16話

「では、説明タイムとしようか。何から聞きたい?お姉さんがなんでも答えてあげる」


 まあ俺が自己紹介する必要は無いだろう。そんなに調べてるんだし。


徒花ノミナルとは?」


 一番初めに聞くならこれだろう。


造花フェイクフラワー人工アーティフィシャルフラワー、略してAFアフィなんて呼ぶ奴もいるね。見た目は開花病の症状と変わりない。でも徒花は、外部から植え付けられる。手術オペだったり、君みたいに注射筒シリンジだったりね。あとはスーパーパワーが備わることがある。超能力、もしくは異能力って言った方が馴染みあるかな。もちろん、何の力も無い子もいるけど。」


「あー、そっちの方がしっくり来る。…ラニモン、お前なんか知ってるか?」


 先程から思っていたが、あまりにもラニモンが静かすぎる。


「寝ちゃったんじゃない?話長くて」


「この野郎…」


「まあ置いといて。私の場合、こうやって糸を出せる」


 手を目の前に伸ばしてきて、高速であやとりを始めた。素早い手の動きの中、確認できたのは吊り橋、田んぼ、ダイヤ、星くらいだ。懐かしいな。


「蜘蛛の糸みたいにベタベタしたものを出してトラップ作れるし、口から突然吐き出して相手の視界を塞ぐことだってできる。かの有名な蜘蛛男スパイダーと似たようなもんだよ」


 想像すると、落ち着きそうだった鳥肌がまたブツブツと出てくる。蜘蛛かよ、最悪だよ、まだマシな虫ではあるんだけど。 正しくは虫ではないんだけども、足が多い生き物はとりあえず嫌悪感が湧く。


「あ、普通の徒花なら死なないよ?滅多に拒絶反応リジェクション出ないもん」


「…じゃあ、その拒絶反応リジェクションって?」


「んー、そのままではあるよね。異物と判断して、排除しようとする。あんまり医学詳しくないけど、臓器移植した時に起こるらしいね、同じようなの。人間と植物、互いが互いを異物だと認識して、細胞が争ったりなんなりした末に死ぬの」


「はぁ、なるほどな?」


 異物と認識しない方がおかしい気もするが、そういうとこも特殊なんだろうか。


特別製スペシャルは通常の徒花とは違う。適合する確率はめちゃめちゃに低い、それこそ宝くじ一等が当たるレベルだよ」


 俺はこんなものに運を使い果たしてしまったのか、URウルトラレアとかのためじゃなく。でも、死ななかったなら、いいか?


「ちなみに、血液とか唾液で適合するか否かの検査はできない。うちの発明家がちょこちょこっと検査キットみたいなの作ってるけど、みんな死ぬからほとんど信用出来ない。だから、片っ端からやるしかないんだよねえ」


「…無差別殺人鬼みてぇなことしてんのか」


「誰彼構わずホイホイ打ってるわけじゃないよ。君はちゃんと一目惚れって言ったじゃん、ひどい」


「ちゃんとした理由ではねえだろ!」


 子供の機嫌を取るように頭を撫でられる。俺は割ともうすぐで大人になるんだ、ため息が出る。でもそこまで嫌な気はしないのは、姉によく撫でられるせいだろうか。


「次。開花病って結局何なんだよ?ラニモンからも色々言われたけど、本当にやべー病なのか?」


「開花病はどうやら、人間の感情や思いに強く反応して咲くものらしいの。感染症って言われてるけど、感染経路は聞かないでしょ?」


 開花病についての報道や情報はあまりテレビで放送しなくなっている。人間の適応能力か、何かが裏で動いているのか。


「植物と接触して生えてくる訳でもないし、開花病持ちに接触して生えてくる訳でもない。突然ポーンと咲いてくる。うちでは媒介物感染とか、空気感染が疑われてるくらいかな。何処からともなく現れる、まるでのろいみたいな病だよ」


 開花病を患った者の写真はいくら上がっても、開花病を引き起こす原因の姿はどこにも上がっていない。ウイルス、もしくは細菌の姿が分からないまま、数年経過しているのだ。現代の顕微鏡では見えないのか?感染したらそれは消えてしまうのか?俺には分からない。頭はそういった知識に疎いし、理科は苦手な方だ。


「私はこう考える。──開花病は感染症や、呪いではない。何者かに小さな小さな、を植え付けられてるんじゃないか?って」


「有り得そうだけど、人間に生えるか?」


「キノコが肺の中に生えて死にかけた。なんてニュース聞いたことない?」


 でもアレは人間の免疫力に強い抵抗力を持つキノコだから、って専門家が説明していたような。


「あるにはある。けど、……」


 ふと電気ポットに目が行った。チカ、チカと赤いランプが点滅している。沸かし終わっている合図。すっかり忘れていた、ドレッシングぶっ掛けたサラダのことも。


「飯食っていい?てか離れてくんない?あと、そろそろ顔見せてくれても良くねえか?」


「えー、別にいいけど。恥ずかしいなあ」


「歳下の俺にずっと背後から抱きついている方が恥ずかしいと思うけど」


 ゆっくりと振り返れば、長い銀髪を緩く結った女がそこにいる。化粧をして大人びた雰囲気、しているから大人っぽく見えるだけかもしれないが。腕で重そうな膨らみを少し、上へと押し上げているのに目を惹かれる。悪いと心の底から思うが、俺は年頃の男だ。そんな考えの自分を二、三回殴ってしまいたくなる。


「思ったよりジロジロ見てくるね春章くん」


「殴ってくれ」


「あれ、意外とMマゾなの?可愛いねえ」


「違ぇよボケカスクソ」


 小学生レベルの悪態をつきながら、カップ麺に湯を注ぐ。冷蔵庫から少し炭酸の抜けた2Lのサイダーを取りだして、俺とナクアの分を淹れた。


「嫌いなら飲まなくていい」


「んーん、炭酸好きだよ、ありがとね」


 にんまりと嬉しそうに笑って、俺がラーメンをすするところを観察してくる。異常者、としか俺は表現できない。なんで灯護じゃなくて俺なんだよ、あいつはライバルキャラっぽいけど、お姉さんキャラは大体ソッチに執着するもんだろ。


 LEEKリークからの通知、灯護のメッセージが表示されていた。



[ゆきじろひめ]

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エフロレスンス 勿忘草 @Wasu_Rena_Gusa

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