世間を変えようとするんじゃなくて、まずは自分を変えろよ

@HasumiChouji

世間を変えようとするんじゃなくて、まずは自分を変えろよ

『高校生ぐらいのメスガキが駅前で環境保護を訴えてたんで、わからせてやりました』

『「親に言われなかったのか? 世の中を変えるなら、まず、自分を変えろ」って論破したら、こんな感じ』

 会社の夏休みに私用で上京したついでに、久し振りに大学の頃のサークル仲間に会う事になった。

 待ち合わせの喫茶店に行く途中に、その喫茶店の最寄り駅で起きた事を、ちょっと脚色してSNSに投稿した。

 もっとも、あまり可愛くない女子高生(男にモテねえから、1度しかない青春を環境保護運動なんかに浪費してるに違いない)の困惑したような顔は、AIを使ったWEBサービスで泣き顔に加工してからSNSにUPした。

 まぁ、感心出来ない事かも知れないが……今時、みんなやってる事だし、社会の鼻抓み者は、あのメスガキやその背後に居るサヨクどもだ。

 俺は、馬鹿な子供が「正義の暴走」を起しかけてるのを止めてやろうとしてるだけだ。


 しまった……。

 待ち合わせの場所はJRの駅より、地下鉄の駅の方が近かったらしい。

 とんでもない気温の中、下手したら1㎞以上歩いてしまったようだ。

 これから会う知り合いは……通称「サイヤ人」。

 大学の頃、整髪料付け過ぎた挙句に髪のセットに失敗して、「ドラゴンボール」のベジータみたいな髪型になっちまった事が有るのが渾名の由来……ってのは、表向き。

 本人が知らない本当の渾名の由来は「郎」。

 オタ系サークルには珍しい細マッチョのイケメンだったんだが……イケメンはイケメンでも、神経質そうな……いわゆる「爬虫類顔」。

 安いドラマや映画に出て来るサイコパス連続殺人鬼みたいな感じだったんで、陰でそう呼ばれていたのだ。

 本人に明かす訳にはいかないが……。


「ねえ、ここ、冷房効いてんの?」

「いや……丁度いい位の温度だと思うけど……」

 待ち合わせ場所の喫茶店は……今時めずらしい、レジで注文するんじゃなくて、店員さんが注文を聞きにくるタイプの店だった。

 もちろん、値段も高めだ……。

 でも、そんな店なのに、何故か空調はイマイチ。どうなってんだ?

「お客様、御注文は……?」

「じゃ、アイス・カフェラテ」

「はい……では、ミルクはオーツとアーモンドと豆乳のどれになさいますか?」

「えっ?」

「どうか、なさいましたか?」

「いや……普通の牛乳は無いの?」

「あ……申し訳ありません。最近は……

 多分、俺は……ポカ〜ンとした表情かおをしたんだろう。

「豆乳苦手だったよな……。じゃあ、アーモンド・ミルクがオススメかな……」

 「サイヤ人」が、そうフォローしてくれた。

「お……おい……どうなってんだ?」

 俺は、何から訊いていいのかすら判らないぐらい、頭が混乱していた。

「え……っとさ……言いにくいけど……」

「何?」

「お互い……三〇過ぎた、いい大人だろ」

 「サイヤ人」は急に変な事を言い出した。

「ほら……お前が大学の頃に好きだった漫画の決め台詞にも有っただろ……『世の中を変えるなら、まず、自分を変えろ』って……」

 何だ?

 何で……さっき、駅前で環境保護の街宣をやってたメスガキに言ったのと同じ台詞を……俺が言われなきゃいけないんだ?

「もう……地球温暖化は……止められないんだ……。世界の方を変えるのが無理な以上……俺達1人1人が変るしか無いだろ?」

 え……?

 何だよ、それ……?

 まるで……環境保護系のサヨクと、それに対するDisの……悪いとこどりのような……いや……待て……こいつ……昔から、いわゆる「爬虫類顔」だと思ってたけど……どうなってんだ……これ?

 店内を見渡す。

 他の客も……店員も……ほぼ全員が……。

「世間知らずの……環境保護活動でもやってるガキみたいに……?」

 ……奴は……ほとんど唇が無い口から先端が二股に分かれた極端に細長い舌を出しながら、そう言った。

「もし世間の方を変えたくてもさ……俺達、いい大人1人1人が……世間の為に自分を変えていきゃ……世間の方も自然と変ってくれるってもんだろ? 違うか?」

 奴の縦長の瞳は……じっと俺を凝視みつめていた。

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