第6話 ~ファイヤーボール……?~



【スライム】Lv.7

攻撃力:1100

防御力:2000

俊敏力:600

魔力:0

知力:8

弱点:魔法攻撃、または聖剣エクスカリバーによる斬撃。


 スライムの基本的なステータスと、弱点が表示された。弱点が表示されるのは便利だ。

 リヒトは聖剣が使えない以上、魔法攻撃をするしかないと判断した。


「助けて! 痛いよお!」


 スライムの体液には溶解作用がある。このままだと少年の身体が溶かされてしまう。


「使えんのか? いや、やるしかねえ! ファイヤーボール!」


 リヒトのレベルと魔力で繰り出せる最も攻撃力の高い魔法だ。


——シュボッ


 ビー玉ほどの火の玉が放物線を描いて、スライムに着弾した。プシュっと、スライムの体液が蒸発した音が聞こえたが、大したダメージが与えられていないみたいだった。


「ザッコオオオオ! やっぱダメか!」


 いくら魔法攻撃が効きやすいとはいえ、リヒトのレベルと魔力が低すぎて話にならない。

 少年はどんどん飲み込まれていく。何人かの大人が少年たちの手を引っ張るが、びくともしない。

 他のスライムと戦闘していた人たちも心配そうにチラチラと目を向けている。


「あなた、隠れてなさいって言ったでしょ。あの子にも戦ったらダメだって言ったのに……また、また殺されちゃうの……」


 ルナが、リヒトにそう言った。

 

「なあ、何でお前らこんなに貧相な武器を使ってるんだよ?」

「ひ、貧相って、うるさいわね。しょうがないじゃない。ここ数百年は平和だったんだから……助けたいけど、どうすれば……攻撃してもあの子が逆に危ないし」

「聖剣があるなら他の武器はなかったのか?」

「聖剣は、どこに捨ててもあなたが封印されてた場所に戻ってきちゃったのよ。武器は平和を脅かすとされてるから捨てられたって聞いたわ。石の槍と斧は狩りに必要だから、捨てられなかったみたい」


 確かに日本でも色々規制が進んでたし、ゲームの世界でもそういうことがありえるのか、とリヒトは感慨深く思った。

 リヒトは人類の衰退具合にあきれて何も言えなくなったが、代わりにとある考えが浮かんだ。


「なあ、俺が聖剣を使ったらどう思う?」

「使ったらって、そりゃあなたを魔法で封印ができない以上処刑でしょうね」

「あっさり、残酷なこと言うな! もしかしたらだが、聖剣を俺が使えばあの子を助けられるかもしれねえ」


 ルナは目を見開く。


「ホント……?」

「ああ、多分だがな。使ってみて良いか?」

「……良い。良いよ。特別に許してあげる、今はあなたの危険性よりも私達の憎しみよりもあの子の命の方が大切だから……というか、使えないんじゃないの?」

「よっし! 言質頂きました。俺のことを絶対に後でフォローしろよ。あと、使えないって言ったのは嘘だ」


「「「はあ⁉」」」」


 リヒトとルナのやり取りを聞いていたのか何人かが、驚きの声を上げた。

 

「来い! 聖剣!」


 リヒトが左腕を上げると、左手が光に包まれた。次の瞬間、光が聖剣エクスカリバーに変わった。

 リヒトは内心、かなりワクワクしていた。勇者の素質があるものしか扱えない剣を自分が使うことになるなんてシチュエーション、男の子ならワクワクしないはずがなかった。


「よし、いくぞ!」


 リヒトは左手現れた聖剣の柄を右手で握って、思い切って引き抜いた。刃は青白く光り輝き、すさまじい切れ味を見るものに伝えていた。両刃だ。

 リヒトは自分の身体に力が宿るのを自覚した。聖剣には持ち主のステータスを底上げする力と、敵の物理攻撃耐性を無効化する力がある。

 

「おお、すげえ。本当に抜きやがった……」


 戦いに参加していた男があんぐりと口を開けながら、そう呟いた。

 

 リヒトは少年に攻撃が命中してしまわないように、聖剣をスライムに突き刺した。ルナがしていたような本気の攻撃ではなかったが、スライムは形を崩してただの粘性のある液体になった。つまり、倒したということだ。

 

「おい、少年。大丈夫か?」

「うう、足が痛いよぉ」

「物は試しか……ヒール!」


 リヒトが回復魔法をかけると、やけど痕のようになっていた少年の脚が治癒した。


「痛くない! ありがとう」


 少年は満面の笑みで感謝の言葉を述べた。


「ああ。感謝しろ。子供の、それも男に感謝されても俺は嬉しくないがな。おい、お前らどいてろ」


 リヒト別のスライムに狙いを定めて、地を蹴った。転生する前のリヒトでは考えられないぐらいのスピードで走る。そして剣を振るって瞬殺。

 それを四回繰り返すと、スライムは全滅した。


「よおし! お前らどうだ! 俺を敬う気になっただろ!」


 リヒトは聖剣を掲げてそう叫んだ。

 人々はリヒトを何とも言えない顔で見つめていた。その様子を見てリヒトはある記憶を思い出していた。学校で良かれと思って、いじめられていた女の子を助けたところ、ヒーロー扱いを受けるどころか次はリヒトがいじめられるようになった。

 

「ねえ。私は実際にリヒトを見てみて、ただの人間だと思った。勇者の子孫だから、よっぽど冷酷で人の心が無いような奴だと思っていたけど、性欲が旺盛で目立ちがりやではあるけど、殺されかけていた私たちの仲間を助けてくれるぐらい優しい。処刑はやめてあげましょうよ」


 ルナが、リヒトのために声を上げた。リヒトはひどい言われようだと思ったが、自分をかばってくれていることはわかったので口は挟まなかった。


「そ、そうだよ。お兄ちゃんがいなかったら今頃、僕は死んでたよ」


 少年も加勢した。リヒトは驚いていた。自分をかばってくれる存在を見るのが初めてだったのだ。


 人々は身を寄せ合って、しばらく話していた。信用できないという声も、ルナに賛同する声もある。


「なあ、占い師様に一度占ってもらうのが良いんじゃないか?」


 一人の男がルナに提案した。


「そうね、確かにそうね。占い師様に一度占ってもらったらみんなも納得すると思うわ。占い師様の言うことは絶対に正しいもの」

「え⁉ 今の流れで俺の処遇は占いで決まるの⁉ 『絶対』って言葉使うやつの言ってることって大体正しくねーぞ⁉」


 占いを全く信じていないリヒトは、自分の生死が占いで決めてしまおうとしている人々の会話に流石に口を挟んだ。


「うん! 確かに占い師様に聞けば間違いないね!」

「君も⁉」


 少年も嬉々とした顔でリヒトの生死を占いで決めてしまうことに賛同していた。


「どれだけ信用されてるんだ、占い師様ってのは……」






 




 

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