちゃん頑張って(ハート)」とか「痛いよぉ(泣き顔)」とか、一緒にネトゲしているこっちがこそばゆく感じるほどの幼女プレイ。

 もしかしたら男なんじゃないかと疑っていたが、まさかMariaの正体が自分の父だったとは……


「なるほど、まさか二人がギルメンにいたとは。自分の子供だと気づかずに私は……」

「いやまあ聞きたいことは山々なんだけどさ、何でネトゲやって……というかネカマしようと思ったの?」

「何で、だと?」


 呆れ口調で尋ねると、父はどこか観念したように穏やかな表情になった。


「父さんな、幼女になりたかったんだ」

「……は?」

「子供の頃からの夢でな。大人になって家族を支える立場になっても、幼女になりたいという夢を諦めることはできなかった。そして今、ようやく見つけたんだよ。ネトゲでなら幼女になれる、と」

「えっと、言ってる意味がよく……」

「時間にも性別にも縛られない、幼女こそが父さんにとってのリアルなんだ!」

「……」


 父から熱く豪語されてしまったが、正直言って全く心に響かない。

 銀行勤めの真面目で頼りになる父という像が確立していただけに、ショックの方が大きい。


「大丈夫だよパパ。TS願望だろうと幼女願望だろうと、私はパパの娘だから」

「あ、杏奈……」


 目の前で感動のホームドラマを見せつけられるが、やはり虚無の眼差しになってしまう。深く溜息をついていると、ふと後ろから声を掛けられた。

 

「……あのぅ、みなさんって『ブランノワール』の人たちで合ってますか~?」

「え? あっ、はい! 合ってますよ!」


 お淑やかでのほほんとした声、つまり相手は女性ということ。

 期待に胸を膨らませながら、俺は振り返る。すると……


「こんにちわ~、ヨッシーって言います~」

「初めまして、showで……はあ!? 母さん!?」

「ママ!?」

「母さん!?」

「あれぇ? 翔太に杏奈、それにあなたまで?」


 何故か、母がそこに立っていた。


「まあまあどうしたの~みんなで集まって」

「それはこっちの台詞だ! な、なんで母さんがオフ会に……」

「私も参加するからよ~。……あれぇ? ということはみんなも?」


 訳が分からず狼狽える父に対し、母は全く意に介さず。相手をあしらうその独特な振る舞いは、いつも家で行われている光景そのものだった。

 だが俺の心中は穏やかではない。だって、家ではのほほんとした雰囲気でマイペースな自分の母が、効率厨かつ無慈悲な殺戮コンボで最難関ダンジョンを攻略する鬼畜勇者スレイヤー、ヨッシーだと言うのだから。


「みんながネトゲにハマってるのは知ってたけど、まさか同じギルドだったなんて。こんな偶然あるのね~」

「い、いや、ちょっと理解が追い付かないんだけど……え、あのヨッシーの正体が母さん? 嘘でしょ……?」

「ふふっ、オンラインゲームって初体験だったけど、やってみたら意外と楽しいのね~」

「たの、しい……?」


 PVP戦において、残心だと言い訳して死体撃ちする悪行を常に繰り返していたが、まさかあれを煽り行為だと知らずに無邪気に楽しんでいたというのか。

 純粋ゆえに残虐過ぎる母の一面を垣間見てしまい、思わず眉間にしわが寄ってしまう俺。すると、おもむろに母は物憂げな顔を見せる。


「ママね、日常に退屈してたの」

「へ?」


 な、なんだ? 急に敗北を知らない強敵キャラみたいなことを言い始めたぞ?

 突如、殺伐めいたことを言いだした母に困惑する俺を差し置き、その母は回顧するように遠くを見やりながら話を続ける。


「毎日が同じことの繰り返しで、そんな日々に飽き飽きしてて、何でもいいから刺激的なことが起きないかなって期待しながら過ごしてきたの。だからね、ヨッシーとして殺戮の限りを尽くす日々はすごく快感なのよ!」

「ヒェッ……」


 満面の笑みでとんでもないことを言う母。

 どうしてここまでのサイコパスが生まれてしまったのか、それとも元々こういう気質を秘めていたのか。詳細は分からないが、こうして目の当たりにしまうと、あのヨッシーと同一人物なのだと認めざるを得なかった。

 

 あまりに強烈過ぎる答え合わせ。まさか自分の母がこんな悪魔だったなんて……


「隠しててごめんなさい、あなた。こんな私知られたくなくて……幻滅したわよね?」

「そんなわけない。俺はどんな母さんでも愛してみせるさ」

「あなた……!」


 公衆の面前で熱い抱擁を交わす両親だったが、これを見せられる子供の気持ちくらいちょっとは考えてほしい。

 てか、あんたがそれを言うのか父さん……


 取り敢えず距離を置こう、そう思って一歩後ろへ後ずさろうとしたところ、固い棒らしき何かがアスファルトを小突く音が近づいて来た。


「えぇ~、『ブランノワール』のオフ会の待ち合わせ場所はこちらで合ってますかねぇ?」

「え? あ、はい。合ってますけど」

 

 なんだかやけに深みのある声に疑問を抱きつつ、俺は新たにやって来たギルメンに振り返る。すると……


「お待たせしてすみませんねぇ。正俊と言いますぅ」

「showと言い……は、はあ!? ばあちゃん!?」

「おばあちゃん!?」

「御母さん!?」

「お母さん!」

「おやまぁ。誰かと思ったら翔太じゃないか」


 何故か、祖母が松葉杖を突きながらそこに立っていた。


「なんだい、杏奈に誠司せいじさんに加奈子かなこまで揃って。今日はオフ会と聞いてたんだがねぇ」

「実はねお母さん、私達偶然にもそのオフ会で鉢合わせちゃったみたいなのよ~」

「おやまあ、それは奇遇だねぇ」

「……いや軽いな反応が!」


 ここにいることに疑問すら抱かない母と、超速理解とばかりに得心する祖母のフワフワとした会話に対し、今まで平生を保っていた俺もさすがにツッコんでしまった。


「ちょ、ちょっと待ってくれ! 多すぎる! ツッコミどころが多すぎる!」


 裏でネトゲやってたという事実にも驚きだが、いつも茶の間でのんびり大河ドラマ観てる祖母が、攻撃されてもビクともしない強靭な肉体で相手の戦意を喪失させる大型タンク―――正俊だったとは。あまりに正反対すぎて目ん玉が飛び出そうになる。

 「スマホなんてなくとも生きていけるわい」とか言ってた保守人なのに……一体何があったんだ。


「……翔太に驚かれるのも無理はないと思っとる。昔っから機械には疎かったからのぅ」

「え?」

「でもね、おばあちゃん気づいたんだよ。キャラクリして、動かして、演じてみて……そうしていると何だかにまた会えた気がして、年甲斐もなく嬉しくなってしまうんだよ。最初はネトゲって言葉すら分からなかったけどねぇ」

「ばあちゃん……」

 

 そう言えば昔、あの人―――祖父について祖母が口にしていた。

 筋肉質でたくましく、困った時はいつでも助けてくれる優しい人だったとか。それこそ、あの正俊と同じように。

 ……もしかしたら、ネトゲを通して今は亡き祖父の面影を追っているのかもしれない。


(おじいちゃんのことは話の中でしか知らないけど、今でも会いたいほど好きなんだろうな)


 思っていた以上に重い事情だったが、そういうことなら未亡人である祖母には同情せずにいられない。

 寂しそうに笑みを溢す祖母を見て、つられて俺の表情にも陰りが―――


「何言ってるのよお母さん、正俊さんって昔好きだったホストの一人でしょ? 今もピンピンしてるし、そもそもお母さん未婚じゃない~」

「……は?」

「狂ったようにホスト通いしてあまつさえデキちゃったんだから。ふふっ、本当にお母さんは節操がないわね~」

「ふんっ、若気の至りなんじゃから別にええじゃろがい。ヤっちまったもんは仕方ないし、ちゃんとお前を育ててやったんじゃから感謝せえ」

「ちょおっ、え、ええ!?」


 母と祖母は何でもないように話を続けているが、外野の俺にとっては衝撃が強すぎる。

 あまりに闇深エピソードが出てきたせいで、深淵を覗いているのかと錯覚してしまう。いや実際に覗いているのかもしれない。いや覗いちゃったなコレ。

 まさか、日中はいつも縁側で座っている祖母の過去がここまで波乱だったとは……


 理解が全く追い付かない俺をよそに、祖母はどこか呆れたように独り言ちる。

 

「今じゃヨレヨレの爺さんになりよって。若かりしあの人が恋しいのぅ……」

「……」


 もう何もかもが信じられない。妹も父も母も祖母も、リアルとの差が激しすぎて人間不信に陥りそうになってしまう。

 本来なら合コンみたいに楽しい会になるはずだったのに、どうしてこんなことに……家族で集まるためにオフ会を主催したわけじゃないのに。


 ……いや、オフ会に来るギルメンはまだ一人残っている。

 最後の一人―――吾輩は猫であるとかいうふざけた名前の奴だが、もうこの際誰でもいい、せめて普通の奴であることを願うしかない。


 そんな時。鈴音を立てながら近づいてくる気配に気づいた。

 どうやら最後のギルメンがやって来たらしい。一縷の望みを託し、俺は意を決して振り返った。すると……


「ニャー」

「え、シロ?」


 何故か、飼い猫のシロがいた。


「お前何でここにいるんだよ……って、何だコレ?」


 膝を付いて抱き抱えようとしたところ、首からプレートのようなものをぶら下げていることに気づいた。

 そこには乱雑ながらも文字が書かれている。手に取り、目を凝らして読んでみると……


「えぇっと……『吾輩は猫である』? え、まさか……」

「ニャー」

「もはや人じゃねえェ!!」


 もう訳が分からない。最後のメンバーが人外とかあまりに予想外過ぎるし、そもそも何でネコがネトゲやってんだ。

 

(欲しい時にいつもバフ掛けてくれる、気遣い名人の吾輩は猫であるの正体がシロだと? あれほど人間心理に長けた奴が、実は動物だったってどんなオチだよ? 名前もそうだしプレートの文字もパソコン云々も……ああもう!) 


 これ以上はダメだ。色々とおかしすぎて頭がパンクしてしまう。こんなんもうツッコミ入れるってレベルじゃねえぞオイ。


「そういえばおばあちゃん、縁側でよくシロにパソコンと文字の扱い方教えてたよね」

「翔太と杏奈の時もそうでしたが、御母さんの面倒見の良さには頭が上がりませんな」

「まあっ、シロは賢いのね~」

「おばあちゃんの教え方がええんじゃよ」

「え、何サラッと受け入れてんの? 俺がおかしいのコレ?」


 疑問を抱きまくっている俺とは対照的に、飼い猫を介して平然と盛り上がりを見せる家族。

 柔軟性とか包容力とかそういうレベルじゃない、ウチの家族の倫理観が完全にバグっているとしか言いようがなかった。


「ああもう! いったいどうなってんだ今日のオフ会は!?」


 とうとう堪忍袋の緒が切れてしまった。

 俺は鬱憤を晴らすように、この場に揃ってしまった家族全員に対して募りに募った怒りをぶちまけた。


「親睦を深めてギルドの結束を固めようと思ったから主催したんだ! なのに集まったのは、ドルオタ妹に幼女父さんにサイコ母さんにヤリばあちゃんに化けネコだと!? 俺をバカにすんのも大概にしろよ!」

「「「「まあまあ」」」」

「ニャー」

「うるせえ! あとニャー言うな!」


 激情をぶつけるなんて、普段の俺ならしなかっただろう。感情に身を任せれば相手を傷つけてしまう、心中に押しとどめておくのが最善だと理解しているから。

 そう分かっているのに怒りをぶちまけてしまったのは、それほどまでにオフ会が楽しみだったから。家族勢揃いになるだなんて、想像すらしていなかったけど。


 そう、楽しみだったのだ、本当に、心の底から……


「はぁ、こんなことになるなら初めから来るんじゃなかった。……もう帰るからな俺」


 そう言うと、俺は家族を残し、重い足取りで改札に向かうことに。

 だがその途中、すれ違いざまに父がボソリと呟いた。


「……でもまさか、翔太に口説かれてたなんてな」


 その背筋が凍るような一言に、俺の足が止まった。


「ママもセクハラされたわ。くっ殺っていうの? それをやってくれって」

「え、そうなの? 私なんてイケメンスキンだからか目の仇みたいに嫌がらせ行為されてたけど」

「無理やりクエストに参加させられた挙句、クリア報酬を根こそぎ追いはぎされたのぅ」

「ニャー(こちとらセクハラされとんじゃワレ)」


 父の言葉を皮切りに、次々と俺の犯してきた悪行が飛び交う。

 女贔屓、ハラスメント、女贔屓、女贔屓、女贔屓……一度言い出したら不満は止まらなかった。


「あの害悪プレイヤーのshowが、俺の息子だったとは……」

「あんなに優しくしてあげたのに。恩を仇で返しやがってこのクソ兄貴」

「息子にセクハラされてたなんて、いくらママでもちょっと……」

「ここまでの下衆は、ホストでもなかなかいないのぅ」

「ニャー(〇すぞ)」


 そして一通り言い終えると、今度は視線が集中する。

 冷徹で鋭利な視線が背中にズキズキと突き刺さり……しばらく表情を引き攣らせていた俺は、「フっ」と不敵に笑うと、軽快な声とともに振り返った。


「よし、じゃあ全員揃ったことですし、オフ会会場に行きましょっか!」

「「「「「行くかッ!」」」」」

「シャーッ!」


 現実逃避は叶わず、その後、カラオケボックスでは代わりに緊急家族会議が開かれたのであった。

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ネトゲ仲間でオフ会を開いてみたら、ウチの家族が全員集合しちゃった件 そらどり @soradori

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