地球探索隊

人間感知できない不思議な空間。二人の何者かが、そこで会話をしている。


司令官「君がなぜここに呼ばれたのかはわかっているな。」

君と呼ばれた者「いや、わかってないっす。」

司令官「しらばっくれるな!おい、塩持ってこい、塩!」

君と呼ばれた者「マジすか?わーい、ごちそうじゃん!」

司令官「全く・・・これをやるから、本当のことを話せ。」

君と呼ばれた者「なんでも話しますよ。やったあ超うれしい。」

司令官「君のある行動が問題になっているのは知っているな。」

君と呼ばれた者「あれでしょ?困っている人間がいたから、直接脅して止めにいったことでしょ?いやーなんか勘違いをした人がいてさ、それで混乱してうるさすぎてクレームが来てたから、直接脅しにいったんすよ。うるせえって。世界平和のために仕方がないっしょ。」

司令官「私たちにとっては、君が脅しにいったことで益々わけがわからない事態になり、混乱を助長したとしか思えないのだが。何より、毎日のように響く、君の太鼓のような大音量の『うるせえ』という言葉。無理やり聞かされるこちらがどうにかなりそうだったよ。」

君と呼ばれた者「いや、だって本当にうるさかったんすもん。」

司令官「時間をかけて放置してれば勝手に解決した話だろうが!よりうるさくなったわ!」

君と呼ばれた者「塩うめえ。」

司令官「人の話を聞いているのか!・・・近頃は、人間が作った『呪い屋』と結託している者もいると聞く。そういう者たちを助長させないためにも、こういうことはもう無くしていきたいのだ。」

君と呼ばれた者「あ、結託してる一人自分っす。」

司令官「あっさり白状しやがった!え、そうなの?」

君と呼ばれた者「いやだって、つまんないし、実入りないっすもん、この仕事。自分たちのほうがずっと技術力も科学力もあるのに。それを証明するものが欲しいじゃないっすか。塩無料で貰えるし。」

司令官「気持ちは分からなくもない。だが、これは我々にとって禁止事項の一つのはずだ。」

君と呼ばれた者「いや、ちょっと脅かしたり、イライラさせたり、怖がらせたり、病ませたり、ちょっとおっかない夢を見せたり、その程度っすよ?それだって、困っている人がいるから助けることになるんだし。」

司令官「君は分かっていないようだ。」

司令官の周りに、画面のようなものが浮き上がる。

司令官「この星、地球は。我々にとって、やっと見つけた星なのだ。それは、君もよく知っているだろう。」

君と呼ばれた者「知ってますよ。散々習いましたもん。たしか、『肉体というものを持った生命体』が生息する星として貴重なんでしょ?」

司令官「そうだ。我々には肉体が無い。我々の祖先がずっと昔に、肉体というものを捨て去り、思念だけの存在として生存するという進化を遂げてから、無くなったと伝えられている。そうすることで、時間や距離という束縛する観念から自由になるためであると。」

君と呼ばれた者「宇宙は広いっすからね。肉体なんて持っていたら、移動出来ないっす。」

司令官「我々は、かつて自分たちに肉体があったという証拠のようなものをずっと探していた。そして、ついにこの地球という星で出会ったのだ。肉体を持つ生物に。」

君と呼ばれた者「あー、本当に塩ってうまいなあ。地球来てよかった。」

司令官「これは奇跡だ。我々は、さっそく地球を訪問した。そして、地球の隅々まで探索した。そして、この地球という肉体というものを持った生命体が生息する星を、保護することを決めたのだ。」

君と呼ばれた者「保護。まあ、ただ時々ヒントを与えて、見守るだけというか。」

司令官「そうだ。この星の経緯を見守ることは、我々の祖先がなぜ肉体を捨て去ったのか、その起源を探ることに繋がる。だから、この地球は保護され、守られなければならない星の一つなのだ。」

君と呼ばれた者「まあ、それはわかってるんすけど、暇なんすよね。見守るだけって、本当にすることないし。観光もやりきっちゃったし。」

司令官「それが出来ないものには、地球生物保護隊の隊員からは降りてもらうことになっている。君は、君の故郷の星に、帰りたいかね。」

君と呼ばれた者「いや、自分、地球好きっす。」

司令官「じゃあちゃんと保護隊の隊員として行く末を見守りなさい。」

君と呼ばれた者「いやー、でも時々自分たち、幽霊とか妖怪とか言われるじゃないっすかあ。そうしたら、怖がらせてあげなきゃダメなのかなって思いません?期待されてるっていうかあ。」

司令官「帰るかね。」

君と呼ばれた者「いや、我慢するっす。」

司令官「そうしてくれ。・・・君は、この地球という星は、最後どうなると思う?」

君と呼ばれた者「どうっすかねえ。なんか、段々気温が上がってるっていうし。人間っていう今一番繁殖している生命体は、いなくなるんじゃないですかね。そのあとは、寒暖差に強い肉体を持つ生命体が生き残るとか。」

司令官「あるいは、その前に精神だけで生きる生命体が誕生するか。」

君と呼ばれた者「司令官はそれを見たいんすね。ここに来る宇宙人の観光客も。珍しい生命体に遭いたいと。」

司令官「そういうことだから、今後はくれぐれも自分の行動に気を付けるように。査定にも響くぞ。」

去っていく司令官。地球から少し離れた宇宙空間にて、君と呼ばれた者は地球を見下ろしながら漂っている。

君と呼ばれた者「地球人は思わないだろうなあ、まさか自分たちが保護や観光の対象になってるなんて。気づく日はくるのかな?」





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短編こばなし @romancesk

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