三話目 ぼくがまもるって!やくそくしたんです!
【SIDE‐A】
(涼太さん……)
少女に涼太と名乗った少年は、その目の前で手を組み合わせて、空に向かって一心不乱に祈り続けていた。
祈る相手は、女神。
涼太が祈り始めてから、いつしか同じように手を組み合わせ、気が付けば地面に
(女神様。女神様、女神様……何もできない私が涼太さんのお
少女も、祈り始めた。
●
【SIDE‐B】
「おかあさん!こねこさんかわいい!かわいい!」
にあ~。
に……。
……。
?!
にあ!
にあ!
ん、に……。
涼太に抱かれて撫でられている子猫は、鳴いたりうつらうつらとなって目を閉じたり、を繰り返している。
” あらあら、眠そうねぇ ”
マキは小声でそっと話し、それに涼太も合わせた。
” おねむですね!ねえねえおかあさん!こねこさん、うちのふあふあおふとんでねかせてあげようよ!ね!そうしましょう! ”
(そうなるわよねえ。さて、どう話そうかしら)
もちろん、この展開を予想したマキである。
自分も昔、そうだったのだ。
が、それとなく話しかける。
” あらら?おうちに連れて帰るの? ”
” おねむだし、きっとおなかもぺこぺこです! ”
” でも、お母さんがこの子の事探してるかもだよ? ”
” あうー ”
しょんぼりと唇を尖らせる涼太。
が、すぐに顔を輝かせた。
” じゃあですね!おかあさんをさがしましょう! ”
” うんうん ”
” まいごなら、おうちにつれてきましょう! ”
” あらあらー ”
” まいごはさみしいです!おうちにつれてきましょう!ぼくがまもるからってやくそくしたんです! ”
キラキラの瞳で見上げてくる涼太の頭を撫でつつ、マキは子猫の様子を観察する。
(うーん……産まれて数週間かな。あの時のサラよりは少し大きい。汚れてはいるけど毛並みは悪くないから、母猫とはぐれて間もないんだろう。でも、ねえ……)
子猫と自分を交互に見ては満面の笑顔を見せる涼太を見て、マキは自分が子猫を拾った時の事を思い出す。
●
『私が責任を持って面倒みるから!』
中学校からの帰り道、草むらで弱々しい声で鳴く子猫を見つけた。
痩せ細り、毛がところどころ剥げた三毛であった。
腕の中で鳴く子猫の愛らしさにすっかりやられてしまったマキはタオルとジャージで子猫を包んで家に連れて帰ったのだ。
必死に懇願し、『子猫を飼いたいのなら、マキが家にいる時は全部面倒を見なさい』と最後には頷いた両親。
その態度に憤慨したマキだったが、ペットを育てるという事の大変さをすぐに思い知る羽目になった。
病院に連れて行くのも、トイレを覚えさせるのも、離乳食をあげるのも、勉強や部活、遊びに加えてマキの仕事になったのだ。
最初は意地になって思い詰めながら子猫、サラの面倒を見ていたが、結局は大学に進学して家を出るまで、マキは家族の誰よりもサラを大切にし、可愛がった。
動物を拾って家族にする事の意味と大変さ。
たったひとつの命を持つ者同士。
結局はマキが手を差し伸べたのはペットではなく、同じ命なのだとわからせる為に全てを任せたのだ、とマキは今でも両親に感謝している。
●
「涼太。お母さんも子猫拾った事あるけど、まずお母さんが面倒を見る事になったの。ものすごく大変だったよ?お母さんと涼太が帰るまでこの子は一人ぼっちだし、子猫が寂しいよう寂しいよう!って鳴いちゃうかも」
「かえったらぼくがこねこさんをいっぱいいいこいいこします!さみしいとこねこさんおひげはえちゃうらしいのですよ!たいへんです!」
「猫だからねえ」
ニコニコと笑う涼太に、マキは続ける。
「涼太がおうちにいる時はいいこいいこだけじゃなくて、この子のご飯やトイレもちゃんと見てあげられる?」
「ぼくがやります!ちゃんとおしえてあげないと、にゃあにゃあ、にゃにゃん!となくらしいです!」
「猫だからねえ」
マキのツッコミにもめげず、涼太は得意満面である。
(私もあの時、似た感じだったんだろうなあ。お父さんの意見を聞いてみるかな……でも、その前に)
ふむ、とマキは考えて、涼太に切り出した。
「……お母さんからもお父さんにお願いしてみて、もしお父さんがダメって言ったらその時は飼ってくれる人を一緒に探す事。それでもいい?」
「えー!ぼくもおとうさんにおねがいします!かわいそうですよ!」
?!
にあ。
にあ!
にあ!
涼太の勢いに、子猫がまた鳴きだした。
「ダメだよ、涼太。もしその時は、この子を可愛がってくれるおうちを探さないと。そうじゃなきゃお父さんもこの子も可哀そうでしょ?」
「ぼくだって!ぼくだって!いっぱいいっぱいかわいいってします!おとうさんのぶんも、ぼくがこねこさんのおせわします!」
目を潤ませ始めた涼太を見て、マキは言った。
「じゃあ、お父さんとお母さんがお仕事で涼太が保育園に行ってる時この子は一人ぼっちだけど……そこはやっぱりそれでもいいの?」
「ぼ、ぼくがかえってきていっぱいなでなでします!」
マキは黙って首を横に振る。
「そういうことじゃないの、涼太」
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