001章 呪歌の魔女と現実主義者

001-01 呪歌の魔女との出会い

高校2年のある日、僕は教室に居づらく屋上にやって来た。理由は単純でイジメ。魔法や能力の時代になっても変わらず存在し続ける。そんなイジメの理由は、僕には能力...夢想能力を持たないからだ。別に悪いことではないと思う。それは単純な現実主義者なだけだと思うからだ。しかし、世の中はそうは見ない。世の中は、僕を若いのに夢を持たない無気力な人間だと言う。僕からしたら、現実的な夢を持っているのに、夢想能力に至らないのは無気力が理由だとしてくる。嫌な話だ。とは言え、血闘能力だけ見れば上位には入るのだが、よく聞くのは、座って勉強だけ出来る人間、内申点だけの人間、夢を持たないのに夢を持つ人間の足を引っ張る人間。僕からしたら、真面目に鍛えた結果だろうがと言いたい。むしろ、言ったから、イジメに遭うのだけどね。本当に嫌な話だ。

今の世の中、夢想能力でやる気を見出だそうとするから、始末に負えない。どれだけ結果を出しても夢想能力を発現させなければ、意味がない。

僕はそんな風に黄昏れていると歌が聞こえた。そちらを見ると一人の少女が綺麗な歌声を響かせている。僕は思わず聞き惚れていると、僕の視線に気付いたのか、慌てた様子で近づいてきた。


「あ、あの!!大丈夫ですか!?体調は?ああ!!魂が悪魔に食べられたとか!?」


変なことを言ってくる少女だった。


「あぁ、ごめん。凄く良い歌声だったからじっくりと余韻に浸っていただけだ」


僕が平然とした様子で言っていることに驚いたようだった。


「そんなに驚くようなこと?」


「は、はい!私の歌を聞いた人って、大体の人が昏倒しちゃうのです...だから、夢想能力の練習は屋上で一人でやることになっているんです...」


はー...これだから、夢想能力ってヤバイ。と言うよりも、夢想能力を一人で練習させるとかカリキュラムに違反している。夢想能力の練習はライセンスを取れるまでは個人練習すら禁止されている。そして、高校生は夢想能力の使用ライセンスの取得を禁止している。簡単に言ってしまえば、昔からある三ない運動と同類だ。僕個人としては、三ない運動もライセンス取得禁止もナンセンスだとは思っている。三ない運動は、学校のバイク通学だけ禁止すれば良い。夢想能力のライセンスも同じく、学校内での私的利用を禁止すれば済む話だと思っている。

それはさておき、彼女の話を聞いていると思い出した。彼女の名前は『音鳴 響(おとなり ひびき)』。この学校の1年生で、とある夢想能力で有名だ。その名は『呪歌の魔女』。彼女の歌を聞けば、問答無用で昏倒させてしまうという能力だ。そして、能力を使うときは彼女を隔離して使わせる必要があるとも聞く。モロに聞いた僕が無事か心配するのも無理はない。


「まぁ、僕は平気だったみたいだよ。だから、気にせずに歌ったら良いよ」


僕はこのまま授業をサボろう。どうせ、試験はほぼ満点取れるし、出席点を含む内申点が全滅しても成績表の点数は80は固い。そんな僕をカンニング容疑で再試験しても変わらず満点取るし、それでも不服な連中はカンニング能力だとか難癖つけてくるが、能力持っていたら今までの言動は何なのかと責めれば黙る。そして、イジメがエスカレートする。嫌な悪循環とはこの事だろう。学校教育という物に夢や理想をもたない。これが現実的だろう。

それにしても、音鳴の歌は凄く...良いな...普通に眠くな...る...

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る