煙の中に貴方を見つける。

湖都

煙の中に貴方を見つける。

 一週間経っても貴方のことが忘れられない。

何日経っても既読のつかないトーク画面と二分前に投稿されたストーリーが何を語るかは明白。


 いたたまれなくなって深夜のコンビニまでサンダルをつっかけて歩いた。

熱帯夜の空気はドロドロしていて誰かさんの心の内のよう。

そんな中たたずむコンビニの涼しさといったらオアシスみたいだ。


「77番で。」


 付き合った頃、番号で商品を取らせる貴方が嫌いだった。

何度も銘柄で言いなさいって言った。

なのに私の口をついて出てきたのは聞きなれた番号だった。

貴方が何を吸っていたのかさえも知らなかった。


 家のベランダでシュッとマッチを擦って火を灯し、咥えられた棒にあてがう。

深呼吸をすれば身の内も外も貴方の香りで包まれた。

手はピースの形をとっているのに心の内は感傷的で取り繕えないほどだ。


 その甘ったるい香りに貴方を探してしまう。

なのに見つかる前に燃え尽きてしまった。肺に残った香りは虚しく消えていく。


 真新しいマッチ箱を見つめる。

何故だか貴方はマッチを使いたがったからいつも私が持ち歩いていた。

空になったマッチ箱が増えていく様子が嬉しかった。

貴方も嬉しそうだった。

今、手の中にあるマッチ達が貴方によって使われることはなかった。


 私を愛してくれない人なんていらない。


 愛してくれればそれでいいのに。


 簡単でしょ?


 また“重い”って言うの?


 しょうがないじゃない。


 貴方も同じくらい思ってよ。


 貴方の香りはいつも、私にとっては強すぎた。

だからもう中毒になってしまった。二度と抜け出せない。

その香りに包まれていることが快感で幸せだ。


 夜の静寂に消えていく煙になりたいと願った。

貴方を包む煙に。



 









  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

煙の中に貴方を見つける。 湖都 @1203tomato-an

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ