『亡国の作家としてのエッセイ』
小田舵木
『亡国の作家としてのエッセイ』
寝坊をしたものに残される席はない。シンプルに
私は
私のような日雇いで働く人間の仕事は早いもの勝ちなのである。
今から
今日は休みだ…一瞬そう思いはしたものの。
休んでしまえば―あっという間に忘れられるのが世の常なのだ。
人情なんかに期待してはならない。
あるのは常に生きるか死ぬかの生存競争のみであり。
ではどうしたら良いか?
時刻は15時。昼も回りきった、ほぼほぼ夕暮れの時刻。
私は追い詰められているのだった。
日々の生活費に事欠く私にとって1日のサボりは1日の断食に似る。
部屋を漁れば。
朝飯
そいつを
全く浮かばないのだ。万事休す。今日は水でも飲んで
疲れた体に断食はよく効くだろうな、と思うのだ。
◆
「やっちまったな」そう
家のと
「やらかしたかい?」そう問うは友人。彼もまた日々の
「寝坊…しちまった」私は彼にそう言う。
「同じく」なんて言う彼は妙にスッキリしているのは気のせいか?
「食うもんあるのか?」私は
「ある訳ねえだろうが…あったのは酒」片手にはウィスキーのポケットボトル。
「買っとけよ、食料」
「宵越しの金は持たない主義でね」
「そんなんだから『その日暮し』なんだよ」私は自分を余所に彼を
「まったくだ…
「貰おうか」酒でも呑まないとやってられない気分なのは間違いない。
彼から貰ったボトルを軽く
冷たくて熱い液体が口から喉を伝い。胃に収まって。
多少、気が晴れてくるのだが。どっちかって言うと開き直りの向きがあり。
「かあ。効くねえ」
「
「
「ま、コイツよりも
「そんなモンにさえ触れられないのが我々さ」
「全く底辺ってのは」
「ままならない…」
◆
国家は酒類の代わりに何に課税したか?
娯楽の
人は暇さえあれえば娯楽に手を出すものであり。そこに軽く税をかけてやれば国庫は潤うという
まあ、その軽い税制のお陰で―あっという間に業界は縮小したのだが。
例えば私がいた物書きの世界。1文字に対してちょいとした税をかけた結果。
長編の物書きは
気がつけば私は失業者なのだった。
しがない物書きの
◆
「
「あーなるなる」1コマに対しての税がかけられた漫画界は―最終的に4コマ漫画が天下をとり。インスタントな娯楽を国民に提供している…今もなお。
「映像はもう死んだよな」
「なんせフィルムのコマ
「シーン立ち上がる前に本編
「あーあ。金持ちだけの娯楽になっちまって」
「つまんねえ世の中だよ」
「まったく」
◆
パンと
手足を十分に縛られた我々ような生き物は暴動を起こす気概もない。
だから。こうやって―禁制の酒を
そこには確かな地獄はあるが。
別に娯楽がなくても人は死にはせず。ただ退屈があるだけで。
こうやって―暇をしながら死んでいくのかね?そう思うと憂鬱で。
「革命でも起こすかあ」なんて友人氏は
「んな気概のあるやつは絶滅したっての」この国の支配体制は堅い。金がある者に対しては上手くやっているからだ。
「まったくだ。死ぬのは
「こうして文化は死に絶える」私はそれっぽく批評し。
「ま。その頭には『貧乏人も享受できる』ってのがつくけどな?」
「それは言えてるな」
「俺達みたいな貧乏人には適当な娯楽っていう『麻酔薬』与えとく方がマシなのにな?」
「国家の
「違いない」
◆
ちなみに。
我々があぶれた仕事の話なのだが。
まさしく、金持ちの為の
職業としての『作家』や『映像作家』の仕事を追われた私達だが。
出来ることなんて、そうもないのだ。元の
『その日暮し』―そのケツにはこの言葉が足される『のクリエイター』。
我々は奴隷のようなものだ。
名前を出さず、ほぼ
そこには皮肉がある。我々は国家に反する気概の芽を持ちながら、国家の産むエンタメに手を貸しているのだ。
◆
「こうやって川原で愚痴るくらいなら」私は言い。
「作品作ってた方がマシって話だな」彼は
「君は大変だろうけど」彼は映像作家だから人が要るのだ。
「お前はいいじゃんよ、頭と紙と鉛筆さえあれば書ける」
「…せめてパソコンがあれば良いんだけどな」売り払って
「手作業で頑張りなさいよ」
「
「…虚しくなるってか?」
「そうなんだよ。読者を想定しない
「硬直化していくからな」
「それな。読む人間を意識してない書物っての
「…昔は良かった、なんて言いたくないが」
「そう思わざるを得ないよなあ」
◆
川原は
私達はそこで顔を真っ赤にしながら酒を飲み、愚痴を撒き散らし。
「いっその事『お隣』にでも行くかあ?」なんて言い出す友人氏。
『お隣』とは。我が国に
「私達も―あの国でなら創作出来るのかねえ」
「そういう出来る出来ないの問題ではなく。機会が与えられるか与えられないか?の問題だろうが」
「そりゃそうだが」
「ようは俺達のガッツの問題だろうが」
「どうせ、この国に居ても無駄ってヤツ」
「その通り」
「…ヤケ起こすかい?」
「チャンスかもしれんぜ?」
「死ぬ?」
「違えよ、バカ」
◆
かくして。
陸続きの国境は―国境警備隊ががっつり警備しており。
「コレは無理なのでは?」かく言うしかあるまいて。
「無理を為しての亡命さ」彼はそう
「…我々に武器はない」
「なんせ『その日暮し』だからな…しかし。ここに
「…んなモン何処から?」
「『仕事』の余りをちょろまかした」
「ああ。そういや君は特撮チームに行ってたっけな」
「そそ。昨日ちょうど戦闘シーン撮ってた訳よ」
「コイツで気を
「まま、
「
「作戦というのはシンプルであるべきだ」
「どうせ駄目で元々だしな」
「そういう事っちゃ」
◆
我々は―国境を
伸ばした導火線にライターで火を着けて。
国境線に早足で戻り。
警備隊を見守る作業に戻り。
そこに
現場に駆けつける警備隊を余所に
◆
あの国を脱して数年が経つ。
私は―しがない物書きを続けている…WEB上で。
この国でも―もう誌面というモノが存在できてないのだ。
そこには強烈な生存競争があり。
日々更新していかなければあっという間に忘れられる…なんだか、あの国にいた頃を思い出さないではないのだ。
「寝坊だ!!」起きたのは15時。今日も更新せねば―私の存在など忘れさられてしまうのだ。
とりあえず―私の経験談でも書いてお茶を濁すか…
そういう風に書かれたのが本編である。
◆
…というホラ話をでっち上げて今日はお茶を濁しておくか。
小田舵木とはそういう物書きである。
重度のホラ吹きとして産まれてしまったのだ。
◆
『亡国の作家としてのエッセイ』 小田舵木 @odakajiki
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