風を起こす、鳥。
「結局、初戦敗退だぁ」
公園のベンチに座って、鳥は青い空を見上げた。
隣に座る菜々華も同じ空を見上げる。
「まぁ面白すぎましたもんね、ブッコローさん」
「んだな、客席の人や鳥の誕生日聞いて、その面白い覚え方を1秒で教えてくれるなんて、たまげた才能だでや」
「本当にそうですよね」
「そういや君の誕生日、なんやっけ?」
「7月11日で「なお良い」です。「出会ってなお良い直井ちゃん」で覚えてもらいな、ってアドバイスまでもらっちゃいました」
「あぁんだんだ、新社会人になるって言うたから」
「ええ。本当にカッコいい鳥でしたね、ブッコローさん」
「んだなぁ」
鳥は空に向かって両羽を伸ばした。
「だども不思議だなぁ、あげなにこだわってたコンテストなのに、負けてさっぱりしとるだぎゃ」
「人間に愛される鳥コンテスト、優勝はもうブッコローさんですよね」
「んだ。僕もそう思うだよ」
公園に柔らかな風が吹き抜ける。
鳥はちょんと跳ねて立ち上がった。
「小説のマスコットである僕がいうことじゃなかけんど、『事実は小説より奇なり』とはよく言ったもんだでね」
「え?」
首を傾げる菜々華の前で、鳥はふわりと飛び上がった。
「まさか脂汗かきながら震えてたトイレで、運命の出会いをするとは思わなかっただ」
「運命だなんて大袈裟ですね」
「いいや、君は僕の運命の人だ」
鳥は羽ばたきながら穏やかに笑った。
「僕はトリなんていう名の、鳥界では名もねぇ鳥だけんど…それでも僕は僕なんだと、君が気づかせてくれた」
柔らかな羽が、新しい風を巻き起こす。
「人が物語を紡ぐ場所のマスコット。楽しい物語に楽しそうに笑って、怖い物語に慄いた顔をする。そんなことしかできねぇなんて思ってたけど、それが僕の役割であり、夢なんだと君が気づかせてくれたんだ」
「夢?」
「んだ。僕が楽しそうに笑ってたら、この物語楽しそうだなって思ってくれる人がきっといて。僕が恐れ慄いてたら、そんなに怖ぇのかな?って興味を持ってくれる人もきっといる。そんな僕をきっかけに物語に出会った人が笑ってくれたら、元気になってくれたら、幸せになってくれたら僕はこの上なくとっても嬉しいんだ。だから僕の夢は、たくさんの人に物語を届けて、幸せになってもらうことなんだ」
柔らかな笑顔を見せる鳥は、菜々華に背中を差し出した。
「だからもし、君が悲しくなったときや泣きたい気持ちになったときは、僕がいることを思い出してほしい」
羽ばたく鳥の背中は大きく、その羽が起こす風を浴びて、菜々華は笑った。
「私が泣いたら、また助けに来てくれるんですか?」
「もちろんだよ」
鳥は菜々華を背に乗せて、高く高く舞い上がった。
「だって僕はカクヨムのトリ。君に物語を届ける鳥さ」
未来に羽ばたけ、鳥人間コンテスト! 山下若菜 @sonnawakana
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