例えば追放された英雄がもう一回冒険者を始めてみる話

@Jyamirupon

第1話

 目の前に広がる観衆。それを眺めて目を瞑ると同時に両手を広げて全身で暖かい歓声を感じ取っていく。煌々と照る陽の光に目を窄ませながらも笑顔を全員に振り撒くその様子を見て誰が機嫌を疑うのだろうか。満足げに頷きながら振り返ったその女は艶やかな金髪を靡かせながら――こう言った。


「貴方との婚約を今此処で破棄させて頂きます」


 その言葉は歓声というノイズの中でも鮮明に響き、そして鋭く確実に悲劇の一言を届けさせてこの場に居た全員の動きを止めた。


「ど、どうしたんだ? ノラ……いきなり何を」


 この発言から始まった。

 俺の悲しくも誇れる自慢の物語。

 

「どうしたも何も、これまでの貴方の行動や意識、全てがこの国ひいては王室の愚弄。もう許容出来る範疇を越えています。王室は貴方にずっと期待をしていたんですが……本当……期待外れです」


 突き付けられた冷たい言葉が頭の中で繰り返される。今立っているこの場は建国記念の式典で、国を代表する様な貴族、国を守る為日々を自己研鑽に費やす強者達が殆ど居る。

 見渡せば有名人が一人は目に入るというこの状況で、俺はどれだけ小さな存在なのだろうと、自己嫌悪に陥った事もこの会場に入ってからしばしば。


「何で……俺は今までも沢山……『足りない』 えっ……」

「足りないのよ。貴方の素質を見込んで近衛騎士へと任命したけど、もう”終わり”」


 言葉を遮って更に続けるノラに留まる様子は無い。

 半年前からだった。ノラの自分に対する態度が急変したのは。元々傭兵として駆り出された魔物の討伐戦で体力、根気、戦略、筋力、を認められて王国の近衛騎士となった俺を特に気に掛けてくれたノラ。側に居たからか、それともただの運が良かっただけか、分からない。だけど俺はそんな日々が嬉しくて、楽しくて、ノラが自分に向けてくれた想いに応えるに値する様になるまで努力して、小さな功績でも積み重ねる事により周囲からの信頼も勝ち取った。

 そして婚約も。

 安寧な日々。幸せでこの先が楽しみな毎日を送れるんだと、そう思っていたんだ。


「……魔物の討伐は?」

「貴方はもう、近衛騎士では無いわ。近年増加する魔物への対応の遅れは看過しても、護衛の不手際は看過出来ない。極め付けは王女であり護るべき筈の私を襲ったあの恐ろしい被害……」


 初耳だった。近衛騎士として日中は必ず城に居る。訓練は勿論、食事も寝床もこの城で完結する様に徹底しているのだ。どんな危険からもノラの身を守れるよう光らせていた。

 怪しい影なんて何一つ無かった筈。


「何が……」

「そうやって自分の落ち度も惚ければ無かった事になるとでも思っているの? ――五日前、城に魔物が現れ、襲われた。ヴァレンティア卿とアイルーンのお陰で無傷で済んだは良いものの……どれだけ怖い思いをしたか……っ!」


 ざわつく会場。胸の動悸が異常で、呼吸が乱れる。


「何だよそれっ! 初めて聞いたぞ!」

「そうよ。言ってないもの」


 俺の動揺は明らかで、絶妙に開いていたノラとの間隔を狭めようとした歩みが詰め寄る様な形になってしまい今まで同僚だった筈の近衛騎士達が目の前に立ち塞がった。

 当然悪意なんて無い。しかし同僚は完全に自分を悪人であるかの様な視線と行動で制し、腰の剣に手を添えている。


 コツコツと、静かになった会場を割って近付く人影。不思議とその人影が誰なのかは”勘”もとい空気感で分かってしまう。残念な事に俺の心配は当たり、特徴的な顔付き、誰もが憧れを抱く凛とした瞳、持つ熱い志を表しているかの様にかき上げられた髪の毛を持つ男が現れた。


「五日前のあの魔物、この城に招いたのは君だろう? ラインハルト・アレン。面と向かって話すのは何度目だったか…そこまで親しい仲では無いが、陛下の御前でも殿下の御前でもあるこの場に――――裏切り者は必要無い。即刻立ち去るんだ」


 流れる景色が全て遅く思える程に混乱する俺に、会場中の視線が集まり、祝いの酒を飲むグラスは空に、そして手から滑らす者も居た。

 グラスの砕ける音がラインハルトをハッとさせる。

 前後左右からの自分を疑う声。ヒソヒソと自分の事について喋る人間の中には顔見知りが何人か居た。


「お、俺はそんな事しないっ! 分かっているだろう皆んな!」


 二十歳を目前にした若者の声なんて響いていない様だった。若くして出世した者の弊害である同僚との年齢差や妬み嫉みが一つになって襲い掛かって来る様な、胸糞の悪い現象である。


「なぁ…! 皆んな……どうしてだよ……」


 再びノラの顔が視界に映った。表情は始まりと変わらず無表情。興味も失せた他人を見る目だ。


「あ、アイルーンッ!」


 人混みの奥で見つけた同僚であるアイルーンの姿。

 必死に叫んで振り向かせても、彼女は首をゆっくりと横に振るだけで俺と関わりたく無い様子だった。

 何でこんな事に……。

 今までの思い出がフラッシュバックしながら涙が溢れないように唇を噛み締め、ヴァレンティアに背を向け歩き出した。


 俺はそんな事やっていない。それだけは確かだ。しかし、周りの人間は何故か自分が魔物を送り込んだと勘違いしている。

 この謎を解かなければ。

 そして疑いを晴らさなければ。

 そうしたら。


「――ラインハルト・アレン」


 国王の声だった。重く威厳のある声色で、何人も逆らう事の無い崇高な存在が俺を呼び止めた。


「今日この時を以て近衛騎士の職を解く。婚約の件は保留とするが良いか?」


 その声に異を唱えたのは俺では無い。ノラだった。

 

「な、何故ですか!? お父様ッ! ライン……ラインハルト・アレンはっ…」

「――仮にも婚約者だ。この件を突然無下にするなんて愚行、我の力を利用しても不可能である。振り返れ、彼はこの国の安全を守り続けた。正しく偉業。そこに免じて確実な証拠が我の前に出るその時までは無罪と見なし見逃そう」


 まさかこんなにも国王が自分を評価してくれているとは。一部の貴族やヴァレンティア卿は額に血管を浮かべて怒りを露わにしているのが見える。


「話が違うではありませんかっお父様! 昨日は調べると言って肯定を『調べたぞ。その結果がこれだ』 そんな…あんまりですよ!」

「ノラ……お前此処がどんな場所か分かっていない様だな。元々彼を追い出せば済む話を……わざわざこの式典中に、厄介事を持ち出すとは……」


 国王は渋い顔を浮かべながら席を立った。横には王妃、王子、近衛騎士を連れて開かれた大きな扉から出て行くのが見えた。

 俺の擁護とかでは無いのは分かる。しかし当然”王女側”の人間からは俺を嫌悪する様な視線。

 俺は睨み返した。湧き上がる怒りを喉下でなんとか抑え込みながら確実に一人一人と顔を合わせた。


「ただで済むと思うなよ」


 すれ違いざまに俺にそう呟いたヴァレンティア卿。微かに香った香水の匂いは昔ノラにプレゼントした物と同じものがした。もうそれだけで、極々僅かだった可能性が今では確信に近いものに変わった。

 俺は振り返り、震える腕を振り上げて踏み込んだ。ヴァレンティアの後頭部から側頭部にかけて、致命傷にはならないであろう。だが、怪我を負わせる覚悟はあり、取り敢えず一撃見舞おうとしたその瞬間だった。あと数センチというところで嘗て近衛騎士として同じ人間に仕えた事のある友人の一人が振り上げられてヴァレンティアの頭に迫る自分の手首をがっしりと掴んで止めた。


「ちょっ……ちょっとお前来いっ!」


 ドタドタとヴァレンティアに気付かれない様に会場の外へと連れ出された俺は、廊下を小走りで抜けて城中の食事を作る厨房へと滑り込んだ。正直言って自分がああも貶される理由が分からない。普段人に悪口を言われた程度では堪えない性質の俺だが、突然の婚約破棄というのは未だにに頭が追い付かないものだ。


「お前、死ぬ気かッ!」

「…………」

 

 生まれてからこれまで、恨まれる事なんてしただろうか。ただの冒険者から偶然近衛騎士へとのしあがり掴んだ王女の心はあっという間に離れていき、今やあの貴族のものに。

 苛つきを覚えながらも、自分を連れ出した友人の真意が気になり足を止め、聞く。


「そんなの嫌だったからに決まっているだろ。お前はよく任務で俺が困っている時に助けてくれたじゃないか。王女殿下やヴァレンティア卿がお前の何を嫌ってこんな事を企てたのかは知らないが、……見て見ぬ振りは…出来なかったな」


 あの時、友人が止めないで俺がヴァレンティアを殴っていたら。

 仮に怪我を負わせなかったとしても俺の立場は悪いものになっていたに違いない。しかし気になる。あの場で友人が自分に加担した際の光景を、少なくとも何人かは見ている筈なのだ。あの会場に死角は無い。後から俺を助けた友人が糾弾される可能性すらある。

 であれば友人は何故そこまでして俺を助けたのか。

 見返りか、それともただの良心からか。

 後者を願うものの、願える立場では無いのは分かっている。


「見返りか?」


 静かに切り出して反応を待つ。友人は自分に背を向けていて表情が確認出来ないが、言いにくそうな表情を浮かべているのだろうと想像が付く。手を突いて項垂れているその様子からは葛藤と緊張を強く感じるのだ。


「……情け無いよな。勝手に助けておいて見返りを求めるなんて……」

「でも俺、そんな皆んなが欲しがるもの持ってるか? 心当たりが無いんだが」

「前から。いや、始めて出会った二年前からだが、お前の剣良いなーって思ってたんだ」


 俺の今日の服装は礼服で腰に剣を差している訳では無いが、無性に腰元へ視線をやってしまう程、友人の言う”剣”には深い思い入れがあった。

 冒険者時代、それなりに名を馳せていた俺はこの世界で神と崇められる鍛治師に打ってもらった剣がある。魔物達が跳梁跋扈する大陸で偶然手に入れた鉱物を使ったその剣は、その鉱物を使った剣という括りで言うと僅か二振りしか現存しておらず、一振りは他国の騎士が、そしてもう一振りを俺が持っている。

 そんな貴重な物をあげて良い物なのか、直ぐに首を縦に振る事が出来ないのは事実としてある。しかし俺の持ち物の中で誇れる物と言えばその剣のみ。

 でも。

 それを鍛えてくれたあの鍛治師はそれを良しとするだろうか。俺の為に打ってくれた剣を容易く手放すなんて許されるのだろうか。

 いや、それを向こうが望んでいる。唯一の選択肢であるあの剣を手放すという選択肢を向こうが望み、俺は躊躇っている。それはそれで身勝手なのではと。

 

「一つだけ約束してくれ。これは換えの効かない代物だ。絶対に売るなよ?」

「あ、ああ! 勿論さ! そんな事する筈が無いだろ!?」


 

 ――あれから一週間が経った。


 俺は今、近衛騎士のメダルも腕章も、鎧さえ捨てて王都オルヴィアにある冒険者ギルドの前に立っていた。持っているのは身体と軽い装備、回復薬、解毒薬のみだ。

 あの剣だが、城を追い出された後に自宅に戻って剣をその場で手渡した。特に厳重な警備も保管もしていなかったあの剣はリビングの壁に横向きに立て掛けており、そのリビング中から輝き絶えぬその剣を見渡す事が出来るようになっていたが、それも昨日まで。今朝はよく目が覚めている気がするのは目のストレスが減ったからだろうか。


「ち、ちょっと通してくれ」

「ごめんな兄ちゃんこちとら急用なんだ」


 背後から顔面蒼白で押された俺は軽い謝罪を入れながら道を開ける。

 しかし面白い事に冒険者ギルド内は人が一杯で、立ち入ったその瞬間から激しい人の波で目的の受付へと辿り着けない事など容易に理解出来た。何か事件でもあったのだろうか。先程の二人といい、只事では無さそうな雰囲気を醸し出しているここ一帯。

 隅っこに這い出て飲み物を頼んだ俺は慌てふためくギルド職員達と冒険者達を横目にほとぼりが冷めるその時まで静かに待つ俺に、最早誰も注目していない。元々注目されるべくして入った訳では無いが、もしかしたら『あ!』とか『え、嘘!?』とか昔の自分を思い出してくれる人も居るかと期待したものだ。それこそ自分に飲み物を持って来てくれた職員なんかはしっかりと自分の顔を見た筈。


「そろそろかな……」


 バタバタしていたフロアが一旦落ち着き、複数名の冒険者が出て行き残された俺は、ほんの少し静かになったギルド内を歩いて受付まで向かい、五人程の列を並んだ。

 正直のところ再登録的なのを断られたらどうしよう、と脳内を不安要素が駆け巡っており、三人分前が進むと同時に少しの焦りが出て来ていた。それに無事突破した際の心配も。


「お待たせ致しました、今回はどの様な御用件で?」

 

「冒険者としての再登録をお願いします」

「再登録ですね、御名前と”二つ名”があれば二つ名を、そして何かそれを証明出来る物をお待ちでしょうか?」

 

「ラインハルト・アレン、二つ名は《英雄オールスレイヤー》です。証明は……剣かな……えーっとね、あ……」


 受付嬢の表情が硬直し、先程まで紙の上を走っていたペンが止まる。

 俺は腰元に手をやり、気付いた。もう、剣は無いのだと。そうしたら俺はどうやって自分を証明しようか。活動していたのは四年前まで。まだ自分の顔を覚えている者も多いだろう。そんな希望を抱いて笑顔を浮かべると、受付嬢は何やら職員を掻き集めて来て自分を取り囲ませた。


「ラインハルト・アレンさん。貴方が本当に《英雄オールスレイヤー》だと言うのならアレの提示を」


 ”アレ”は絶対剣だ。俺の目には目の前の受付嬢が期待半分蔑み半分で自分を見ていると映った。当然蔑みについては《英雄オールスレイヤー》を騙る事についてのもの。

 剣が無ければ証明が出来ない。


「えーっと、それが……」


 汗が出て来る。新品の服であるが、帰ったら洗濯不可避な程に汗が服に滲んでいる。


「どうしたんですか? 提示を」


 俺なんだけどなぁ、と思いながらも再度腰元、そしてある訳無い懐に手を突っ込んで探ってみる。


「もしかして無いんですか、アレ」

「――剣ですよね!」

「そ、そうです! あの剣です!」

「ハハハハハハ、分かってますって。でもあの剣……あげちゃいました」



 

「……は?」



 ――三十分後。


 俺は受付嬢の”丁寧な”案内の元、殺人などの違反行為を働いた冒険者が一時的に入れられる留置所に居た。

 一応無事である。

 冒険者としての活動を停止して別の職業に移ったり、死んではいない事を担保としながらも個人の価値を保存しておく為に冒険者登録を凍結するというのがある。

 俺がやったやつだ。

 しかし時々、その凍結させた冒険者を名乗り出す者が居るようで、本人確認が必須となっている。


「偶然か……それとも全員死んだのか……?」


 言っても四年前まで冒険者の最前線を生きていた過去がある俺だ。知っている人が居る筈なのだが、職員に捕まり、此処まで来る途中人の気配はせず、その場に居た四人くらいの独断と偏見で此処に入れられてしまった。

 冗談が過ぎるのではないか。

 文字面だけでもギルドから英雄と名付けられた人間である。

 仲間は居た。それも皆んな死んだとか不謹慎過ぎて考えたくもなかった。


「たった四年だぞッ!」


 空虚な叫びは反響して消えていく。廊下には警備すらいないではないか。

 コツコツと足音らしい音が聴こえ始めて目を閉じる。人数は一人、重い靴を履いていると思われ、小さな金属器具の擦れる音も聴こえるところも踏まえると恐らく冒険者だ。


「そうだな。たった四年だ。たった四年で大きく変わった」


「フラムか?」


 姿を見せた女は銀髪で長い髪の毛を編み込んでいる。

 四年振りだった。


「昔みたいに二つ名で呼んで欲しいな」

「そう? じゃあ《閃光せんこう》久し振り」

「ああ! 久し振り。《英雄オールスレイヤー》どうして戻った? 夫婦喧嘩か?」


 そんなものじゃない、と軽く笑いながら鉄格子の近くまで歩いていく。廊下の僅かな灯りで照らされる銀髪の主人は四年前と変わっておらず元気そうだ。


「追い出されたよ。ノラはもう俺の事愛していないみたいだったなぁ……」

「あんなに猛烈に追い回されていたお前がか? 有り得ないだろ」

「俺だって未だ疑問だよ」

「王女様のせいで、私達は解散したのに!?」

「だよね。他の皆んなは?」

「うーん……多分元気。それぞれ個人で動いてるよ。でも私は相変わらず”未踏破地帯”を探索してる」

「成程ね」


 そんな再会して間も無い様なありきたりな会話をしている内にギルドの職員が留置所の扉を開錠して謝罪しながらギルド内にある大きな会議室に連れて行かれた。


「で、お前剣は?」

「あげた。友人に」


 再び空気が申し訳無いものへと変わり、フラムはこめかみを抑えながら深い深過ぎる溜息を吐いた。

 俺に向かって凄まじい呆れと怒りを同時にぶつけながら、俺が飲もうとした紅茶のカップを背中の剣で叩き潰す。


「ご、ごめん」

「――ごめんで済む問題じゃないわ! アレはドワーフとの親交を結ぶ大事な証なのよ! それだけじゃない、アレ無しでどうやって魔物達に立ち向かえばいいのよっ!」


 ギルドの職員達は首を傾げていた。まるであの剣が無ければ魔物達に立ち向かえないと言っているみたいではないか。

 そんな事は無い。職員達も魔物の強さは勿論、弱さ、詳細という詳細を知っている。この目の前で論争を繰り広げる二人が四年前に解散した伝説のパーティーなら、どんな魔物も赤子の手を捻るくらいには簡単に討伐出来る筈。駆け出しの冒険者でも狩れる魔物は存在する。

 正にピンキリといったところ。

 まさか……。

 もしかして《閃光せんこう》が言うどうやって立ち向かうか、という困窮の真意は……。


「お二人とも……あの剣が無いと戦えないんですか?」

「――何よ。私達が初心者みたいに!」

「い、いえ《閃光せんこう》を馬鹿にしている訳では無いんですが……先程仰っていた事が気になって……」

「冒険者ギルドは四年前までドラゴンの討伐を誰に頼んでいたのか、し、ら?」


 語尾を切る喋り方で、迫るフラム。俺の視界には萎縮しまくる職員と眼光をギラつかせて寄るフラムが映っていた。フラムは《閃光せんこう》という二つ名で冒険者達の間では知れ渡っている有名株で、孤高の存在でもあったが故に冒険者ギルドの職員とは交友関係を気付けていなかった。それは現在も同様なのだろう。

 強いから。

 それだけの理由で頼られるが、半ばそれは信頼では無く押し付け。珍しく、《英雄オールスレイヤー》率いるあのパーティーに名前は無かったが、困難という困難はこのパーティーが解決してきたのだ。


「貴方達にお願いしてました……」

「でしょ。あれね、通常の個体は確かに誰でも対処出来るんだけど”ドラゴンロード”だけは別なの。ラインが”前の”ドラゴンロードを倒したからドラゴンは大人しくなっているの」


 うんうんと頷く俺の前に新しい紅茶が用意され、飲んだ。自分ではあまり話さない内容だが、他人が話しているのを聞くと自然と誇らしくなるのは何故だろう。


「あの剣でドラゴンロードの首を落とした瞬間が奴等の眼に焼き付いているからドラゴン達は手を出してこないの!」

「だ、だから最近またドラゴンの動きが活発に……」


 慌て出す職員。

 溜息を吐くフラム。

 そしてそれを静かに鑑賞する俺。

 

「そうよ。ラインが王女に引き抜かれちゃって時間が経ったもの。もう地上で見かける事が無いからって警戒する必要無いとでも思っているのかしら、本当に……もう」


 俺の空いたカップに追加の紅茶が注がれ、隣に冒険者として活動していた頃最後の持ち物であった装備品が置かれた。

 どうやら俺は最後に凍結する際、少しのお金と身に付けていた装備を預けていたようだ。


「懐かしいな……もう四年が経つのか」

「お前最後そんな装備だったっけ、そこらへんの雑魚みたい」

「大事なのは装備じゃないね、己の肉体と気持ちさ」

「よく死なずに冒険者やってたな。私でもこんな装備でやっていく自信無いわ……」


 俺に対する軽い罵倒はヒラリと躱して懐かしの胸鎧に身体を通すと、古さ故か金具が緩んでおり、グラグラと保護部分がズレていた。こんなもので、今後冒険者をする訳にはいかない。新調を検討しながら靴を履くが、これもソールが古びていて走れそうになかった。

 あれ。何か足りない気がする。

 胸鎧、靴、肩当て、携帯用ポーチ。――手甲だ。剣を除いて手甲は良い素材の物を使っていた覚えがある。それも唯一無二の剣と同じ貴重品。

 ガタッ、スッと俺が疑問に思ったその瞬間、向かい側に居たフラムが両手をテーブルの下に移動させて話を変えようとしたのが分かった。表情もぎこちなく、俺と目も合わせようとしない。


「あれ?」


 テーブルの下を覗いた。

 膝元で丁寧に控えているフラムの両手、華奢なその手には見覚えのある手甲が付けられていた。磨かれて修理もされている様だが、よく見ると新しい物では無いのが分かる。

 問い詰めようとテーブル下から顔を戻して正面を向くと、やはりフラムは口を尖らせて目を泳がせていた。


「それ、俺のだよな? 」


「えへへ」


「えへへて……まぁ良いんだけど、手入った?」

「何よっ! 別に入ったし! 余ったくらいだしー!」


 俺も別に小さくない? と聞いた訳じゃなく、大きくない? の意味を込めてのもの。この会議室に落雷したかの様な衝撃が俺を襲って真っ赤なフラムが剣を振り回して暴れた。


「――役に立った?」


 笑顔で、そう言った。経緯はどうであれ、自分の形見的な物を使ってもらえていた事が嬉しかったから。正直近衛騎士をやっている時に、ふと昔を思い出して色々と考え込む事があった。当然フラムとか他の仲間の事も。

 でも向こうは俺を思い出したりしてくれているか分からなかった。

 その答え合わせで、顔には無意識に笑顔が灯っていたのだ。


「う、うん」


 少し恥ずかしげに呟いた一言には全てが詰まっていた気がする。解散してから今までの軌跡。フラムの自分に対する想いも。


「良かった」

「これがあったからお前が攻撃を弾かなくなった今でもリヴァイアサンと”闘える”ようになったよ」


 職員達から感嘆の声が漏れる。通常リヴァイアサンなんて魔物は対峙してはいけないとされる大物で、討伐なんてしたら世界の秩序が崩れるとまで言われている。だから”闘う”。

 ファイトでありデュエル。

 討伐対象では無く、訓練の一環なのだろう。


「あのリヴァイアサンと……凄いね」

「最近やっと身体が育っ…鍛えられてきたからね。――気付いた?」

「――さっき、剣を抜いてカップを潰した時、片手だったね」

「流石ライン。両手で支える必要は無くなったの」


 袖を捲って上腕を曲げたフラム。ふんっと言いながら力こぶを作って俺に見せてくる。確かに前より腕周りが太くなっている様に見える。この際太いでは無く、逞しいと表現した方が良いのだろうか、何方も危うさがあり口に出来ないが、取り敢えずオーバーリアクション気味に感心してみた。


「ところで、何でフラムは俺がギルドに戻ったって知ったんだ? 誰にも連絡していないよ?」

「それはお前……仮にも《英雄オールスレイヤー》を名乗ったのよ? 偶々、未踏破地帯から戻って来たあの時にその名前がギルドで噂されていて……ね」


 粗方理解出来た。あの時、自分の名前にあまりに薄い反応だと思っていたのは間違いだった様だ。自分が嘘をついていると思い、探っていたのだろう。

 留置所に入っていた三十分間、ギルド内は大騒ぎだったという。

 そういう事ならば、俺は俺で勝手に自分に失望していたあの三十分間は完全に無駄だったという事になる。

 肩がブルッと震えた。


「まぁ、この国には私達が居るんだからその名前を騙れないわ」

「そっか。言われてみればそうだよな。ありがとう」


 それから一時間経ち、俺がギルドに戻った理由と今後について話し合った。とは言うものの元々突然追放された身で、俺自身よく理解出来ていないというのが本音だ。


「パーティー再結成ね」

「ちょっと待ってくれ、俺は良い。俺以外が納得するのか?」

「それは……」


 勿論、と言いたそうだったが、突然口を閉ざしたフラム。元パーティーメンバーにも何か事情があるのだろう。

 

「――先ずは騎士団で行っていた魔物討伐を肩代わりしないと」

「何で!? 騎士団が行ってたならそのまま騎士団にやらせれば良いじゃない!」

「駄目だ。騎士団の請け負っていた魔物達は強い。俺が抜けるとなると俺の穴埋めに他の団員が遣われて人員不足が絶対に何処かで出て来る」

「騎士団が人員不足で対応出来ない事態になる? そんなの有り得ない。どの街道にも余剰戦力を置いている筈」


 そう。どの街道にも余剰戦力を置いている。それはよく謳われている文句で街の人間、国の人間を安心させる嘘の言葉。

 実態は謳い文句とは程遠く、毎日何処かの街道で被害が出ており、他の街道を守る騎士や、王族の護衛を承っている近衛騎士が駆り出される事がよくあった。


「そう……大変だったのね。ん、お前、近衛騎士じゃなかったか?」

「ノラの命令でよく討伐に向かっていたよ」

「随分と都合の良い関係だった様ね、楽しかった?」


 グサリとフラムの言葉が刺さり、表情に陰りが生まれた俺の前には馬鹿にしてそうで微笑んでいるだけの優しいフラムが居る。

 思い出せば四年前、拒否出来ない王女の無理難題で城へと招待された時も不満げな表情を浮かべる俺とは対照的に微笑みを浮かべていた。


「でも俺、本当に好きだったなぁ……」

「……王女様ね。美人だもん、振り向かない男は居ないって」

「それだけノラには魅力があるんだ。やっぱり隣に立つのはあの魅力に相応しい人間じゃないと」

「ヴァレンティア卿だっけ、あの侯爵は持つもの持ってるもんな」


 噂では四年前の解散で、フラムや他の仲間を自身の私兵団に勧誘したらしいが、真実は少し違うらしい。

 冒険者ギルドはヴァレンティアでは無い他の強い権力者が創設、運営している為に本人達へ勧誘談が届く前にその話を突っぱねる貴族が居たとの事だ。縄張り意識の高い貴族にありがちな話で、納得してしまったが、侯爵が相手だったから良かったものの、自分の様に王族が自分達を要求したら突っぱねられないだろう。仮にノラがフラム達を望めば今頃こうなってはいない。

 

 冒険者が主にやる事は”未踏破地帯”の探索だが、これは騎士団が基本やらない事だ。

 理由は単純に危険だからである。

 だが、その危険な事をやる冒険者で、若くして最前線に居た《英雄オールスレイヤー》などが現場から消えると未踏破地帯から更に魔物が溢れて出て来てしまう。騎士団からしても其れ等を間引く冒険者は必要だし、冒険者からしても溢れた魔物から街の安全を守る騎士団は必要だ。

 もうそこに絡まるのは利権しか残っていない。


「フラムがもし引き抜かれていたらこの国は大変な事になっていただろうね。良かったよ……」

「……? 何よ」

「俺が此処に戻って、もし誰も居なかったらどうしようって」

「居るよ、いつまでも。それに他の皆んなだけど仲違いとかじゃないから……!」

「何があったんだ?」

「何って別に、レオンもミアも東部で見つかった巨大な魔物の討伐に向かってるだけだよ。まだ帰って来てないけど」


 東部と言えば最近新種の魔物が出たとかで、村や街での被害報告が多数上がっているというあの東部だろうか。近衛騎士だった時に同僚が読む資料を覗き見した事があるが、確か一日の移動距離が尋常ではなく、騎士団では対処不可能と判断され、放置へと至った筈だが、どうやら冒険者ギルドに皺寄せが来たらしい。


「そっかぁ、まぁ先ずは肩慣らしに魔物を狩りに行きたいな。その後二人と合流しよう」

「決まりね」



 ――城内、バルコニー。


「各街道、そして王都でも魔物の出没が確認されています」

「これ程の異常現象は久方振りのもの。何か対策を」

「意見を、王女殿下ッ!」


「――黙って」

 

 開放的なこの空間で吹き荒れる風から髪を守りながら私は一体何をしているのだろう。膝を突く近衛騎士達は自分の納得する結果を持って来ないし、頼んだ仕事も満足にこなせない無能ばかり。呆れて怒りも込み上げてこない。


「ノラ」


 少し気が淀んだりするこんな時に、決まって声を掛けてくれる存在が私には居た。貴族の筆頭で、戦争が多発していた大昔から常に戦果を上げ続けて王室と並んで国の成長を見守って来たのがヴァレンティアという一族である。


「ミルコ……やっぱり、見つからないのよね」


「――もうあれから一週間が経つ。家を開けた時を見計らって侵入した俺の部下も見つけられなかったそうだ。もしかして四六時中身に付けているのではないか、と疑ったがそんな様子は当然無かった」


 ゆっくり目を閉じて淡々と告げる侯爵はかれこれ”こういった報告”を一週間も続けていたのであった。

 理由はそう、ラインハルトの剣が見つからないからである。


 嘗て、ヴァレンティア卿は国王にこういう提案をした。


『《英雄オールスレイヤー》の持つあの剣は翳すだけでドラゴンを平伏させ、従わせる。あの男を近衛騎士として側に置き、機が熟したら剣だけ奪い、地位や名誉、名声と一緒に地獄へ叩き落とせば良い』


 何故そんな事を望むのか、些か疑問に思っていた国王だったが月日が経つにつれてその提案の魅力は増していき、ついにはラインハルトが娘であるノラに恋した事によってピースが揃ってしまったのだった。


「絶対に見つけるんだ。国王もあの剣を御所望だ。献上した暁には土地なんて小さく思える程の褒美を俺が与えてやると約束しよう」


 膝を突く部下達の瞳には、成し遂げた後の仮の未来が映し出されているのであろうか、そこで幸せそうに暮らすという幻像が見えている様で少し不気味だ。


「ねぇ、ミルコ。探す場所だけど城内はどう?」

「城内? 此処にあると?」

「分かんないけど、家にも無くて本人が持っていなかったら此処も有り得るわ」

「一度探させたんだが……もう一回探させよう。おい、お前達。殿下の命令だ。歩く騎士達の剣を奪って見ても構わない。王女殿下からの命令だと言えば解決する。行ってこい!」


 二人残されたバルコニーで、静かに抱き合う二人は愛を確かめ合う様に強くお互いを抱きしめ合い、淡く赤面するノラの頬を親指で優しくなぞって呟いた。


「あれさえあれば……あれさえあれば……」

「貴方は英雄に」

「ああ。ドラゴンを使えば簡単に一国落とせる……っ! そしたら今度は……!」

「――晴れて私は貴方と結ばれる。ドラゴンを従えた次代の王にもなれる!」


 高らかに笑う二人に差し掛かる暗雲。それは望んでいた巨大な獲物。遙か上空とはいえ近付く終末と、魔物達の奮起という小さな変化にも気付かぬまま、人間という種族の存亡をかけた大戦が始まろうとしていた。

 


 冒険者としての再登録を済ませた俺はフラムと共にオルヴィアという王都の街を並んで歩いていた。目的は武器、装備の購入と東部へ向かう為の手段探しである。

 俺が冒険者の頃はゆっくりと王都を歩くなんてしなかったが、今は改めて王都を別の視点で楽しむ事が出来る。隣を歩くフラムは見た目の派手さと有名さがあり通行人の目を引いていた。時々自分の存在にも驚いてくれる人が居るのは嬉しいのだが、丸腰の冒険者である事には変わり無く、大抵の場合素通りされるのがオチであった。


「ねぇ、あれ……」

「ん?」


 突然足を止めたフラムの視線は芝が一面にひろがっている有名な広場、その入り口付近に設置された掲示板に向いていた。

 張り紙が無数に貼られている掲示板には古い物から最近貼られたであろう物まで。先ず目に入ったのは当然新しめの張り紙で、俺の顔によく似た人物の絵だ。


「俺だね」

「魔物を城に招き入れ王女殿下を襲わせた疑い……?」


 明らかに俺を廃そうとした陣営の仕業だ。一週間もあればこれくらい出来てしまうのだろう。それにしても、なんと悪そうな見た目をしているのだろう、目は少し吊り上がっていて目つきが悪く描かれている。これでは冒険者時代の自分を知っている者でも勘違いしかねない。


「……してないからな」

「分かってるよ」



「キャアァァーーッ!!」


 突然の悲鳴。俺の向いている方向の先で地面に蹲りながら叫んでいる少女が居た。


「ライン」

「ああ、助けよう」


 正に閃光、一直線に駆け出したフラムは背中の剣に手を伸ばし、前傾姿勢のまま魔物の足元に滑り込んで両足を両断する。二足歩行型でここまで大きいと先ずは動きを封じるところから入るのがやり手の冒険者ってものだ。

 懐かしいプロセスに浸りながらも、武器を持たない俺は地面に転がっていた無垢な鉄剣を足で掬い上げる。


 膝から下が吹き飛んだ魔物は少女とは反対方向に倒れ、鋭い爪を暴れながらもフラムに向けた。


「させない」


 細切れという表現が矮小になる程肉を微塵も残さない斬撃で魔物の腕を消し飛ばした。返り血の臭さに鼻が曲がりそうになるが構わない。肘の内側で剣に付着した魔物の血液を拭った後、即座に能天目掛けて剣を深く突き刺した。

 あまりに深過ぎて剣の鍔まで沈んだ鉄剣はもう使えない。

 眼から生気が絶えたのを確認した後、少女とフラムの元へと歩いて行く。既にフラムが少女を泣き止ませており、絵になる程美しい笑顔を振り撒き周囲の人々を安心させていた。

 冒険者のあるべき姿が目の前にある。


「あ…あ…ありがと……」


 フラムの腕から潜り抜けて俺に駆け寄って来た少女に上目遣いと拙い言葉で礼を言われたが功労は何方かと言えばフラムにある。俺はトドメを刺しただけで、大した事は……。


「……良いんだよ」


 頭で考えるより先に口が動いた。

 笑顔を浮かべられているだろうか不安になる。あまり思い出さない様にしているが一週間前のノラの自分を蔑む様な視線と言葉は未だに忘れられない。絶対に忘れられないのだ。フラムとは四年振りの再会でとても嬉しいが、彼女が女性ぽい仕草をする度に胸が痛む。今後もこの苦痛は続くだろう。

 今だけでも良い、偽善者だと言われても俺は冒険者を続けて人助けをしたいと思った。



 ――一週間後。城内。


 王都オルヴィアに魔物が出没して一週間が経った。あの日の事件は国の体制を疑問視する人間が多く増えた日であり、冒険者の名が広まった契機とも言える日であった。

 二週間前に友人からある希少な剣を譲り受けて日々の鍛錬に精が出るようになって気分が良い。城内ではある貴族を非難する声が増えている気がするがどうでも良かった。だって自分は毎日をこんなにも楽しめているのだから。


「ん?」


 訓練用藁人形と対峙する俺に近付いてくる執事風の男女六人。


「訓練中失礼します。ヴァレンティア侯爵が貴方様をお呼びです」

「ヴ、ヴァレンティアってあのミルコレット・ヴァレンティア卿か?」

「はい」

「まぁ……良いか……」


 渋々ついていった先には見知った近衛騎士や貴族達が頻繁に出入りしている侯爵用に設けられた執務室があった。

 重厚な扉が開かれ、葉巻の酷く甘く重い匂いが身体の側を通り抜ける。決して気分の良いものでは無いが、何かと忙しい貴族にとって葉巻や煙草、酒とは一蓮托生なのだろう。

 切っても離れない関係性とは正しく、俺とこの剣のよう。


「突然だが本題に入ろう。――その剣、俺にくれないか?」


 聞き間違いだろうか。

 俺の後ろで扉が閉じられる。その音だけで空気感は一気に悪い方向へと向かい出したのだ。


「……何故でしょう?」

「そんなの欲しいからに決まっている。当然代わりは用意するぞ? それに金銭であれば言ってくれた分だけ君にあげよう」


 笑顔の裏に隠された貴族の汚い部分がこんなにも感じられる瞬間は人生これとないものだろう。俺が少し動揺しているのも感じ取って右からソファに腰掛けるよう執事が話し掛けて来て、更にお茶菓子が目の前に置かれた。

 訓練とはいえ汚れた鎧のままソファに座るのは躊躇わられたがエスコートする様にヴァレンティアが直接手を引き、俺を座らせたのだ。


「この剣は……友人から頂いた物で、簡単には……」

「知ってるよ。ラインハルト・アレン君からだろう? 彼は反逆者だ。この国に仇する者の持ち物なんて持っているだけ無駄じゃないか?」


 目の前のクッキーを摘んで口に放る。


「……」

「もしかしたら君も反逆者か?」

「ち、違うっ!」

「なら何で君は彼の剣を大切そうに持っているのだ?」

「友人だか『反逆者の?』 ……彼が反逆者だなんて俺は信じられませんっ!」

「信じる信じないの問題じゃないんだ。王女殿下は襲われ、彼自身エルフやドワーフと繋がりがあるらしいな。そんなのもう、向こう側に王国を攻め入れさせようとしているみたいじゃないか」

「そんな事、有り得ない!」

「そう、言い切れる根拠は無い筈だが?」

 

 俺の目の前で足を組んで座る男は優しい口調で捲し立てる。一週間前の王都での事件、それでラインハルトは活躍しているらしいが意外にも世間からの当たりは強かった。世間と言っても貴族達で、実際に出没した周辺で暮らす国民からは称賛されているらしいが、小さな声は大きな声に勝つ事が出来ないという世の定めがある。


「――も、もし俺が剣を渡さないとしたら……?」


 ポカンとした表情で俺を見つめるヴァレンティアは徐々に笑顔、いや笑いを堪えるような顔へと変化していった。

 

「もし? ハハハハ、そんな事考えているのか。面白いね、言葉だけ聞くとまるで君、幇助してるみたいだよ。――そうだな……確か、ファツラー学園の二年に妹が居たな……?」

「……お、おい!」

「実家は東の街道の近くだったか、妹は兄の幇助の容疑で退学、東の街道からは全ての騎士を見回りから撤退。とかどうだ?」


 ソファから立ち上がり、テーブル越しに怒鳴った。

 此奴は王国に潜む癌だ。あのラインハルトが追放されたのも何か此奴の陰謀なのだろう。剣目当てというのも納得がいく。

 

「笑えないぞ……っ!」


 頭に血が昇るのを感じながら発した一言に頷きながら立ち上がったヴァレンティアは視線を同じくして更に低い声で喋る。


「そうだな。でも俺は”それが出来るぞ”」


 冷ややかで腹の奥から響く様な声色は先程入室した時の甘い雰囲気とは一線を画す別物だ。ひりひりと打ち付けるその圧が俺をこの場において小さく感じさせる。


「さぁ、どうする?」


 済まないラインハルト。

 俺は弱い。こんな悪に立ち向かえるようにと入った近衛騎士団で、大した功績も残せず、ただ友人であるお前の横に立っているだけで誉められたあの日々がとてもとても憎い。込み上げる涙が敗北の証だと自分でも分かっていたが、突き付けられた現実には逆らえないんだ。

 済まない。



 ――未踏破地帯。


 あの事件から一週間。《英雄オールスレイヤー》としてまた歩み始めた俺は冒険者が入り浸るこの世界の未踏破地帯を冒険者集団と行動を共にして探索していた。


「あれはなんて魔物だ!?」

「構うな、多分深淵部のやつだ。《英雄オールスレイヤー》に任せとけっ!」


 二人組の短剣使いは汗を拭いながら木の陰に身体を隠して、笛を吹く。魔物の出現を報せる笛は広範囲に響き渡るもので、未踏破地帯に入る冒険者には必須アイテムとなっている。


 ピィィィーーー。


「笛だ! ライン、出番だぞ」


 太い枝にぶら下がるフラムは長い髪の毛を垂らしながら上体をだらりと下に向けていて、笛が聴こえた途端に光景が上下逆の状態からくるりと起き上がって言った。

 

「了解」


 魔物の皮を剥いで、角を切断していたラインハルトが言った。

 腰の剣も、胸鎧も、肩当てや靴、全ての装備を新調した男の瞳に曇りは無かった。笛の音がした方へ直ぐに走り出したラインハルトは止まらず、木々を躱しながら放たれた砲弾の如く突き進む。最近まで重い鎧を見に纏っていたせいで凝り固まった肉体。それを解しながら、対峙したのは”本来この付近に生息していない”筈の魔物だった。


「ヘルスパイダー!? 深淵部のやつが何で此処に……っ!」


 八つの眼が《英雄オールスレイヤー》を捉えていた。どれだけ速く動こうと長い脚と大きい図体で常に背後は取らせてくれないのが見て分かった。

 俺達では知る由も無いこの魔物を知っている様子の《英雄オールスレイヤー》は一本一本脚を斬り落とす作戦なのだろう、木と木の間を飛び回りながら慎重に機会を窺っている。


「”オールスレイヤー”だもんな」

「へ? ああ、二つ名か。良いよな憧れるぜ」

「おいおいもう倒したぞ……!」


「大丈夫ですか?」


 魔物の血さえ目の前の男はアクセントに、笑顔を浮かべるその仕草には一種の恐怖さえ覚えてしまう。


「ありがとう、アイツはなんなんだ?」


「ヘルスパイダーだな。ここよりもっと先の場所が生息地だった筈だけど何かの手違いでこっちまで歩いて来たみたいだ。ここら辺は静かだし、天敵も居ない」


 王国一の冒険者。その功績が二つ名となった男は遠い目をして森の外を眺めている。

 吹き荒れている風が木々を縫い前髪を揺らしていた。


「此処から先は草原だよな?」

「はい」

「あいつはそこから来たのか?」

「違いますね、もっと先の崖近くにある洞窟に生息している筈ですよ」

「凄いな、流石だ」

「いえいえ四、五年前の記憶なんであんまり参考にしちゃ駄目ですって」


 ピィィィーーー。


 再び笛の音。今度はその草原からのもの。吹き荒れる風も何か関係しているのだろうが、何か嫌な予感がする。

 未踏破地帯の草原は基本的に見渡しの良いエリアである。丘の向こうとかでも無い限り大抵の魔物の姿は早くに確認出来るのだ。余程の事がないと笛なんか吹かないだろう。

 でも……。吹き荒れる風という要素が引っ掛かる。それに漂う煤と草木が焦げる臭い。

 もう、直感が身体を突き動かし、”四年振り”となる邂逅に脳をフルスロットルで回転させている。


「フラムを、《閃光せんこう》を呼んで来てくれ。それと冒険者ギルドに連絡を」

「わ、分かった…! ギルドにはなんて?」


「ドラゴンが現れた、と」


 正直装備には不安が残る。幾ら新しい装備だとはいえ高温のブレスを防ぐ耐久力は無い。というより人間が造る装備にそんなものは”存在しない”。

 懐かしさと期待が入り混じり、表現出来ない高揚感が生まれ始めていた。

 額の汗が頬を伝い顎から落ちる。心臓の鼓動を耳元で感じているかの様な不安も。

 


 ――同時刻。冒険者ギルド。


 何か慌ただしい様子の冒険者ギルド。原因は王都に出現した魔物だった。現在大人数での未踏破地帯探索の為に主力の大半が出払っている現状で、適切で、迅速な対応が出来る冒険者など居なかった。

 

「直ぐに《英雄オールスレイヤー》を呼び戻してっ!」

「直ぐには不可能です! 現在地さえ曖昧ですから、今居る冒険者で対応しないと!」

「そんな……っ!」

 

 助けを求めに来た一般人と、討伐の為に出て行く冒険者がその惨状を表していた。断片的な情報では空を飛ぶ魔物と地面を歩く魔物両方が居るらしい。

 王国からは一応騎士が派遣されているらしいが、新しい魔物が王都に入らないよう食い止めているのが精一杯で、住宅地に出没した魔物の対応に手が回っていないとの事だ。


「おいっ! 《斬鬼ブレードキラー》と《銀杖ぎんじょう》が来たぞっ!」


 ザッと混んでいたギルド内に道が生まれて二人の人間がそこを通った。二つ名で呼ばれたその二人は状況がいまいち分かっていないようで眉を顰めながら職員の元へ向かう。


「なぁ、さっき聴こえたんだが《英雄オールスレイヤー》が居るのか?」

「居ます……あ、いえ居ませんっ!」

「ど、どっちだ?」

「居るんですけど……! 此処には居ません、あの、未踏破地帯に入られて三日経ちます」

「……聞いたかミア。あいつが戻って来た」

「フラムに教えたら喜びそうね。で、今何でこんなにも騒がしいの?」

「それが実は……」


 受付嬢は状況が分かっていない二人へ最近起こった出来事について順を追って説明した。時に哀しい表情を浮かべたり、嬉しい表情を浮かべたり。

 様々な想いがあるのだろう、自身の上腕を握る掌は酷く震えていた。

 東部の任務後、直ぐにこういった騒動があるというのは決して喜べないものではあるが、レオン・ザックハートという男とミア・アナハイムという女に休むという選択肢は無いように思えた。


「俺達が出る」

「冒険者達と先ずは合流ね」


 レオンは剣を、ミアは杖の最終チェックを終えてギルドから支給された回復薬を飲み干す。精神的な疲労は解消しないが、肉体的には限りなく万全に近付けていった。

 被害は既に報告されている。二人が確認した時には家屋が十五棟魔物にとって破壊され、更には噂程度でドラゴンも目撃されている。

 怖いなんてものじゃない。そんなレベルでは決して無いのは確かだ。でも向かうしかない。一分一秒無駄にする事ないよう全力で、あの憧れた”英雄”の再び横に立つ為に。

 

 脳裏に浮かぶ理想と現実の対比、失望なんて数え切れない程、出て来る度に自己嫌悪に陥って這い上がる。そんな時を重ねて来た。


 それが俺達。


 目の前に広がる悲しみが幸せに変わるように。全身全霊で”次”に繋ぐのだ。


「オルヴィアの冒険者よ! 立ち上がれッ! ドラゴンなど恐れるに足りないっ!」


 石畳に爪を突き刺して大通りを塞ぐドラゴンを前に剣を構えて立つレオン。又の名を《斬鬼ブレードキラー》は冒険者を鼓舞して飛翔させない為に攻撃を続けさせる。少しずつ、少しずつ、ドラゴンの翼から流れる血液で地面が染まり、ブレスを吐く事も出来ぬくらいに喉に刃を突き刺し、傷口に槍を投擲、哭き叫び潤む巨大な瞳にトドメの一刺し。

 最早パーティーという規模では無かった。十数人が一つになり成し遂げたのだ。



 ドンッ



 誰もがその轟音に驚き一瞬動くのを止めた。

 レオンの正面数十メートル。石畳は完全に砕かれ、その下の砂が巻き上がった。モゾモゾと砂埃越しに映る影は大きく、先程倒したドラゴンとは桁違いの大きさに思えた。


「嘘だろ……」



 砂埃の中のシルエットで察していたが、実際に目の当たりにすると硬直してしまう。

 ”尾”が空中で踊り、砂埃から一人の見覚えのある女が弾き出され地面を転がった。俺は直ぐに駆け出して間に入った後間髪入れずに繰り出された”ブレス”の追撃を防ぐと、ぎこちない笑顔を浮かべながら手を差し出した。


「レオン……帰って来てたのか……」

「聞いたぞ、ラインの話、俺達も加勢する」

「助かる……」

「何をすれば良い?」

「先ずはミアにラインの傷を治して欲しい」


 そう言って指差す先は砂埃の中。シルエットのみ見えるベールの先を指していた。


「ミアっ!」


「私の出番ね! 任せて!」


 淡い光に包まれたフラムの傷は徐々に塞がっていき、砂埃が晴れて魔物と戦うラインハルトの姿が明瞭に確認出来た。誰もが唖然とするその魔物は先程のドラゴンとは一線を画す大きさを誇っており、部位一つ一つ取っても息を呑む迫力があった。

 それは正しく四年前に見たあの個体と似ていて。



 ――ラインハルト視点。


 森を抜け、草原に抜けた先に居た嫌な予感の正体はドラゴンだった。それもただのドラゴンでは無く、ドラゴンの首領『ドラゴンロード』。今一番遭遇してはならない存在の一つが堂々たる立ち姿で俺を見据えていた。

 まるで俺を待ち望んでいたかのようで笑みを浮かべている様にも見えた。


 そして今、フラムと共にドラゴンロードの背中に剣を突き刺したまま空を飛び、王都の街並みに不時着したところだ。

 満身創痍で、傷だらけ。内心笑っているが、尋常でない息切れと眩暈に襲われている。

 突き刺さる様な痛みを伴う火傷で両手の感覚は無いに等しい。


「……っ! フラムっ……!!」


 フラムがドラゴンロードの尻尾で吹き飛ばされ、俺が助けようとも両翼から放たれた風によって阻まれる始末。

 剣と装備もボロボロだ。

 ドラゴンロードのブレスに耐え得る”あの剣”が無ければ、致命傷はおろかまともな戦闘は繰り広げられないと痛感する。


「フハハハハッ! かの英雄もそれまでか! また冒険者を始めたと聞いたが本当だったとはな!」


 ドラゴンロードの後ろ、その声の主人は忌々しいあのヴァレンティアだった。王国の騎士数十名を従え、丈夫そうな鎧を身に付けている。騎士達は巨大な首輪の様な物を抱えていた。ドラゴンを捕まえようと考えているのか、止めろ、と今叫ぶのはドラゴンロードを刺激しかねない。折角攻撃の嵐が止んだ瞬間だったのに。


「あれは……」


 視線の先に輝く一本の剣。友人に預けた筈の剣がその手に握られていた。俺の呟きが見えたのだろう、嫌味と捉えられる笑みを浮かべて見せびらかす様に剣を引き抜いたのだ。


「おい、ドラゴン! これを見ろ! お前らが恐れるこの剣をッ!」


 ……違う。


「震えてるな、フハハハハ! 伝わって来るぞ、お前の恐怖!」


 ……違う。


「逃げるなら今のう……『グァァァァァァァァァ』 な、なんだ……!?」


 地面を揺らす雄叫びの後、ドラゴンロードの口元で猛烈に火花が散る。ブレスの前動作だ。先程の震えといい、この雄叫びは言語化されていなくとも分かる。先代のロードを殺したあの剣を前にしての”怒り”と”興奮”。

 ドラゴンロードはヴァレンティアを今現在最も危険な敵として強く認識しているのだ。

 まずい。このままではヴァレンティアが死んでしまう。後ろの騎士達もブレスの前動作に全く気付いておらず無反応である。


「レ、レオンっ! フラムっ! 奴等から注意を逸らせっ!」


 駆け寄って来たミアは無言で自分を治療し、注意を逸させる為に冒険者達が挙ってドラゴンロードに攻撃を仕掛けていく。

 消耗して地面に膝を突いている俺の横に居るミア。四年振りの再会だが、そこに会話なんて無かった。あるのは俺の小さな感謝と背中を叩くという軽い応援だけ。


 レオンとフラムの斬撃は注意を逸らすどころか、ドラゴンロードの体勢を大きく崩し、転倒させた。しかし転倒と同時に放たれた不安定なブレスが周辺の建物を悉く破壊し、ヴァレンティアの近くに居た騎士達の半数を灰燼へと変えた。


「クソッ……」


 再び剣を握り、転倒した好機を狙って踏み出した一歩。ミアによって回復した体力を使って、ロードの命を断つ為に。

 走って迫る俺の気配を感じ取ったのか、それとも動物的な本能で危機を察したのか、巨大な眼をギロッと動かして囲む様に動く冒険者達を睨み、牙を剥き出して翼で薙いだのだ。


「……っ!」


 俺はギリギリ剣で受け止め威力を抑えられたが、それでも肩に激痛が走り、頭が揺れた結果グレイアウトまで起こった。


「侯爵っ!」


 四つん這いの状態で聴こえたその声の先には、翼の攻撃で吹き飛ばされたヴァレンティアの姿があった。霞む視界で何とか見えたのは出血と動かないその姿だけ。

 悲鳴の数だけでも被害が大きい事は分かる。視覚以外の情報からドラゴンロードの動きを探ろうにも、耳鳴りに襲われ聴覚も頼りにならなくなってしまった。


「はぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁぁぁぁぁ」


 俺は冒険者になったんだ。

 一週間前の少女の笑顔を忘れたのか。

 たった四年の月日で俺は”立ち向かう事”に対して背を向ける様になってしまったのか。


 髪を掻き毟り、喉が壊れる程の声を張り上げる。揺れる視界で、嘗て背中を預けていた仲間が先頭で攻撃を防ぎながら奮闘している姿が見えて。


 フラムが叫びながら物を投げたのが見えた。


 図った様に弧を描いて飛んだ待ち望んでもいなかった希望。あれがあれば、と思わせてくれる唯一の命綱。


「!?」

 

 しかしそれはドラゴンロードが飛び上がった風圧で絶たれ、二足で降り立ったドラゴンロードの脚元へ転がってしまう。距離は相当離れていて走っていては標的にされブレスの餌食に。誰もが唇を噛んだその時だった。


 ただ一人。

 四年という浅い付き合いの中で唯一同僚や顔見知りでは無く”友人”と呼べる存在が涙を流しながら此方へ、いや落ちた剣の元へと走っていた。

 特別早い訳でも無い。気付かれない魔法とかでも無い。ただ全力で、涙と汗を散らしながら走っているのが見えた。


 駄目だ。

 駄目だ。

 駄目だ。

 何度も大声で逃げろと叫ぶが、止まらない友人。もうドラゴンロードは気付いており、口元ではブレス前の火花が散っていた。

 

 そんな所を走っていては確実に死んでしまう。

 

 俺との距離はもう五十メートルまで迫っていた。

 徐々に縮む距離は同時に、彼に”死”のカウントダウンが迫っているようにも感じさせた。

 剣を拾い、途中こけそうになりながらも振り返らず、真後ろで大きな口を開けるドラゴンロードなんか気にする様子無く走るその姿は、俺にとって時間の流れが遅く感じる瞬間であり、放たれた大きな炎と共に目に焼き付いた光景。

 地面を抉り、辺り一面を焼き払うそのブレスを背後に、見えたのは友人のぎこちない笑顔。それと確かに聴こえた冒険者時代の二つ名で自分を呼び、託す言葉。

 それは改めて自分の立場と居るべき場所を示唆してくれた”始まり”の言葉だった。

 

 ――『《英雄オールスレイヤー》、後は任せたぞ』


 この言葉を添えて地面を跳ねながら俺の足元へと転がり渡った”あの剣”。

 泣く間も、驚く間も、考える間すらも無く俺は再び、その剣を手に取り、構えた。


 《英雄オールスレイヤー

 そう。俺はどんな魔物でも倒す”英雄”だ。彷徨う不安を導き照らす希望となり、剣を掲げて抗っていく。冒険者としての俺が生きる今日その意味を証明する為に。

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例えば追放された英雄がもう一回冒険者を始めてみる話 @Jyamirupon

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