第1章 花屋敷の呪い児15
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かつて昔々の大昔、まだこの階層都市が造られるよりもっと昔のことだという。
周辺の国々を巻き込み、大陸全土を覆い尽くすほどの大戦があったという。
その時、人々は武器を手に取り戦うモノもいれば、呪いの力――即ち呪術師と呼ばれる様々な呪いの力を駆使して戦う者すらいたという。
中でも、蟲師の力は絶大な力を有していた。蟲師が操る術の中でも筆頭に位置する蟲――その名を〝人蟲〟と呼んだ。
「…………」
そうして、出来上がったのは一つの巨大な呪いの児。
数多の人を戦わせ、殺し合わせた結果――生まれ落ちたその存在は、幼い少女の姿をしていたという。
「今夜は月が綺麗だわ……」
それは特別な水盆を通じて外界を眺め見る、唯一の愉しみごと。
すべての呪いを写し、この紅の眼が移し取る。一匹残らず、欠片も余韻すらも逃しはしない。
「だって、私はこんなにも呪いを愛しているのだから」
呪いのもとに生み落とされ、遙か永劫とも言える刻を過ごしてきた。
月鏡と出逢う――あの瞬間までは……。
(呪いとともに在り、生死の循環より逸してしまった)
そのことを嘆いたことは、一度も無い。
「愛しい愛しい呪い蟲たちよ――」
呪い児の少女は謳うように囁きかける。
下層中層上層にすまう数多の怪異呪物の根源に――悪鬼魍魎の数々に語りかける。
「ヒトが育む営みは、なにより尊いわ。だってヒトがいることで呪いが生まれ循環してゆくのだから」
まだこの世に生を受けていない呪い蟲よ。
そしてなによりも、この身に降っていない呪い蟲よ。
「どうか私にこれからも、素晴らしい蟲に逢わせて頂戴。私は〝人蟲〟。数多の呪いをその身に宿し、営み、育むモノ――」
少女は一人うそぶく。
誰もいない花屋敷の中で、一人優しく愛を囁く。
傀儡奇譚――呪い児は愛をうそぶく 櫻木いづる @sakuragi-izuru
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