000-03 力を得る者と失う者

世界が魔力に目覚めて何年経っただろうか。あれから様々な力に目覚める者が増える。そして、能力開発が終わり、最終的にはこの世界では全ての人間は2種類の力を得た。それは理想や熱意を力にする能力と力などを鍛えることで成長していく能力だ。理想や熱意を力にする能力を『夢想能力(ドリーマー)』と呼び、魔力や体を鍛えることで成長していく能力を『血闘能力(ブラッディー)』と呼ぶようになる。

夢想能力は文字通り、この世界で一番最初に発露した能力...理想を自身に宿し、強く願い求め続けることで発現する力。しかし、心が折れたら使えなくなる文字通り、夢を見続けなればならない力だ。

血闘能力は体や魔力を鍛えることで自らの血肉とする物だ。限度はあるものの誰でも伸ばすことの出来る力。しかし、才能の差が大きく出てしまう力でもある。

両方にメリットとデメリットが出てくる。特に夢想能力はその傾向が強い。昨日までは最前線で使えて誰にも負けない力を持っていたとしても、今日になれば使えなくなるかもしれない。憧れや理想の数だけ力を得られるが、心から消えた時に全てを失う。もちろん、心が持ち直すことに成功すれば復活するが折れ続けたら終わる。あの異世界人を倒した仲間達の中にも二度と力を使えなくなる者もいた。そして、夢想能力に頼りきっていたもの達はほとんどが戻っては来なかった。

反面、血闘能力は地力の差が大きいが失うことはない。夢想能力を失っても、鍛えた体は裏切らず、血闘能力だけで生き残り続けている者もいる。そして、自信を取り戻すことで、再び夢想能力を目覚め直す者もいる。

故に、今の能力者教育の基礎は血闘能力だ。これを鍛えてからでなければ、夢想能力は原則使用を禁じている。子供であればあるほど、憧れるものや夢見るものが多い。だからこそ、子供の所持する夢想能力は一人でいくつもの力を持つ。

少し前までは、全ての子供の理想や夢を否定することは重罪であった。無謀な夢であっても否定してはいけないが、その分だけ子供の犯罪者が増えたことが社会問題になったため、いくつかの例外を設定して理想や夢を否定することを重罪とした。いつの世も、政治家は極端なルールを決めたがるから起きたことだろうとは思ってしまった。


それはそれとして、今日も今日とて忙しい。ここは冒険者協会日本支部。その支部長を務める俺の下には多くの依頼が殺到する。俺の名前は『日野 昌磨(ひの しょうま)』かつてはサラリーマンをする平々凡々なオタクだった。そんな俺は命の危機を前に力に目覚めた。俺の夢想能力は『Minuscule Libraire Grimoire(小さな魔導書図書館)』と『探知眼(サーチ・アイ)』。

『Minuscule Libraire Grimoire』とは、この手にあるスマホが魔導書であり、魔導書を収めた図書館でもある。能力の発動は魔力を通すこと。そして、蔵書の増やし方は複数ある。空想の呪文を考えてメモ帳に書くとそれが魔導書の1ページとなる。そして、最も便利なのがヨーロッパとかにある魔術書の表紙をスマホで写真を撮るだけ。そうすると何故か蔵書のリストに載る上に、内容か日本語で認識できるようになる。よく見かけるのはナンチャッテ魔術書だが、ごく稀にガチモノが出てくる。どうやら、昔から異世界はあったらしい事が、この事から分かり、そちらとやり取りをすることが可能となったため、魔法教師の中には異世界人もいる時がある。

『探知眼』はシンプルに魔力量と気の量を判別できるものだ。ただ、この夢想能力に関しては生きる事への熱意が忍者マスター・メンマの世界の魔眼を思い出させたのだろう。本能的に飛んでくる瓦礫から逃げる方法を無意識に求めて、無機物の気すらも読める魔眼を得たのだろうと推測している。

俺が書類仕事をしていると、秘書が入ってくる。


「支部長、昼休憩の時間です。上役が休みを取らないと下の人間は休みが取りづらいので、早く取ってください。いつまでブラック企業根性でいるつもりですか?」


俺にぼやく秘書こそが、あの時の同志の一人である『秋風 紅(あきかぜ くれない)』。アキと呼ばれていた当時は少年っぽかった彼女もスッカリ女性らしくなった。


「支部長...親戚のおじさんっぽい視線は止めてくれませんか?」


そして、女性の勘と鑑定を組み合わせたかのような察知能力には脱帽だ。しかし、能力ではないのが恐ろしい。


「ま、まぁ、君の言う通り、昼休憩にしようか」


そう言って俺は支部長室から出る。これでも英雄と呼ばれた俺とアキは周囲からの歓声を浴びながら、社員食堂に向かう。


「そう言えば、秘書になってから、割と時間は経つけど、最近はどう?」


「...どうとは?」


「いや、プライベートとか。秘書を頼んで忙しくさせている俺が言うのも何だけど、アキってモテるだろ?だから、彼氏とかどうかな...痛っ!!急に蹴るなよ!!」


アキの蹴りが俺の脛を襲う。座っていたから良かったものを...!!


「ふんっ!!セクハラモラハラ女の敵!!」


「わ、分かった分かった!!俺が悪かった!!頼む、何か奢るから許してくれ!」


「ん、だったら、社食の『デラックス☆パフェ』」


アキは遠慮なく社食で一番高いデザートを要求してきた。


「分かった、今すぐ買ってくる!!」


そう言って、俺はアキのためにデザートを買ってくるために席を立つ。


「...(しょう兄のバーカ)」


アキは何かを言ったような気はしたが、そっぽを向いて膨れっ面をしていた。俺はヤバいと思って慌てて『デラックス☆パフェ』を買いに行くのであった。





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