最終話 こらぁ〜!つまみ食いしたのは誰だあ〜?

「そういう事じゃないの、涼太」


 涼太と視線を合わせながら、マキは語りかける。


「この子をおうちに連れて帰ったら、もう家族なの。可愛いって言うだけじゃダメなんだよ?お父さんやお母さん、涼太で気持ちと時間を出し合って、私達がこの子をいっぱい幸せにしてあげるの。涼太にもできる?」

「します!しあーせにするのです!だって!だって!」


 マキに負けじと、一歩も引かない、と目に気迫を込め。

 零れ落ちる涙を子猫と分かち合いながら、涼太は叫ぶ。


「ぼくはせーぎのみかた!ゆうしゃなんだからぁ!」



【SIDE‐A(子猫の世界)】


 空にふわり、と姿を見せている女神に向かって、涼太は懸命にその想いを口にする。


「女神様、僕は貴女によってこの世界に降り立った勇者です。感謝しています。もちろん、この世界の為に全力を尽くすつもりです。そんな僕ですが……悲しくても、寂しくても一人で頑張ってきたこの子を、このままにしておく事はできません」

『……生半可な同情は互いが悲しい思いをするだけです』


 気遣わしげに言葉を投げかけてきた女神の表情は真剣である。

 頬をつたい始めた涙に構わずに涼太は叫んだ。


「この子と僕は、同じです!この世界にたった一つだけの命を持って生まれてきたもの同士です!目の前で悲しい思いをしているこの子から目を逸らして得た未来なんて、幸せなんて!何の意味があるのでしょうか!」

『……貴方にも、その子の未来を形作る責任が生じます。どんなに苦しくとも、本当にその娘に幸せな道を、未来を与えられると?』

「女神様!女神様!お願いです」


 いつしか涙を流していた少女は、涼太の傍に駆け寄ってひざまずいた。


「女神様!私、一生懸命頑張ります!涼太さんの足手まといにならないように頑張ります!お邪魔にならないように、頑張ります!頑張ります!頑張ります!もう絶対に、弱音は吐きません!だから!だからっ……!」



【SIDE‐B(涼太とマキの世界)】


 澄んだ瞳からキラキラと透明な涙を溢し始めた涼太。


「これはうんめーなのです!こねこさんとぼくのうんめーなのです!ぼくがまもるって!やくそくしたんです!」


 にあ!

 にあ?!


 に”ゃっ?!

 にっ?!

 にああ!

 にあっ!


 飛び跳ねては叫ぶ涼太の腕の中で驚いた子猫だったが、飛び跳ねては鳴きながらも涼太同様に顔を見つめている。


「ほら、ぴょんこぴょんこしたら子猫、びっくりしちゃうよ?飛ばなくていいから……あら?、すっごいカメラ……というか、私目線?!」

「そうなのです!いいこいいこのこねこさんなのです!」


 にあっ?!

 にいいっ?!


 子猫の、絶対に離れないんだから!と言わんばかりの、気迫溢れる涼太へのしがみ付きにマキは驚く。


 しかも。


(子猫にめっちゃ見られてる……めちゃめちゃ目がウルウルしてるぅ?!この子人間の言葉わかってたりしないよね?!……でも運命、か。悪くない。悪くないよ、涼太)


 必死に寄り添おうとしているような二人を見て、マキの心は決まった。


「ほらほら、わかったから。子猫見てもらうからお医者さん行くよ。飼うんだったら、準備する事もいっぱいあるんだから。お父さんにもちゃんと頼んであげる」

「ほんとですか!やったー!」


 にあー!!

 にああっ!


 ひときわかん高く鳴いた子猫を両手で掲げた涼太。


 そして。


「あー、ほら。お医者さん行くからお母さんが抱っこ……およよ?!」


 子猫はマキの胸に飛び、くるるる、と喉を鳴らした。 

 まるで、ありがとう、と言わんばかりに。


「おおお!こねこさんもありがとうって!それにいちばんつよいのがおかあさんって、やっぱりわかるんですね!」

「お母さん、周りの目に心が折れそうよー」


 口を押さえ、または顔を背けて肩を震わせるギャラリーに、へにょり、と眉を寄せてマキは唇を尖らせた。


「でも、涼太」

「はい!なんでしょうか!」

「お母さんも、運命って思えてきた」

「はい!うんめーなのですっ!」





 【SIDE‐A(子猫リラの世界)】


 二週間後。


「ふう、今日も忙しい一日だった。ただいま……おっ?」

「女神様!涼太さん!おかえりなさい!寂しかったです!会いたかったです!女神様!涼太さん!涼太さん!」

「あはは、リラは甘えん坊だなあ。ただいま」


 微笑みながら自分の頭を撫でる涼太に、猫耳少女『リラ』は憤慨する。

 

「あ!子ども扱いしてる!リラは子供じゃないですう!そんな失礼な事を思った涼太さんは、罰としていっぱいなでなでして下さい!リラがいいっていうまでなでなでして下さい!」


 リラは、ごろごろ!と喉を鳴らして涼太にしがみつく。


「もう、つまんなかった!お腹空いた!涼太さんいないと寂しい!涼太さん!りょーたさーんっ!!」

「僕もリラに会えなくて寂しかったよ、ただいま」


 ごろごろごろ、ふすー!

 ごろごろごろごろ!


 雷の様に喉を鳴らし、涼太に纏わりつくリラに女神は語り掛けた。


『今日はお風呂の日。ご飯食べたらキレイキレイになりましょう』

「……わ、わわ、私!今日はかくれんぼがしたいです!」

「あはは、ユラはお湯苦手だよね。ふわふわのリラ、見たいなあ」

「もー!リラはいつも毛づくろいしてふあふあなんですから!……でも涼太さんがどーしてもっていうなら、どーしてもっていうなら!お、お風呂に入って見せましょう!」



【SIDE‐B(涼太とマキの世界)】


 涼太が我が家に入るなり全力ダッシュで飛びついた子猫は、マキの実家で今も矍鑠かくしゃくとして元気なサラにあやかり、また良太の一文字をとって『リラ』と名付けられた。


 結局は風呂という言葉に逃げ回り、かくれんぼし、猫じゃらしでおびき寄せられたリラは風呂場でもがもがうにゃうにゃと藻掻きながら体を洗われる羽目となり。


 ようやく慣れてきた離乳食を食べさせてもらって。


 体が大きくなって許された、涼太の布団に潜り込み。


 ごろごろぽかぽかと幸せな眠りにつくのであった。



【SIDE‐A(子猫リラの世界)】


『涼太さん!今日も張り切っていきましょう!』

『そうだね。世界が僕らを待ってる、行こう!』

『はいっ!』

『リラ、今日はどこを探検したいんだっけ?』

『美味しそうな香りのする広場に行きましょう!』



【SIDE‐B(涼太とマキの世界)】


「こらぁ〜!つまみ食いしたのは誰だあ〜?」

「……(もごもごもご!)」

『……(はぐはぐはぐ)』


 腰に手を当てるマキに、互いを庇うようなそぶりを見せ、前に出る


「もう、全く……ほんと、兄妹みたいだねえ」


 マキは嬉しそうに笑った。



 猫耳少女と勇者の旅は始まったばかり。

 更なる幸せを目指して、今日もまた。

 



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保育園児ゆうしゃ様と猫耳少女。 マクスウェルの仔猫 @majikaru1124

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