あのまばたきの意味

旗尾 鉄

第1話

 理奈が、引っ越すことになった。


 お父さんが転勤になって北海道へ。栄転なんだそうだ。


 理奈と僕は、ほとんど生まれたときからの幼なじみだ。今、中二だから、十四年の付き合いになる。家は同じマンションの一階違い、保育園も小学校も中学校も同じだった。


 僕らは、ずっと仲が良かった。親に言えない内緒話もした。テストの点が悪かったから隠してるとか、ピアノ教室さぼったとか。僕はわりと人見知りで内向的だったけど、理奈は明るくて友達が多かった。


 小学生の頃は毎年バレンタインチョコをくれた。六年生の時なんか、誰々君に渡そうと思ったけど倍率高すぎて諦めた、といって手作りチョコを僕に押し付けた。僕だって男子なのに、そこまでばらすかなあ、と思ったけど、おいしかった。


 中学生になってからチョコはなくなったけど、僕らの仲の良さは変わらなかった。中一で僕の身長が理奈を追い抜いたとき、彼女は悔しがって家で何度も測り直した。テスト前には、夜遅くまで一緒に勉強した。二人とも、半分眠ってたけど。


 僕らは親友。男と女の友情、僕はそう思っていたんだ。






 最後の日。クラスの有志で駅まで見送りに行ったとき、僕は動画係を買って出た。理奈のために、何か特別な役目を果たしたかったんだと思う。


 理奈は理奈らしく、明るく笑っていた。でも、撮影していた僕は気付いた。女子みんなで並んで撮ったとき、カメラ目線の理奈が何度も何度もまばたきしていたことを。涙をこらえているんだ、そう思った。






 理奈がいなくなって、僕は気が抜けたようになった。何をしていても、いつの間にか理奈の顔を思い出してしまう。明るい笑顔を。写真や動画はやりとりしているけど、そういうことじゃない。僕にとって、彼女はこんなにも大事な存在だった。


 会えなくなって初めて気付いた。友情じゃなかった。僕は、理奈に恋をしていたんだ。


 最後に撮った動画を再生する。理奈が何度も目をパチパチさせている。僕の頭の中には理奈との思い出が次々に流れていく。そういえば、一緒に映画に行ったな。豪華客船が沈没して、乗客が力を合わせて脱出するストーリーだった。理奈はモールス信号のことを知らなくて、僕は偉そうに説明して……。


 突然、動画と思い出がシンクロした。僕は動画を見直した。理奈がまばたきする。長く、短く。少し間をおいて、短く二回。僕は夢中で、スマホでモールス信号表を検索した。


「ダ」「イ」「ス」「キ」。




 僕は、大声で泣いた。

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