駅 🚉

上月くるを

駅 🚉





 周辺に三つの駅があるが、メイン駅まで十数分なので一度も利用したことがない。

 これからの季節、本駅の構内を横断しての小一時間は、格好の散歩コースになる。


 西口の長い階段(むろんエスカレーターやエレベーターもある)をのぼりきると、四方八方の眺望が拓けた通路に至り、混雑する改札口付近を横ぎって東口へ抜ける。


 地元の住人や三角の旗を持った観光業者が、わき目もふらずという感じで電車から降りて来る顔を見詰めている……その前を通るとき、郷愁めいた想いに胸がゆれる。




      💐




 ちょっと甘酸っぱいぬくもりは、十数年前のあの日に兆しているんだね、きっと。

 大学&社会人と首都圏在住だったむすめが、婚約者を連れて来た早春の真昼……。


 紺スーツの青年は生真面目が特急に乗って来たような人で、ひと目で気に入った。

 山並みを背景に携帯電話で撮影した写真は、いまも大切にバッグにしまってある。


 お婿ちゃん(他人行儀にお婿さんと呼びたくない(*'▽'))は、幼いころのトラウマから犬が苦手だったが、うちで待つ黒犬とは相当な覚悟&努力で打ち解けてくれた。


 リビングのお婿ちゃんと庭の犬が見つめ合うワンカットはデジカメ撮影で、こちらはアルバムに保存してあるが、初見の双方の和み合いの表情がなんとも微笑ましい。




      🐕




 駅の話にもどると、人びとが出会い別れゆく場所は創作意欲を掻き立てるらしく、むかしから小説や映画、ドラマ、音楽の舞台やテーマとして重宝に使われて来た。


 高倉健・倍賞千恵子さん主演の映画『駅』、竹内まりやさんにも同名の曲があり、森村誠一さんの『終着駅シリーズ』は一般の刑事ものとはひと味異なる情趣を醸す。


 ちなみに、旧知の児童文学作家は生前「映画にもなった某作家の鉄道小説のテーマは自分の作品が先だ」と口惜しがっていたが、こういうこと、意外にあるのかもね。


 ヨウコさん自身、某文学賞に入選して本にもなった動物文学作品の丸まる一頁分が某中堅作家の小説にほとんどそのまま使われていることを知り仰天した記憶がある。




      🛤️




 一方、俳句の題材としても駅は格好のネタになるが、ひと癖もふた癖もある(笑)俳人たちはなぜか無人駅が好きで、菖蒲や秋桜など季節の花との取り合わせを好む。


 新人のころ、まだそのことを知らなかったヨウコさんは、句会に意気揚々と無人駅の句を投句して「ありがち」「凡句」「使い古し」先輩諸氏の失笑を買った。(^-^;


「しぐるるや駅に西口東口 安住敦」(昭和21年)はいまなお鮮烈さを失わない。

 新駅は東口が先に拓けるというのがヨウコさんの印象だが、本当はどうだろうか。




      🗼




 コロナの収束を待っていたイベントに出席するため、久しぶりに東京へ出かけた。

 会場からの帰路、タクシーの窓に映る新宿駅がひどく老けて見えて胸を突かれた。


 駅も、歳をとるのだな……。

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