第7話 ~絶対当たる占い師~

 リヒトは村人たちに囲まれながら、村に戻った。リヒトに感謝する人もいれば、疑いの目を向けている人もいる。あからさまに怯えている人もいた。

 

「聖剣は使えないんじゃなかったのか?」


 筋骨隆々なおじさんがリヒトに質問した。


「えっとお、なんででしょうね? 俺も聞きたいっていうか……」


 リヒトはすっとぼけるしかなかった。

 村には同じような竪穴式住居が並んでいるが、一際大きい建物がある。その建物の入り口の前にリヒトは連れてこられた。某占い師様の家らしい。建物の大きさからして、どれだけ崇められているかがわかる。

 ルナが占い師の家の戸を叩いた。


「占い師様、ルナです。もう私達が何の用で来たのか分かってらっしゃると思いますが、占ってほしいことがあります!」


 数秒経って、扉が開かれた。


「うむうむ。わしは絶対に、お前たちが占ってほしいことがわかる!」

 

 扉から出てきたのは革製の三角帽子とマントを羽織った魔女のような恰好をした少女だ。

 胸や尻は控え目で背が低く、リヒトの好みではない。紫のツインテールと瞳が特徴的だ。


「お、お前は……大魔術師ヘクセレイ・ブルーデ⁉ じゃないんだよな?」


 リヒトは少女を見て驚いていた。『トゥルー・ミソロジー』でバルバトスの仲間だった大魔術師ヘクセレイ・ブルーデとそっくりだったからだ。ヘクセレイは賢者の名が相応しいほどに博識で賢く、悩めるバルバトスの良き話し相手になっていた。

 だが、ルナがエレナではなかったこと同様に、本人ではないのだろうとリヒトはすでに悟っていた。


「……お前は、勇者バルバトスの子孫、リヒト・アレンだな。その様子だと、わしの先祖であるところの大大大魔術師を知っているようだな。むろん、絶対的にわしはお前がわしの先祖を知っていることを知っていたがな! ちなみにわしの名前はワイズ・カシコシ・ブルーデだ!」

「ほ、ほう」


 リヒトはワイズの喋り方から全く知性を感じられなかった。性格はやっぱりルナ同様、先祖と似ていないらしい。

 あと、ミドルネームに「スバラシ」とか「カシコシ」とかが入るのは何でなのだろう。リヒトはもしかして、自分凄いぞアピールを名前を使ってしているのではないだろうかと予想した。人類の知能がいかに低下したかがわかる。


「あなた、占い師様に失礼でしょ。頭を下げなさい」


 ルナも村人たちもなぜか、知性を感じられない少女に頭を下げている。


「そうだ。頭を下げよ、リヒト・アレン」

「いやだ」

「ん? あれ?」


 リヒトが否定すると、ワイズは困惑したみたいだった。


「俺が拒否することは分かっていなかったみたいじゃねーか」

「い、いや、分かっていたとも。それは置いておいて、さあ、何を占ってほしいか言ってみろ!」

 

 ワイズは自信満々に言い放った。


「いや、さっき村人たちが何を占ってほしいか絶対的にわかるって言ってたよな? もしかしてわからないのか?」

「う、うるさいわい!」

「そっか~、実は俺が村にとって有益で、危険性なんて皆無だってことも知らないのか。そうか~。そこのところ占ってほしかったんだけどな~。まあ、わからないなら仕方ないよな」


 リヒトは実際のところワイズは全てを絶対的に知っているフリをしているだけなのではないかと予想していた。もしその予想が当たっていたならば、ワイズに揺さぶりをかけて、リヒトを安全な人だと主張させることも可能だ。


「そ、そんなことすでにわかっている! リヒト・アレンをこの村に置いておけば、有益だろう。絶対に結界も直してくれるはずだ。逆に直せなければ、この村にとって害悪だったということになる! これがわしの占った結果だ!」


 ワイズは胸を張ってそう言った。半分はリヒトの予想通りだったが、当たり前ではあるがもう半分はリヒトの予想通りではなかった。

 結界を直さなければリヒトは処刑されてしまうみたいだ。この村にとって結界を直さなければならないことは喫緊の課題みだいた。

 ルナや村人たちは目を輝かせて、リヒトやワイズのことを見ている。


(……こいつら、馬鹿なのは間違いなさそうだな。ここまでわかりやすく詐欺師っぽいやつはいないと思うが……、俺が日本に住んでたからこういうことを思うのかもしれないな)


 文化や文明を失った異世界では、詐欺に関する知識を持つ人がいないのかもしれない。人間の性として、「絶対」みたいな強い言葉を使って言い切られると、いくら嘘であっても信じたくなってしまうものだ。


「ということで、わしは一週間リヒト・アレンに猶予を与えるべきであると考えている。一週間以内に結界が直せなければ処刑だ! 皆もそれで良いな?」


 ルナも村人もワイズに畏れを抱いているのか、全く意見する気配はない。


「よし、決定だ。誰か村長に報告しておいてくれ……。リヒト・アレン、せいぜい頑張れよ」


 ワイズはニヤニヤしながら、リヒトをじっと見ている。リヒトが安全だと言わされたが、処刑される可能性を残せたことで得意になっているのかもしれない。


(一週間猶予ができたならまあ、良いだろ。結界はどうにかしよう)

 

 


 


 



 

 

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人類の文化が衰退した異世界で、俺だけ文字が読めるので無双できますw~みんな「オープンステータス」をシールドとして使ってるけど、間違ってるからね!?~ 藤翔(ふじかける) @fujikakeru

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