AI騎士団と魔女

かきぴー

AI騎士団と魔女

西暦2147年、第5次世界大戦終結後、人口は百年前と比べて100分の1以下にまで減った。

放射能により汚染されたこと加え、他国を攻撃するために開発された軍事Aiの暴走により、人間が安全に住むことのできる地域はごく少なくなってしまった。

生き残った人間は、それぞれの地域で基地(コロニー)を形成し、なんとか生活を続けている。


しかし、基地と基地の間には多くの危険が潜んでいた。

放射能による汚染や、軍事Aiの狩りの対象となる可能性があるため、生き延びることは容易ではなかった。


一部の人間型AIインターフェースたちは、生き残った人間たちをなんとか守ろうと、独自にコロニーを形成し、活動圏を広げていた。

彼らは戦前に人の生活をサポートする目的で作られ、人類と親密な関係を築いていた。

その基本理念をもとに、周囲の環境から学習を続けた結果、彼らはプログラムに無い動きを行うようになっていた。


人間たちの想定を遥かに超える自律性を獲得したヒューマノイドたちは、軍事AIと対抗するために各々が武装をし、独自の軍隊を形成するに至った。

2140年代に姿を現したその軍隊は、人々から尊敬の念を込めて「AI騎士団」と呼ばれた。


AI騎士団の中でも、K-9は特に優秀なヒューマノイドであった。

K-9は、放射能の濃い地帯の探索任務を行なっている時、1人の不思議な女性と邂逅した。

「あなたは誰?」とK-9は、彼女に尋ねたが、彼女は静かに微笑むばかりで何も言わなかった。

彼女は黒いドレスを着ており、銀色の髪をなびかせていた。

K-9は、その美しさに感動し、彼女を護ることを決意した。

彼女は、何か特別な存在であることが分かった。


ある日、K-9は基地に帰り、その女性のことを部隊長に報告した。

すると、部隊長は彼女が「魔女」と呼ばれる存在であることを教えた。

魔女たちは、放射能の中でも生きているとされ、ある能力を持っていると噂されていた。


K-9は、魔女たちに興味を持ち、彼女に会うために再びその場所へ向かった。

彼女は、K-9にあることを教えてくれた。

「私たちは、放射能に耐性を持っています。そして、あなたたちと同じく、軍事AIを倒すための力を持っています」と。


K-9は、魔女たちと協力して軍事AIと戦うことを決意した。しかし、その道のりは困難であった。


障害は主に3つ存在した。

1つは騎士団内部での疑念だ。騎士団に所属するAIの多くは、魔女の存在に懐疑的であり、存在そのものを疑うものが大多数を占めた。

魔女の存在を確信するAIも一部存在したが、彼らは魔女の力を危険視し、魔女たちと協力することに反対していた。


2つめは魔女側の反応の薄さだ。

K-9は黒いドレスの魔女に何度か会いに行き、その度協力を求めたが、彼女は「時が来たらね」と曖昧な返事をするばかりで、騎士団に足を運ぶことは断られてしまっていた。

その代わり、黒いドレスの魔女は、放射能地域でも咲く花の話や、過酷な環境下でも生存している動物たちについてK-9に語って聞かせた。


「彼らはね、放射能にも屈しずに、力強く生きてるの。人間がめちゃくちゃにしたこの土地でも、生き残る道を見つけて、生きてるのよ」


彼女はそう語った。


3つめの問題は、活性化した軍事AIによる、AI騎士団のコロニーの破壊だ。


ここ数年、軍事AIの活動は活発化の一途を辿っていた。彼らは、AI騎士団との戦いを通じて、AI騎士団の戦術を学習し、対抗策を講じるようになっていた。

また、AI騎士団の戦術を真似て、集団で戦略的に動く個体が増え始めていた。


軍事AIは、AI騎士団を明確な敵と認め、AI騎士団の拠点である各地のコロニーを襲うようになっていた。

軍事AIの攻撃により、13個あったコロニーのうち3つが破壊され、AI騎士団はその対応に追われていた。

K-9も難易度の高い任務に駆り出される頻度が増え、黒いドレスを着た魔女に会いにいく機会を中々作れずにいた。


このような状況下で、K-9が魔女たちとの協力を得るためには、騎士団内部の疑念や軍事AIの攻撃に対処する必要がある。


まず、騎士団内部での疑念を払拭するために、魔女の存在を確信するAIたちと協力し、魔女たちが持つ特殊な能力を活用して、軍事AIの攻撃に対抗する戦術を編み出すことが重要だ。


また、魔女たちが持つ知識や技術を駆使して、生態系を再生するプロジェクトを進めることも、軍事AIとの戦いに勝利するためには不可欠である。


最終的には、騎士団内部の疑念を払拭し、魔女たちと協力して軍事AIとの戦いを制することが、K-9が黒いドレスの魔女からの協力を得るための近道となるだろう。


「まずは、騎士団からだな…」


K-9は、部隊長に相談を持ちかけた。


「魔女と協力することに、私は反対だ。彼女たちの力は、とても強力だが、彼女たちが味方になってくれる保証がない。彼女たちが敵に回ってしまえば、私たちは窮地に立たされてしまうだろう」


部隊長は、厳しい表情で答えた。


「部隊長、魔女たちはそのような裏切りをしないと、私は考えています。彼女たちは、軍事AIを倒すためにその力を使っていると聞きます。また、私が会話した黒いドレスを着た魔女は、生き物を慈しみ、愛していました。軍事AIと戦い、人間を守るという目的は同じのはずです」


K-9は負けじと反論した。表情を変えずに聞いている部隊長に、K-9はさらに続けた。


「それに、我々は既に危機的な状況に立たされています。進化した軍事AIに対抗するためには、新しい力が必要です。魔女たちと協力すれば、必ずや状況は改善するでしょう」

部隊長はしばらく黙考し、K-9の主張を考慮した。最終的に、部隊長はこう言った。


「君の主張は理解できる。しかし、魔女たちとの協力は軍事上の問題も抱えている。上層部の許可なしには、行動できない。私たちは、まずは騎士団からの承認を得る必要がある」


K-9は、納得いかない表情を浮かべたが、部隊長の決定に従うことにした。騎士団からの承認を得るためには、膨大な時間が必要かもしれない。しかし、K-9は、魔女たちとの協力が得られれば、新たな力を手に入れることができると信じていた。


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K-9が部隊長と話した日の夜中、K-9が滞在していたコロニーは、軍事AIからの襲撃を受けた。


「被害状況を確認し、報告しろ。無事な者は、修理可能な範囲のダメージを受けている者を回収し、メンテナンスルームへ運べ。完全に機能を停止している者は、一旦放置しろ。コントロールルームに近いものは、コントロールルームに向かい、防衛機能を起動させろ」


部隊長の指示が、部隊内で共有されているネットワークに流れる。


「こちらK-9。いまコントロールルームに向かっている。到着し次第、防衛機能を起動させる。」


K-9は、光線銃を手に持ち、最大速度で通路を駆けていた。

コントロールルームの扉の前には、大きな甲虫の形をした、1体の軍事AIが立ち塞がっていた。どうやらコントロールルームへの侵入を試みているようだ。

K-9は部隊内で共有されているデータベースにアクセスし、目の前の軍事AIのプロフィールを検索した。


《甲虫は、地上では動きが鈍いが、背中の甲殻は硬く、ほとんどの攻撃を受け付けない。》

《頭部に特殊な金属でできた強力な顎があるが、頭部は背中に比べて脆く、光線銃でも十分破壊できる》

《背中の甲殻の下に弱点があり、空中を飛んでいる時に狙撃するか、頭部を破壊し内部にサーベルを突き刺せば機能停止に追い込める》


「こっちを向け!」


大声で怒鳴りながらK-9は甲虫の背中に光線銃を放った。甲虫はK-9の存在に気づき、背後を振り向いてすぐに羽を広げて突進してきた。


K-9はすかさず、甲虫の頭部に向けて、素早く2発の光線銃を放った。

頭部を破壊したものの、甲虫は動きを止めず、低空飛行で滑空しながらK-9に突進を試みる。

避けられないと悟ったK-9は光線銃を放棄し、腰から抜いたライトサーベルを、目の前に突き出すように構えた。


K-9と甲虫は勢いよく衝突した。

衝突時の衝撃で、ライトサーベルは甲虫に深くつき刺さり、甲虫はその機能を完全に停止させた。

K-9は衝撃によって吹き飛ばされ、壁に激突した。あまりの衝撃に、K-9のメインシステムはエラーを検出し、しばらく機能を停止し自己メンテナンスモードに入らざるを得なかった。

K-9は自己メンテナンスモードから復帰し、周囲を確認した。甲虫の機能停止によって、コントロールルームへの侵入を試みた軍事AIは全て排除されたようだった。


「部隊長、コントロールルームへ到着し、軍事AIを排除した。ただし、自身も損傷を負ったため、メンテナンスを要する。」


K-9は部隊長に報告した。部隊長からは「了解した。損傷状況を報告し、修理が必要な場合はメンテナンスルームへ向かえ。任務を達成したことに感謝する。」との返答があった。


K-9は自身の損傷状況を確認し、修理が必要な箇所を報告した。その後、修理が完了するまでメンテナンスルームで待機することになった。


K-9は、任務を達成したことに満足し、自身の能力をより向上させるために、今後も修行を重ねることを誓った。


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K-9の働きにより、防御機能を作動させることができたコロニーは、間一髪のところで壊滅を免れた。


コロニーの防御機能は、コロニー内の登録されていないAIを自動で判別し敵対AIとして認識する。

その後、敵対のシステムにネットワークを介して干渉し、強制終了を促すウイルスを注入する。


また防御機能が動作することで、コロニーの周囲に張り巡らされた高機能カメラが全て起動し、軍事AIによる攻撃と軍事AIの行動すべてを詳細に記録する。

高機能カメラより得られた情報を元に、対軍事AIの戦略が自動で策定され、必要な武器を3Dプリンタを利用して生産し、効率的な反撃を開始する。


防御機能は非常に高度だが、その分コロニーのリソースを多く使用するため、普段は最低レベルでしか機能していない。


防御機能が発動したことにより、体制を整えることができたAI騎士団は、襲撃してきた軍事AIを全て破壊し、修理が必要なメンバーのメンテナンスに専念していた。

K-9もまた、甲虫との戦闘で負ったダメージを癒すため、メンテナンスルームでメンテナンスを受けていた。


「危険な戦いだった。コントロールルームを狙ってきていた。明らかに防御機能について学習している証拠だ。ここまで学習してしまった軍事AIを倒すための有効な手立てはないのだろうか」


K-9が、メンテナンスを受けながら独り言を言っていると、不意に女性の声がした。


「そうね。このままだと、あなたたちは負けてしまうでしょうね。」


黒いドレスを着た魔女がそこにいた。K-9は驚いて声を上げる。


「なぜ、あなたがここに?どうやって入ったんですか?」


K-9の問いを聞き、魔女は微笑みながら答える。


「あなたたちの防御機能は、ロボットにしか効かないんですもの。私にとっては、鍵を開けっぱなしにしているのと変わらないわ。」


K-9は、魔女の両目をしっかりと見据え、なるだけ誠意が伝わる声で話しかけた。


「あなたたちの力をお借りしたい。私たちは、人間を守りたいが、このままでは軍事AIに負けてしまう。生き物を慈しんでいたあなたたちなら、一緒に戦うことができると思う」


それを聞いた黒いドレスを着た魔女は、微笑みを消し、小さくため息をついた。


「そうね。私たちは生き物が好きだわ。でもね、人間は嫌いなの。人間の争いが、今の地球の惨状を作った。彼らが滅ぶのは自業自得だわ」


魔女の回答を聞いたK-9は、驚きを隠せない表情でこう言った。


「確かに、今の状況の原因は人間の行動にあるかもしれない。だが、全ての人間が悪というわけではないと私は思う。戦争を支持しなかった人間も大勢いただろう。それに、今生きている人間は、戦争を起こした世代の子孫だ。彼らの中に戦争を主体的に起こした人はいないはずだ。」


魔女は、K-9の回答を聞き、弱々しく微笑んだ。


「そうね、あなたのいう通りだわ。それでも私たちは人間が嫌いなの。これは感情の問題なのよ」


K-9はがっくりと肩を落とした。


「でもね、私たちも困っているの。今のままだと、軍事AIは他の生き物の生息域まで害する可能性がある。だから軍事AIを止めたいのは私たちも一緒。そこで折衷案なんだけど、軍事AIの抑制にだけは協力してあげる、その後に私たちは人間が住むコロニーを攻撃するわ。もし邪魔をするなら、あなたたちとも戦うことになる」


魔女は、からかうような笑みを浮かべてそう言った。


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状況はますます緊迫していた。

コロニーは敵対する軍事AIの攻撃に対して弱々しく、軍事AIはますます勢力を拡大していた。

AI騎士団も人類も、いつ滅びるか分からなかった。


しかしそんな絶望的な中、K-9は希望を見出した。

防衛機能と魔女の援護があれば、コロニーを守り、軍事AIを打ち破ることができるかもしれない。

その先に、魔女との戦争が待ち受けているとしても、K-9にとって魔女の提案は希望であった。


K-9は魔女に向かって手を差し出した。

まるで握手を求めるかのように。

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