001-02 残酷で美しき呪歌と抗う力

暖かな日差し。僕はゆっくりと目覚める。すると未だに歌声が聞こえている。携帯を見ると、それほど時間は経っていなかったらしいが、普段よりも快眠だった気がする。僕はスッキリとした気持ちで、彼女の歌を独占して楽しむことにした。


「~~♪」


いや、隔離されているとは言っても、こんな良い歌声を独占して良いものなのか?僕は少し、疑問を持ってしまった。


「あ、起きられたのですね!昏倒したのかどうか分からずに不安でしたが、昏倒された方と違って気持ち良さそうに寝られていたので心配は少なかったのですが...」


「あー...気にするなとは言っても、気になるよなぁ...無神経だった、すまない」


「いえいえ、私が勝手に気にしただけですので...えーっと...」


「あぁ、名乗っていなかったな。僕は2年の『平良 忍(たいら しのぶ)』。よろしくね

音鳴さん」


僕がそう名乗るとヘコヘコした様子を見せる。


「あ、いえ、こちらこそ、よろしくお願いし...あれ、私って名乗りましたっけ?」


「君って有名だよ?君の夢想能力が使われたら、都市機能が停止するから、国が管理しなければならないとかってニュースで見た記憶があるね」


「あ、あはは...まぁ、嬉しくない話なんですけどね...」


少し暗い表情をする彼女。


「ま、そりゃそうだよね。国の管理下に置かれる能力者って家族ですら面会は困難だって話だし、良いことだけじゃないでしょ。その事に気付かずに他人の立場だけを羨む連中って面倒なだけだよ」


僕は夢想能力だけで偉ぶるクラスメイトを思い出す。そういう連中は血闘能力が伸び悩む。小学生で習う程度の事を無視して夢想能力の力を重視する。そして、不都合な現実から目を反らして、初ダンジョンで命を散らすのがお約束だ。学校の先生方も現実を見て、血闘能力の大事さを思い出してほしいものだと思う。

僕が心の中で愚痴を言っていると何やら感動したかのように僕の手を握る


「そう...そうなんです!!メッセージやビデオ通話とかでのやり取りは出来ても、直接会うのは、年に数回だけ。人との付き合いも、学校の中ですら制限されるし、私の能力に抗える人なんて学内にほとんどいないせいで、私がちょっと話すだけで昏倒する人もいるから、授業は隔離だし...こうやって先輩と話せるだけでもありがたいです!それにしても、先輩こそ凄いですよね。私の歌で昏倒しないなんて、凄い先輩と知り合えてラッキーです」


物凄い尊敬の眼差しだった。


「残念ながら、そこまで凄くないよ、僕は。何せ、この学校で唯一の夢想能力を持たない夢も理想もない底辺さ」


僕は思わず自嘲してしまう。まぁ、現実はこんなものだ。夢想能力を持たないの一言で関係は全て終わる。


「え、能力もなしに私の歌で昏倒しない方が凄くないですか?昏倒する方々だって能力者ですよ?...むしろ、先輩って血闘能力が強いとかではないですか?」


しかし、僕の話していない事を急に察してきたせいか少し警戒心が宿る。


「私の経験則ですが、血闘能力をちゃんと鍛えた人って私の声だけでは昏倒しないんですよね。そりゃ、本気で歌えば並大抵の人を昏倒させられるんですけど、それでもランクが高い人って昏倒しないんですよ!」


音鳴の言葉に、思っていた以上に自身の強さが高いことを自覚する。

そもそも、僕が夢想能力を絶対視しないのは、強力で最悪なデメリット...能力の喪失の可能性があるからだ。僕のような現実主義者が夢想能力を持ったところで、夢や理想を維持し続けることは困難だろう。昔からそんな考えを持つせいか、何かに強い憧れを持つことはなかった。現に、僕の幼少期に父は戦闘中に現実を思い知る事で夢想能力を失い、二度と戦えない体となった。そういうことがあるのは小学生で習う話だ。確かに、血闘能力を育てるよりも夢想能力を育てる方が強くなる。しかし、失う危険性があるから、血闘能力しか小学生では鍛えようとしない。それさえ意識していれば、血闘能力を蔑ろにしないだろうにね。


「一応、夢想能力に関する実技を除けば、全てが好成績を維持しているさ。特に試験の点数はね」


「ほぉぉぉ!!何だかラノベみたいな基礎能力だけで最強!!みたいな感じですね」


音鳴の言葉に苦笑はしつつも、確かにと思ってしまう。僕を題材にするラノベがあれば『無能力者と馬鹿にされるが、最強の肉体を持っている件について』みたいなタイトルだろうか?よくあるラノベ的には夢想能力がスキルで、血闘能力がステータスみたいな物か?いや、厳密には違うが、そんな風に見ることも出来るだろう。そんな風に考えてみると、音鳴の能力に対抗できる理由を導きだしてみる。


「音鳴さんの言うように血闘能力の高さが抵抗に繋がるというのが正しいとしたら、血闘能力の中にある魔法抵抗能力の高さでレジスト出来るんじゃないか?つまり、音鳴さんの『呪歌の魔女』とは魔法系統の夢想能力だな。それと同時に音鳴さんの魔法に関する血闘能力も高いと推測できるが...どうだ?」


一応、夢想能力と血闘能力にはシナジーがある。ゲーム風に言うなら、素晴らしい剣を持っていてもATK0なら、宝の持ち腐れという奴だ。まぁ、夢想能力が剣に関する物なら、必ず体を動かして鍛えるから、力に関する血闘能力は同時に鍛えられる。

だからこそ、そんな推測が出来たのだ。


「凄いですね、先輩。私の能力を見てきた研究者の方々はすぐに昏倒するせいで理解不能とされたのですよ!!」


僕は国の研究機関の雑魚さに口元がひきつる。しかし、音鳴はそれに気付かなかったのか話を進める。


「一応、私の経験則とは言いましたが、先輩と同じような推測は冒険者協会の日本支部長さんがしていましたよ!!」


冒険者協会日本支部。そこの長である日野 昌磨。日本最強にして柔軟な思考も持っている世界最高峰の能力者と知り合いなことに思わず目を輝かせてしまう。いくら現実主義者でも有名人と知り合いというのは興味が出る。


「先輩でも興味はあるんですね。意外です」


「別に枯れているわけではないからね?それなりに好きなものもあるし、憧れる能力者だっているよ。単純に僕自身が現実を見過ぎているだけ」


僕たちが話していると授業の終わりのチャイムが鳴る。久しぶりに楽しい学校生活だと思った。


「それじゃ、音鳴さん。またね」


「はい、先輩!またです!」


僕と音鳴の出会い。ここから僕の生活に色が付いていく。それがハッキリするのはまだまだ後の話だ。

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燃え滾る熱き魂の英雄伝説 栗無 千代子 @chocolatecream

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