第6話 酷いこと

「桜木ちゃんって意外と肉食系?」

「それ、別の人にも言われたんだけど!違うから!今日はお肉の気分なだけ」

「ふ~ん、そーゆー割に野菜が見当たらないけど?」

「いやっ、それはその、今から頼もうと思ってて・・・」

「あはは、冗談だよ冗談。からかってごめんね。いっぱい食べる桜木ちゃんは可愛い!」

「も~、次やったら怒るからね!」

「でもお肉って美味しいよね、私もつい食べすぎちゃう」

「あ、河合ちゃんもそう思う?いいよね~お肉」


親子連れや学校終わりの高校生で賑わう放課後のファミレス。

俺のすぐ近くで、女子たちが料理を食べながら楽しそうに話していた。


話を振ったり、周囲の人間に絡んだりして場を盛り上げているのが俺の幼馴染の凪咲。


凪咲にいじられて泣かされていた、ハンバーグを美味しそうに食べているのが桜木。


そして、微笑を浮かべながら時々会話に混じるのが、クラスの”高嶺の花”の河合だ。


というか、女子ってよくこんなに喋れるよな・・・普通このメンバーで話続かないだろ・・・


俺はそんな事を考えながら、ぼーっと天井についてる照明を見たり飲み物をちびちびと飲んだりしていた。

まあとにかく、暇だ。


「河合ちゃんってほんとモデル体型だよね~、羨ましい・・・」

「そんなことないって。体型維持するの大変だし、それに柊さんも凄くスタイル良いよ」

「うう・・・河合ちゃん、優しすぎる・・・そう言えば、桜木ちゃんもモデルやってるんだったよね?」

「うん、休みの日に出かけてたら声かけられて、それでやってみたんだ。一回だけだったからよくわかんなかったけどね」

「プロだな~二人とも。今度私にメイクどうやってるか教えて~」


すると、テーブルの端で騒いでいた陽キャたちが俺たちの方へ近寄ってきた。

見覚えのある陽キャその1が俺の横に座り、河合に話しかける。


「河合さんって成績もいいっしょ。頭良くなるコツとかなんか無いの?」

「友達とかと勉強会開いたら?人と教え合うと楽しいし、わかりやすいと思うよ」

「勉強会ね~。そういう河合さんも勉強会やってんの?例えば彼氏くんととか」


そう言ってそいつはちらりと俺を見てくる。

品定めしてくるような目線に不快感を覚えた。


「うん、よくやってるよ。私が教えたり、代わりに料理作ってもらったりとかね」

「それ河合さんが教えてるだけじゃ~ん。熱々だね~、なあ橘?」

「あ、ああ」

「そう言えば橘と河合さんってもうすぐ一年なんじゃないの?お祝いとかしなきゃでしょ」

「あ、そうだったね。またケーキ作ってよね、葵」

「・・・わかったよ」

「幸せそうだな~俺も彼女作りて~」


すると他の陽キャ共も群がってきて口々に”俺たち二人”を祝福してきた。

俺は押し殺した声で、そいつらの下品な質問に答える。


そろそろ帰るか・・・

そう思っていると、突然凪咲が声を荒げた。


「ちょっと、君たちには関係ないでしょ。ガールズトークに入ってこないで」

「おっ、ごめんごめん。じゃ帰るわ~」

「・・・河合さんもだよ。無責任な事言わない方がいいよ」

「そうかな?私、普通の話してるだけだよ?付き合って一年のお祝いとか、勉強会の話とか」

「そういうのが無責任って言ってるの。葵はあんまり得意じゃないでしょ、お祝いとか。


その瞬間、凪咲と河合の間の空気が変わった。

心なしか、河合の目が少し冷たくなった気がする。


「柊さんはあんまり葵のこと知らないから分からないと思うけど、意外と葵ってお祝いとか好きなんだよ?」

「私は、葵のことよく知ってる。好きな食べ物とか、本当は優しいところとか、人のために無理しちゃうとこも。本当にちゃんと知ってるなら、なんでそんなに酷いことができるの?」

「?酷いことって?」

「・・・っ・・・だから、」

「凪咲、もういい。やめろ」

「葵が我慢する必要なんてない!葵だけ苦しんで、他の皆は何も知らないくせに・・・そんなのおかしいよ」


凪咲はそう言って俯く。

握りしめた手は、微かに震えていた。


それを見た途端、今まで悩んでいた事全てが吹っ切れた。

鞄を引っ掴んで勢いよく立ち上がる。


急に立ったせいか、テーブルに座っている全員が俺の方を振り返った。


「俺もう帰るわ。凪咲、金渡しとくから会計頼む。あと、」


そして、その場の全員に聞こえるように俺はこう言った。


「俺と南はもう別れてるから。別に余計な気とか遣わなくていいし、それだけ」


俺は振り返らずに、店員に説明してファミレスを出る。

クラスメイトの反応や、河合との約束はもうどうでも良かった。


ファミレスの外の坂道を歩きながら、昨日読んだ漫画の内容とか下らないことを考える。


音楽を聞こうとワイヤレスイヤホンを探していると、遠くから足音が聞こえてきた。


振り返ると鞄を持った桜木がこっちに走ってくる。

俺の近くまで着くと、大きく肩で息をしながら立ち止まった。


「私・・・君と会う時いつも走ってるね・・・」

「そういえばそうだな」

「・・・なんで言い返さなかったの?」

「別に喧嘩してるわけじゃねえし、人に別れたって言うなって約束したからな」

「それでも、限度があるでしょ。付き合ったままのふりしても河合さんしか幸せにならない」

「河合だって幸せかどうか分からん」

「優しいね、葵は。・・・ねえ、」

「何だよ」

「一緒にデートしようよ、葵」

「何で急にそうなる」

「私なら、葵を幸せにできる。だから私と一回だけデートしてほしい。告白の返事はそれまで待って・・・ダメかな?」

「告白の返事って、もう断っただろ」

「そうだけど、お願い」

「・・・今はまだ答えられない」

「分かった。してくれる気になったら返事して」

「・・・おう」


そして、桜木と俺は黙って坂道を歩き続ける。

夕暮れの街に、風が静かに吹いていた。


――――――



















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