第7話 作戦会議

「行きなよ!デート!」

「お前なぁ・・・そんな簡単な話じゃないんだぞ」

「桜木ちゃんはちゃんと葵の事考えてるよ。一回だけでもいいから行ってみたら?」

「・・・桜木の事を信用してないとは言ってない」

「じゃあいいじゃん」

「でもデートとかは苦手なんだよ。行って楽しい訳ないしな」

「またすぐそーゆー事言う~。好きな人と行くんじゃなくて、好きになるためにその人と行くの。昨日葵が帰った後、桜木ちゃんすぐ追いかけてったんだよ?」

「昨日は悪かったよ。・・・まあ、桜木のことは考えとく」

「も~、しょーがないなー。なるべく早めに返事しないとダメだからね」

「わかったわかった」


そう適当に返事をして、俺は机からやり残した課題を取り出す。

一限までには時間があるから、まだ間に合うだろうと考えてシャーペンを手に取った。


――――――


ファミレスから帰った翌日、朝早く登校した俺がスマホをいじっていると、凪咲が話しかけてきた。

どうやら凪咲もあの後の事が心配だったらしい。


桜木から提案された”デート”の返事を、俺はまだ答えられずにいる。


カラオケにゲーセン、服屋巡りやレンタルしたDVDの上映会。

一年の夏は毎週日曜には決まってどこかに遊びに行った。


手を繋いで名前も覚えてない服屋を回り、が試着した服に笑って感想を言う。

気が付くとそんな下らない記憶を思い出していた。


昼休みになり、弁当を食べようと鞄の中身を探していると、ふと遠くの席から誰かの視線を感じる。

目を向けると、昨日ファミレスにいた陽キャたちが俺の方を見ながら何かを小声で話していた。


あいつら、気にするなとは言ったんだが・・・


様子を見るに、陽キャたちは”クラス1の美少女”が”冴えない陰キャ”の俺とどうやって別れたかが気になるらしい。

不愉快な視線に耐えながら弁当を食べていると、誰かからLINEが来た。


スマホの通知欄をタップすると、"Kaede🌸”と書いてある。

恐らく桜木が、凪咲あたりから俺のLINEを聞き出してきたんだろう。


そう思いながら、片手でスワイプしてトーク画面を見た。


『昨日はありがと!急にわがまま言ってごめん🙇』

『前にも言ったけど、私は葵の素敵な所いっぱい知ってるから』

『いつでも返事してね~』


俺はトーク画面を見返しながら、弁当を食べ終える。

昼休みが終わる頃には返事は決まっていた。


俺はため息をついてメッセージを打ち込む。


『今週の日曜なら空いてるけど』


桜木もスマホを触っていたのか、送った瞬間に既読が付いた。


――――――


「コーヒーでいい?葵」

「ブラックで頼む」

「あいよ~ちょっと待ってて」


そう答えて辺りを見回すと、様々な種類のぬいぐるみがそこら中に置いてある。

網目状のカバーがかかった棚に、ピンクの枕が置いてある小さなベット。


桜木と会う前日の土曜日、俺は凪咲の家に来ていた。


桜木に返信をした後、凪咲にデートに行くことを報告すると、凪咲は満面の笑みで”私の家で作戦会議をしよう”と言ってきた。

服装や態度がどうのと言われ、気づくと無理やり予定を入れられてここに来ている。


そわそわとしながら部屋を見回していると、凪咲がアイスコーヒーをトレイに載せて帰ってきた。


凪咲の家に前に来た時の事を思い出す。

その頃俺は小学生で、毎日のように凪咲と遊んでいた。


「それで、葵。明日はどうするつもり?」

「どうするって・・・」

「あ、具体的な予定とかはいらないよ。それは二人のプライバシーだしね。私が知りたいのは、葵が桜木ちゃんとどんな関係になりたいかってこと」

「俺は誰かと恋愛関係になるつもりはない。だけど、桜木の事は嫌いじゃない・・・どちらかと言えば、好きだ。」

「うん、私も好き」


そう言って凪咲はにっこりと笑う。

屈託のないその笑顔に、なぜか頬が熱くなった。


「だから、俺はもう少し桜木の事を知ってみたい。・・・これでいいか?」

「いいじゃん。葵が誰かのことをもっと知りたいって思うのは、凄く良いことだと思うよ?」

「じゃあ今日はもう十分だな。あんまり長居しても悪いし、これ飲んだら帰るわ」

「ちょちょちょ、何帰ろうとしてるの!?もうちょっと卒アルとか見ようよ~」

「俺卒アル嫌いなんだよ・・・」

「え~、卒アルの葵かわいいのに。それならお喋りしよ」

「話すだけならいい」

「偉そうだな~。・・・葵って、中学の時はもっと楽しそうだったよね」

「まあな」

「高校に入って、ちょっとだけひねくれたのは、河合ちゃんとのことがきっかけ?」

「・・・何というか、人と関わるのが嫌になったんだよ。それで家でずっと漫画読んでたら、いつの間にかこうなってた」

「そっか」


凪咲はコーヒーカップを置いて俺の方に近寄ってくる。

隣に座ると、そっと頭を俺の肩に寄せた。


「寂しかったんだね、葵は。私は河合ちゃんと葵に何があったのかよく知らないけど、」

「電話かけてくれたとき、葵が傷ついてるのはわかった」


「私、葵の力になれてるかな?」


凪咲がゆっくりと俺のパーカーの袖を握る。

どうすればいいか分からなくて、俺はただその場で座っていた。


何かを言おうとしても、口の中は乾いて言葉が出てこない。

少し深呼吸をして俺は凪咲に話しかけた。


「凪咲。俺は確かにひねくれてて、人と関わるのが苦手で、ほんとどうしようもない奴だけど、お前に嫌われたくはない」

「だから、桜木の事もちゃんと向き合って答えを出す」

「つまり、その・・・・いつもありがとう」


凪咲はうつむいて座っていたが、しばらくして立ち上がった。

横から見上げると、目元には薄く涙の跡がついている。


「よし!デート楽しんできてね、葵!」

「おう」

「男らしく決めるんだぞ!じゃあ作戦会議も終わったし、一緒にゲームやろ~よ」

「何でそうなるんだよ」

「ちょっとぐらいい~じゃ~ん」

「またボコボコに負かすからな」

「それはどうかな?私も練習してるしね~」

「ゲーマー舐めんな」


そう言って、凪咲と俺はバカみたいなやり取りをする。

ふと、何も考えずに遊んでいた小学生の頃が頭をよぎった。


――――――










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"恋愛恐怖症"の俺が、もう一度人を好きになる方法。 色元 @4kigen

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