第5話  ~ところで何だこのステータス~


 アンファング村の住人たちは右往左往駆け回っていた。女性も交じってはいるがほとんどの男たちが斧や槍を持って村の外に走っていた。女性たちが建物の中に、子供たちを避難させている。

 リヒトはこのまま自分が何もしないままで良いものか考えたが、スライムの正体もわからないし、自分のステータスで戦闘に参加できるのかわからなかったので、ひとまず隠れていることにした。


「安全な場所って言われてもな……」


 どこが安全な場所なのかが分からない。勝手に人の家に入るのもよくないだろうということで、リヒトは近くにあった建物の陰に座った。

 リヒトは自分の身体を見渡す。全裸。前田利人だったときの身体と比べて、骨格もしっかりしているし、細身ではあるが筋肉がしっかりついている。近くにあった鉢に入った水の表面で利人は自分の顔を確認する。


「わぁお。イケメンだな」


 顔の堀が深い、金髪の美青年が映っていた。バルバトスにそっくりだ。簡単に女性を陥落させることが出来そうな顔だ。


「よし、決めた。こんな世界に俺を転生させたロリ女神はムカつくが、異世界転生したからにはチートしてやるし、ハーレムも作ってやる。なんなら、もう一回魔王に挑んで汚名も晴らしてやろう」


 リヒトは誰よりも目立ちたいと思って生きてきたし、女にモテたいと思って生きてきた。学校ではその欲望が空回りして上手くいかなかったが、勇者の血筋を引く者になり、ゲームで得た知識があれば、この世界ではその願いを叶えられるかもしれない。

 リヒトは右手を空中に伸ばした。


「オープンステータス」


【リヒト・アレン】Lv.4

経験値: 3/20

クラス:村の嫌われ者

攻撃力:1000

防御力:1000

俊敏力:300

魔力:300

知力:10

運:20

寵愛:∞

スキル:《神秘解明》

称号:《神に愛されし者》《英雄の素質》


 まずは、嫌われ者じゃなくなるところからだな、とリヒトは思った。ゲーム画面ではそれぞれのステータスを選択すれば詳細が見られたはずだ。

 リヒトはスマホと同じ要領で、村の嫌われ者と書かれている部分をタッチした。


《村の嫌われ者:吾輩の心をもてあそんだ者のクラスとしては相応しいなwww まあ、がんばれよwww》


「ちっ、あのロリ女神! 絶対に許さん。この世界で豪遊してる姿を見せてやる」


 どうやら、ロリ女神バンノのいたずららしかった。

 攻撃力と防御力はLv.4にしては悪くない。俊敏力と魔力は普通。知力と運が絶望的だ。


「知力って、今の俺の頭の良さってことじゃないよな?」


 知力のステータスは、魔法の習得に必要だ。後々困るかもしれない。

 何より気になるのが寵愛:∞の部分だ。リヒトは、詳細を見るためにタップした。


《寵愛:吾輩でもこのステータスは変えられなかった。貴様の罪だと思え》


 つまり、バンノがリヒトを愛しすぎてしまっているが故にカンストしているのだ。  

 リヒトはバンノに愛されても嬉しくもなんともなかったが、ステータス上昇に一役買うだろうことは想像に難くないのでその点は嬉しく思った。


「これはあのロリ女神がくれた唯一の恩恵だな。というかあいつが何でステータスの詳細を書いてるんだよ」


 リヒトは疑問に思いつつも次々詳細を見ていく。


《神秘解明:モンスターやアイテムの詳細を文字情報で知ることが出来る》

《神に愛されし者:モンスターを倒すと数倍の経験値を得ることが出来る》

《英雄の素質:聖剣を扱うことが出来る》


 神秘解明というスキルはリヒトが知らないスキルだ。だが、役に立つには違いない。

 神に愛されし者は読んで字の如くだろう。英雄の素質はバルバトスが初期に獲得する称号だ。


 リヒトがステータスを一読して考えた今後の方針はこうだ。


「神秘解明で倒せそうな敵を見極めて、倒し続ければ最強になれるんじゃね? よし、隠れてる場合じゃないな。もしスライムが強敵なら撤退、倒せそうなら倒す。そうしよう」


 リヒトは立ち上がって、武器を持った人たちが走って行った方角に向かった。そこかしこから不安げな声や、不安を感じ取っているのか子供が泣く声が聞こえてくる。

 リヒトは頭の中でスライムに関する情報を纏めた。スライムは粘液状のモンスターで、人を粘液で絡め取ったり体に取り込んで溺死させようとしてくる。物理的な攻撃では倒しにくいが、基本的な魔法を使えば簡単に倒すことができる。上位種でも、火や電気を纏う程度だったはずだ。でも、「法外の森羅」にスライムが出現するという話は聞いたことがなかったので、ゲームを元にする知識をあてにするのは危険だとは思うことにした。

 しばらく歩くと、建造物がなくなりだだっ広い草原に出た。そのさらに先には巨木が並ぶ森林が見えた。

 森林に近づくと、人がスライム数匹と戦闘しているのが見えた。

 スライムはモニター越しに見るよりもかなり大きく感じる。運動会の大玉転がしに使われる玉ぐらいの大きさはありそうだ。それが五匹おり、人が寄ってたかって槍で突いたり斧で叩いたりしている。やはり物理攻撃はあまり効いていないみたいだった。


「え? あれ、しかも石じゃね?」


 村人たちが使っているのは鉄でできた武器ではなくて、木と石を使って作った武器だった。あの装備ではいくらレベルや攻撃力が高くても、スライムには攻撃が通りにくいだろう。


「オラああああああああ! オープンステータスッ!」


 

 屈強そうな男たちが振り回している斧よりも二回りぐらい大きい石斧を凄まじい速度で振り回し続けている、赤髪の少女が目に入った。ルナだ。リヒトがオープンステータスについて説明したにもかかわらず、まだ防御魔法として使用しているみたいだ。ルナの先祖である『トゥルー・ミソロジー』のヒロイン、エレナはレイピアを片手に美麗な剣技で男たちを魅了していた。見た目こそ似ているものの、性格も戦い方も大違いだ。


「うわあ! 助けてっ!」


 ルナの戦闘を眺めていると、勇敢にも戦いに参加した少年がスライムに足を取られ、食べられそうになっていた。


「やべえな。状況もだが、人類の衰退具合も……使ってみるか。《神秘解明》」


 リヒトがスライムの方に手を向けるとオープンステータスの時と同様に、半透明の長方形が空中に出現した。

 そこにはスライムに関する詳しい情報や、少年に関する情報が書かれていた。













  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る