Revenge Fox Ⅹ

 次のニュースです。


 昨夜未明、都内の道路工事現場で停止誘導を無視して直進してきた車に交通誘導員の男性が撥ねられました。男性は背骨を折る重症を負いましたが命に別条はないということです。また車を運転していた五十代の男性の呼気から基準値を超えるアルコール濃度が検出され、警察は酒気帯び運転による過失運転致傷の疑いがあるとみて詳しく状況を調べている模様です。


 事故から数日後、ようやく一般病棟に移された俺は携帯電話で事故のニュースを見ていた。冷静で堅実な女性アナウンサーの声とともに雨中の工事現場が映し出されている。


 枕元にちょこんと腰を下ろした白狐がくつくつと忍び笑いを漏らした。


「なあ、あんた、忠告を素直に聞かねえからこういうザマになるんだぜ」


 俺は憮然とした表情で枕に乗せた頭をゆるゆると振る。


「じゃあ、事前にもっと分かりやすく説明しておいてくれよ」

「まあ、それだと面白味がねえからな」

 

 満足げに尻尾を揺する狐に俺は舌打ちをした。


「人の人生で楽しみやがって。俺の下半身は一生動かないらしいぞ。どうしてくれるんだよ」

「ふん、知るかよ。だいたい復讐なんて考える奴はそもそもその時点で人生半分終わってんだ。自業自得だろうが」


 その捨てゼリフに顔をしかめ、それからしばらくして俺は一番聞きたかった問いをさりげなく向けた。


「ところで佐々木美鈴はどうなったんだ」


 すると白狐はその俺の口調に合わせたように事も無げに答える。


「さあな、頭がイカれちまってるからな。この先の人生、仕事どころじゃねえのは確かだ。まあ、疑うなら誰かに尋ねてみな。電話する相手ぐらいはいるんだろう」


 そう云われて転職先を紹介してくれた上司が頭に浮かんだ。

 

 俺は携帯をベッドに伏せ、やるせなくひとつ大きなため息をつく。

 するとそれを見た狐が朗らかにほくそ笑んだ。


「おう、その後悔こそが復讐の代価だぜ。よく憶えておきなよ、あんた」


 苦い顔をして体を起こし窓の外に目線を向けると真夏を思わせる梅雨の晴れ間が広がっていた。俺はやるせない気持ちでその晴れやかな空をいつまでも眺め続けた。


 (了)

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リベンジフォックス 那智 風太郎 @edage1999

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