第6 新たな戦場への予感
史上初の武装神による戦闘は王国側?勝利で幕を降ろした。ただ街の惨状を見てみるとお世辞にも勝利とは言えないかもしれない。
あれから俺は英樹と共に生存者の救助を行った。姫乃も比較的軽い打ち身程度だったようで救助の手伝いをしていた。
魔王軍の襲撃から四日が経った。その後いろいろと確認してみたがまずは街の状態。ほとんど壊滅に近い。それほど大きな街ではないが建物の八割以上が全壊または半壊していた。かろうじて無傷と言えるのは中心部から外れたところ、特に攻め込まれた側の反対側は損害が比較的軽微だったようだ。
次に資材系だが。俺はこの街の物を貰う予定だったのでこれにはかなり参っていた。初期の段階で倉庫が攻撃を受けた為、食糧や資材がほとんど燃えてしまったのだ。さらに燃料や鉱物資源等、武装神に必要な貴重な物が失われてしまっていた。まったくもったいない事だ。
それから犠牲者だが。領主、宰相、その他館に残っていたこの街を管理をしている者はほぼ全員が死亡していた。街の守備隊もほぼ全滅。生き残りもいるがほとんどが重傷者だった。これでは使い物にならない。戦車も破壊され武器庫も燃えてしまったようだ。
勇者だが八名いた五名死亡、一名逃亡。生存者は二名………俺も一応それだから三名か。
実質この街の守備力はゼロになったと言ってもいいだろう。
住人だがこちらも被害が大きく半数が死亡。残った半数が重傷者。さらに残った三分の二が軽傷者。無傷な者はごく少数になっていた。大部分の犠牲者が子供と老人だったのは言うまでもないだろう。食料も資源も無く労働者となる者も無くなった。(指導者も失ったがそれほど大きな問題でもない。)この状況から結論付けると街の復興は無理だろうな。
俺としては必要なデータも取れた事だし、もはや此処に留まる理由もない。
それが分かった時点でさっそく街を出るための準備を進めていた。俺が乗ってきたトレーラーに載せる必要がある物が多数あった。ぐずぐずしている暇はない。
俺が乗って来たトレーラーは五つの車両が連結していた。その見た目は汽車のような感じだった。
ただし汽車とは違い各それぞれが単独で動くこともできた。当然ながらバックも出来るし、さらには悪路でも走行出来るようにホバー機能も付いている。
一車両目は運転席と居住区になっていて風呂こそ無いがトイレやシャワーもある。食料や生活必需品もそれなりにあるので五、六人なら一ヶ月程度は普通に生活が出来た。水は循環式で汚水の九九パーセント再利用出来るのでほとんど困る事は無かった。
元の世界でホテルカーなどと謳って金持ちどもに売れば商売になったかもしれない。
二両目以降は主に荷物運搬用に使用していた。全長は約二十メートルなので武装神を載せる事も可能。トラックの荷台の様に屋根を付ける事も出来るが今は剥き出しの状態にしてある。セイバーを何時でも出せるようにしておくためだ。セイバー以降の三両目からは損傷したヒーラー、大破したファイターとアーチャー、最後は使用可能なゴブリンのパーツを乱雑に載せていた。時間が惜しいので、とりあえずは載せた感じだ。
そういえば破壊された武装神を回収するのには苦労した。何せ英樹も姫乃も嫌がってやらないのだ。死体を見るのが嫌だとか?まったく人間なんぞ死んだらただの肉塊にしか過ぎない。しかも殆ど潰されているので形なぞ分からんだろう。
俺は仕方なくセイバーで破損した武装神を回収した。
不要なコクピットブロックは排除しながら。(排出機能は壊れていたのでセイバーで引きちぎった。)その時ファイターの中から大量の血溜まりが出てきてそれを見た二人共吐いていたな。ま、死体なんぞその内慣れるだろう。その内嫌って言うほど見る事になるだろうからな。
それに英樹の奴は人を殺めた事で一時自暴自棄になりかけてたな。
姫乃が宥めていたようだが焼け石に水だった。
仕方ないので俺が
「凹んでいる暇があるなら手伝ってくれ。」
ヒーラーの修理や整備をさせた。
こういう場合は何か手を動かしていた方が忘れられると言うものだ。
俺としても早めに慣れてもらいたいところなのでな。
実験体が使い物にならなくなるのは困るし。
破壊された武装神の回収後は使えそうなパーツを選別後に洗浄しトレーラーに積んでおいた。
パーツを破損させないデリケートな作業だ。
回収する側(セイバー)の操作も丁寧さが必要になってくる。
ものを言うのは操縦テクニックだな。
作業をしている内に思ったのだが……やはり俺が一番上手くセイバーを扱えるんだ!
などと心の中で叫んでみる。
大まかな作業は俺一人でやったのでいささか疲れた。
そういやコクピットの中身をそのまま廃棄しようとしたら流石に姫乃に怒られたっけ。
仕方なく適当な場所に埋葬してやった。こっちの勇者とやらはくその役にもたたなかったが、攻めてきた方はデータを取るのに役にたったな。
そんなこんな作業をしていると、街では俺達の立場が面倒な事になっていた。
武装神……魔王軍が攻めて来たのは俺達のせいだと言う奴らが出てきたのだ。俺が原因だと言うのは間違い無いが。何せ呼び寄せたし。
丁度目の前に不満を抱えた市民が来ている。
「お前達何て事をしてくれたんだ。」
これで何人目いや何組目だったか。生き残りの中年男と後に続く数名の男女。
「この惨状を見ろ。」
住人の男が大声で喚きながら破壊された街を指した。
文句を言われているのは俺だ。
英樹はこういった輩の相手は無理だろう。ただひたすら責められて終わるような気がする。なのでここより離れた場所でセイバーの整備をさせている。
姫乃の場合は簡単に謝罪しそうなので負傷者の手当てでもしてもらっていてここにはいない。この手の奴らは下手に出るとすると付け上がる。こちらに非がなくてもだ。
仕方なく非常に面倒だが俺が相手をしてやっているのだ。と、言っても運搬作業の片手間だが。
「聞いているのか!」
中年男は怒号をあげた。相手をしてくれない俺に対して相当ご立腹のようだ。無視を決め込んでも良いが、こういった輩にはきちんと対処を行う必要がある。
はぁ。俺はため息をつき作業を止めて、男を真正面から見てやる。
「ああ聞いてやるとも。で、お前らは一体何が望みなんだ?」
謝罪はしない。してしまうと非があると認めてしまう事になるからな。なので意見だけは聞いてやる。
当然だが要求をしてきても何もしてやらない。
エスカレートするからだ。
故に初期の対応は非常に重要である。
「さあ、何だ?言えよ。」
俺はゆっくりと相手に近づき少し脅すような低い声で問いかける。
ここは下手に出ず相手に主導権を握らせない。
それに流石に何人も相手にしていて俺もうんざりしていたのもあった。
「せ、責任を取れ。」
俺を勇者だと認識している男達は警戒はしているようだ。
「責任だと?」
俺は眉をひそめて問い返す。
「街がこんなになったのはお前達のせいだ。」
「そうだ!そうだ!」
周りの住人どもも合わせて同意する。一人では何も出来ないくせに徒党を組むと強くなる愚民どもた。
俺は再びため息をつき
「俺達のせいではないだろ?そこに転がっている奴らがこんな風にしたんじゃないか?」
親指でセイバーによって破壊されたゴブリンの残骸を指した。
「そうかも知れないが、お前達がそんな物をこの街に持ち込んだからだろう。」
男はトレーラーに乗っているセイバー以下の武装神を指した。まあ、お前達ではなく俺だがな。
「ああ、運んだな。」
「やっぱりだ。やっぱりこいつが運んだんだ。」
俺の答えに嬉々として大声で叫ぶ男。
クレーマーとはどうしてこうも声がでかいのか。
「依頼でな。文句なら領主に言ってくれ。」
俺は軽くため息をつき、もはや動く事の無い布に包まれた肉塊を指した。
それを見て引く住人ども。
「だ、だけど持って来たのはお前だろう?」
「だから?」
表情を変えずに淡々と返す俺。
「責任を取れって言っているんだ。」
「運んだだけだ。」
「運んで来なければこのような事が起こらなかったんだ。」
「う、うるさい!とにかく責任を取れ。」
もはや押し問答である。
筋も何もあったものではない。もはやただ感情に身を任せているだけだな。
三度俺はため息をつき、
「どうしたいんだ?俺をリンチにでもかけたいのか?」
少し低くさらに目を細めて男に近づいた。男達は後退る。念のため帯刀はしている。ちなみに俺は剣はもちろん魔法もほとんど使えないので勇者としては使い物にならなかった。
だがそれでもこの世界で勇者は驚異とされている。
「俺もただ殺られる訳にはいかないのでな。どうしてもと言うのであれば、そこに転がっている数が増えるだけだが。」
俺はわある死体置き場に目を向けた。
輩達は全員が顔を青ざめ声を失った。
「どうするんだ?ん?」
俺は腰の剣に手をかける。
「くそっ。みんな行くぞ。」
俺の脅しに屈したのか文句を言いに来た住人達はすごすごと帰っていった。
まったく情けない奴らだ。
このようなやり取りを襲撃後からもう数回やっている。情報の共有ぐらいしておけ。横に繋がりは無いのかこいつらは。作業が捗らんだろ。
ようやく破壊された武装神の回収が済んで必要部品の仕分けがあって忙しいのに。
それに早めにこの街を出る必要がある。
俺は英樹と姫乃をこの場に呼んだ。
「え?この街を出るんですか?」
突然の俺の申し出に姫乃は驚いたようだ。
英樹も驚いてはいるようだが特に何も言わない。
「ああ、明日には此処をたつ。」
俺は荷造りを行いながら二人に話をしていた。
「ずいぶんと急な話ね。でもどうして?」
「急ではない。ここには来た目的は武装神の起動テストが目的だからな。それが果たせた以上ここに留まる理由はない。次は一刻も早くこいつと先程の戦闘データを南の港町に届けるという依頼がある。その後は中央の首都に向かう予定だ。」
俺はセイバーを指した。データについてはまだ十分とは言えない。もう一戦は欲しいところだ。それの手筈は取ってある。
「君らはどうする?ここに残るか?俺と一緒に行くか?」
一応本人達の希望を聞いておく。強制は良くないし自分達から進んで来てもらった方が良い。
「えっ、どうしよう。」
姫乃は迷っているようで英樹の顔を見た。英樹の意見を聞いてから決めたいのだろうか。
「俺は、」
「俺は創麻さんと行きます!」
英樹の方は迷っていないようだ。最初会った時とは違いその目には光が宿っているように見えた。
先ほどの戦闘で少しは彼を成長させたのだろうか。
「で、姫乃…君はどうする?」
俺は姫乃に答えを求める。
「どうするって言われても……。」
姫乃は明らかに困惑した表情を見せた。そして、
「そんなに急ぐ事なの?まだこの街の皆を助けて無いし、怪我人の治療とかもあるし。」
姫乃は周りの怪我人の方を見る。
皆を、ね。それに対して俺は
「皆を助けるのは難しいだろうな。何せ時間が経ちすぎている。」
災害救助の猶予時間である七十二時間は既に経過していた。恐らく姫乃も気付いているので無言ままだ。
俺は更に続け
「ここにいても出来る事は限られているぞ。何せ薬や食料などの物資が不足している。」
災害などが起こった時は人命救助が終わると次は明らかな物資不足に悩まされる。
特に食料問題は大きい。しかもこの街の食料は先の戦闘で燃えてしまっている。さらにこれから寒い冬になるので新たに手に入れるのは困難だった。
近くの街や村に援助を求めるのだが、今のところまともに動けるのは俺達ぐらいだった。
ただし仮に求めに行ったとしてどの街や村も重税のため苦しいので直ぐに援助を受けられるか分からないのだが。
となるとどうなるか。只でさえ冷静な考えが出来ない連中の集まりだ。次は残っている物を巡って争い、略奪が始まるだろう。
先程来た奴等を含め住人どもも冷静なら言い掛りを付けるよりも俺達に援助を求めに行くように依頼したはずだが。
俺のトレーラーにはある程度の食料や薬さらに生活必需品は備蓄しておいてある。
下手をするとそれをも狙ってくる可能性もある。
くだらん面倒事に巻き込まれるのは遠慮したい。
また姫乃にそれを教えると、少し分けてあげたら?とかほざくかもしれない。
俺は他人の為に身を犠牲にする気は更々ない。そんなものは美徳でも何でもない承認欲求の塊か、ただの自己満足だ。
下手に分けると他の奴らが大挙して押し寄せた挙げ句略奪されるのが目に見えている。
自身を第一に守れないのは無能な奴がやる事だ。
こういうやつを納得させる理由はある。
「それにな、ここに留まっているとまた襲撃される可能性が高い。」
俺は街の方を見る。
「じゃあ、尚更街の人達を守らないと。」
姫乃の返しに俺はすかさず
「この街をまた戦場にしたいのか?」
「え?」
俺は怪我が大勢いる場所を見る。そこは建物も無く簡易的に布のテントのような物が幾つもあるだけの場所。
「敵を逃がしたからな。戦力を整えて戻ってくるだろうな。そうすれば確実に戦闘になる。」
俺は英樹の方を見る。ややうつむき加減にになる英樹。責めているつもりは無いが責任は感じているのかも知れない。もう少し気を強く持って言い返して欲しい所だがやはり性格は簡単には変わらんか。もう何度か戦勝を重ねてやる必要があるな。
「責めても仕方ないが、おそらくこちらの状況は通達済みだろう。」
英樹は無言で下を向く。やはり責を感じているようだ。
「ま、同じ失敗をしなけりゃいいのさ。次に繋げれば、な。」
皆まで言わなかったが英樹は無言で頷いた。
「今後に襲ってくる敵の狙いは俺達と考えて先ず間違い無いだろうな。君が残るなら止めはしないが、敵に捕まったら色々聞かれるだろうと考えると得策では無いだろうがな。」
姫乃も俺の答えを聞いてしぶしぶ納得したようだった。かくして三人で出発する事が決定したのだった。
戦闘後五日目の朝、俺達は準備を終えトレーラーに乗り込んだ。そして街を出るために中央の広場に入りかかった時、住民がわらわらと出てきた。
「お前達ここから出ていくつもりか?」
先程文句をつけにきた奴らだ。
「ああ、ここに居ても仕方ないからな。」
俺はトレーラーの運転席から顔を出す。二人には顔を出すなと予め伝えてある。
「俺達を見捨てるのか?」
つい先日までは出ていけみたいな雰囲気を出していたくせに、いざ行動をすれば文句を言う。
まったく持って自己中心的な奴らだ。
「ちゃんと責任を取れ。」
「そうだ。そうだ。」
だから責任てなんだよ。呆れて物も言えなくなる、が
「おいおい、相手はこいつが危険なのを知っているんだぜ。となると当然捕獲又は破壊しようとするだろ?」
俺はセイバーを指しながら言った。
その答えに一同は顔を見合わせる。
「俺が奴らなら再度破壊しに来るだろうな。」
意味が分かった人間が数人いるようだ。そいつらの顔から血の気が引いていく。
「また、この街が戦場になるだろうな。」
俺はその場にいる全員に聞こえる声で言ってやる。
一気に言葉を失う奴ら。
「だから!責任を持って出ていくんだよ。俺達が囮になってな!」
俺は語尾を強めて睨み付けた。
住民達は俺の威圧感に押されてか後退りをする。
「ここに残って迎え撃っても良いが今度は何人生き残れるかな?もしかしたら全滅かもな!」
俺は視線を崩壊した街の方を見る。
「この疫病神め!」
「この街から早く出ていけ!」
「そうだ。そうだ。」
清々しいまでの罵声が飛んでくる。
「だ、そうだ。行くとするか。」
俺は気にも止める事無く中にいる今のやり取りを聞いて無言の二人に声をかけるとトレーラーを進めた。
街の入口付近に来た時だった。
何か城門近くが騒がしい。人だかりが出来ている。その中心で誰か叫んでいるようだ。
俺達はトレーラーを一端止めてその様子を見に行く事にした。
「頼む!誰か、誰か助けてくれよ。」
人だかりを掻き分けて行くと若い(おそらく十代前半だろうか)男が助けを求めていた。少年と言うべきか。
「何の騒ぎ?」
後ろに付いてきた姫乃が俺の横から顔を出した。英樹も様子を見ている。
「さあな、だが只事ではなさそうだ。かなり急いで来たのか馬も相当疲れているようだ。」
俺は顎で少年が乗ってきたであろう、へばっている馬を指した。
「なあ、ここには勇者様がいるんだろ、助けてくれよ。」
少年が「勇者」の言葉を出した瞬間、その場にいた住人達が一斉にこちらに目を向けた。少年は住民達が向けた視線の先に気づいたのか住民を掻き分けて俺達の方にやってきた。
「な、何かやな予感するんだけど…。」
姫乃がすかさず俺の影に隠れる。俺を盾にするんじゃない。
「あんた達が勇者か?」
少年は大きな声で俺達に詰め寄ってきた。
近くで見ると中々の美少年である。声を聞かなければ少女に見えていたかも知れない。
「……」
「え?ええ。」
俺は無言で対応し姫乃は戸惑いながらも肯定した。その答えに少年は一瞬戸惑いを見せたが、いきなり俺の胸ぐらを掴むと
「頼む!俺達の村を助けてくれ!」
その口調から相当切羽詰まっているようだ。
「村がどうかしたのか。」
今まで後ろで様子を見ていた英樹が少年に聞いた。
少年は俺の胸ぐらを強い力で握っている。正直痛い。
「少し落ち着け。」
俺はそれを払いのけ、
「話してみろ。」
事情は知っているが面倒臭いといった態度を見せた。
「俺の、」
彼は一度息を飲み込むと
「俺の村に魔王軍の鬼みたいな巨人が襲ってきたんだ。」
それを聞いて辺りにどよめきが広がる。
当然な反応だ。つい先日この街もその巨人(武装神)に襲われている。
「魔王軍の鬼みたいな巨人。」
英樹と姫乃はトレーラーの武装神をみる。
少年も二人に釣られて視線の先を見た。
「こ、これはこの巨人は!?」
少年は驚愕した。やはり見覚えがあるようだ。
「あんたら魔王軍の配下なのか?!」
まあ、そうなるか。ゴブリンを回収したから余計にな。
「聞いて、違うの。私達は。」
「俺達は王国側の人間だ。それにあれは王国軍の物なんだ。」
姫乃と英樹は必死に否定した。さらに今までの事を説明し始めた。暫くして、
「そんな、いきなり言われても、信用出来ねえよ。」
少年は困惑しているようだった。
「話が無いなら俺達はもう行きたいんだが?次の予定があるしな。」
俺は立ち去る振りをする。そして相手を焚き付ける一言、
「村が大変なのだろう?」
少年は我に返ったようで、
「そうだ。あんたら助けてくれよ。その巨人で敵の巨人を倒してくれ。出来るんだろ。」
破壊されたゴブリンを指した。
英樹と姫乃は俺の方を見る。おそらく俺の意見を待っているのだろう。
さてどうするか、確かに俺が一番の年長者でありこの世界で生きてきた時間も長い。
二人はこの後の行動に迷っているのかもしれない。
俺が二人の立場ならこいつは見捨てるだろう。
明らかに罠の可能性が高いからだ。
ただしこれはあくまで仕組まれていない場合だ。
何故ならば今回も村を襲わせたのは俺の指示だからである。
当然目的はセイバーのデータを取る為である。
それ以外にも英樹や姫乃がどのような行動を起こすか見てみたい。
どのような作戦をたてるのか。
待ち伏せしている敵に対しての対処は。
戦闘時における状況判断の早さや臨機応変に対応出来るか。
可能な限り二人で決めてもらいたいものだ。
おそらく二人はこの少年の村を助けたいと言いだすに違いない。
答えは出ているだろうが一応念のため聞いておくか。
「二人とも少し話がある。」
少年をその場に残し少し距離を置くと
「お前ら、まさかとは思うが助けるとか言わないよな?」
俺は答えが分かっている事を聞いた。
「もちろん助けに行きたいわよ。ね?英樹。」
姫乃は英樹に同調を求めた。
「ああ、俺も…出来るなら助けたい。」
力強い口調で答える英樹。
英樹の表情を見ると同調ではなく自身の気持ちから答えを出しているようだった。初見からとは違う感じがする。先の戦闘で少しは変わったのだろうか。
「そうか。俺は反対だが…。」
俺の答えに二人の顔が曇る。
「行くのなら少しだけ彼に確認したい事がある。」
俺の答えに二人は驚いた表情で互いに顔を合わせた。
「ん?どうした?」
俺は二人に問いかける。
「いや、あまりにもあっさりと…」
「うん、私も絶対に駄目だろうと思ったから。」
まあ、そう思うだろうな。だがここで行かなければ戦闘データがとれない。
「本音を言えば行かない方がいい。俺は一刻も早く港町にこいつを届けたいからな。」
二人が理由を聞きたそうな顔をしていたので、
「民主主義だと多数決で負けだからな。」
適当な事を言っておく。当然ながら現状でそんなものは毛頭無いが。
「届けるだけなら別行動すればいいんじゃない?」
姫乃は納得していないらしい。感が鋭いやつだ。
「別行動したいのか?まさかとは思うが生身で武装神と戦うのか?」
こいつらの代わりはいくらでもいるが操縦者をまた一から探すのは手間がかかる。まだ傾向も見れていないしな。
「全部届けないといけないの?」
姫乃はヒーラー指して続ける。
「ヒーラー貸してもらえたら時間稼ぎぐらいなら何とかするから。」
姫乃は少し笑顔を混ぜて言う。なかなかに肝の座った事を言う。先程の戦いを忘れた訳では無いだろう。
「時間稼ぎ?」
それを聞いていた英樹は顔が青ざめた。
「いやいや無理でしょ。」
首が捥げるくらい横に振る英樹。考えなくても分かるだろうな。
「相手の戦力も分からないし、何より壊れているじゃないか。」
英樹は続けた。
「そうだな、俺もその点は英樹に同意する。それに今は借してやる気もない。」
そこははっきりさせておかないとな。
「そうよね。これは創麻の物だし。」
姫乃は肩を落としながらヒーラーを見た。
「今はと言ったんだ。この状態ではまともに戦う事は出来ん。」
俺も姫乃と同じ所に視線を写す。
「大切な仲間を死にに行くような場所へわざわざ送り出したくないしな。」
我ながら臭い台詞を吐いたものだ。気分が悪くなってきた。正確には貴重なサンプルだ。まだデータをとっておきたい。
姫乃は俺の言葉に驚いたのか呆気にとられた表情をしていた。
「?なんだ、何か言いたそうだが?」
姫乃があまりにも間の抜けた顔をしていたので聞いてしまった。
「そ、そうなんだ…。」
それだけ言うと視線をそらされてしまった。
こいつが何を考えているかよく分からん。
「仕方がない、やはり俺も行く事にする。武装神付きでな。」
元々そのつもりだかそこは振りをする。
「なあ、どうなんだ?助けてくれるのかよ?」
俺達のやり取りに少年が焦っているといった態度で声をかけてきた。
「ああ、悪かったな。」
少年は流石にやきもきしたか。俺は一応宥めておく。
「話はまとまった。君の村へ行くよ。」
少年に気を使ったのか英樹が力強く返した。
まあ別にいいが、それよりもだ、
「まて、そう慌てるな。」
「出発の前に幾つか質問がある。それに答えてからだな。」
急いで出発しようとしている三人を俺は引き止めた。
「え?急いでいるんでしょ?」
姫乃が不満を漏らしたが相手にする気はない。
俺は事情を粗方知っているが二人は何も知らないからだ。
事前に情報があるので俺が指示すれば楽に対応できるだろう。
だがそれでは本来欲しているデータを取ることは出来ないだろう。
武装神の性能は基より、こいつらのパイロットとして
、いや戦士としてどの様に成長をするか見ておきたい。
なので教育によろしくない行動は控えるつもりてある。
最初は色々とお膳立てをしてやるが、あとは自分達で考えて貰うのが良い記録が録れると言うものだ。
「助けに行くにしても情報が不足している。先ずは色々と確認してからだ。相手の戦力も把握しておく必要もあるだろ?」
俺は焦る二人に説明をする。
「先ずは自己紹介からだ。俺は創麻、こっちは英樹と姫乃だ。」
各々を指す。こういうのは大事だろう。仕事なら名刺交換してたかもな。
更に言うなら人に名前を聞くときは自分から名乗るのが基本的な礼儀だ。
で?と聞く前に
「俺はリョウガ、だ。」
少年は俺を睨み付けながら言った。どうやら気に入られてはいないらしい。
「よろしくな、リョウガ。まずは逃げて来たのは君だけか?」
彼は無言で頷く。俺はそのまま質問を続けた。
「それで敵はどれだけいたんだ?」
「えっと…確か三人?三体だったはず。」
「三機か…他には居なかったか?あと特徴は?」
「特徴は鬼みたいだったその上に乗っている奴にそっくりだ。」
リョウガはトレーラーに搭載されている壊れたゴブリンを指差した。
「似ていた、か。他に何か違う所は無かったか?大きさとか色とかな?」
俺は更に質問を続ける。
「大きさは同じぐらいかな、色は赤と青と緑だった。」
「なるほど、それで何か目立つ特徴…姿形はどうだった?」
「緑はそれにかなり似ていたが、赤はやや太かった。青は逆に痩せていたかも。」
大きさが同じと言うことならゴブリンだろう。
性質だが赤はパワー型、青はスピードタイプ、緑は標準型だ。なかなかバランスの取れた部隊構成だな。
ゴブリンと言う機体だが汎用性が利きやすくカスタムもし易い。乗り手によって様々な対応出来るのが特徴共言えた。
後生産も早くコストも安いのも○だ。
俺は魔王軍のトップだが攻めてる部隊の詳細を知らないのには理由がある。
ある程度指示は出すがそれは単に「あの街を攻めろ、落とせ」ぐらいのもので
どのような攻撃をするかは知らなかった。
重要な所以外は基本的に部下に一任してあるのだ。
様は社長がいて仕事の決定は中間管理職、実働は末端の構成員なのでメンバーの事は知らなかった。
その中間管理職と言うのもほとんどが関わっていなかったので軍で俺の事を知っている者は居なかった。
(命令だけなら顔を合わさなくても言伝だけで良いからだ。)
まぁこれが軍隊の規律や統率が乱れている原因でもあるが、少しこちらも流れが乗ってきたら修正するか。
開発となると他の事を疎かにしてしまう俺の悪い癖(笑)。
それはさておき俺は引き続き相手の情報を引き出す。
「そいつらが持っていた武器とかは分かるか?」
「覚えている、何となくだけど感じだけなら。」
リョウガは少し自信が無さげだったが構わないと俺が伝えると話始めた。
赤は棍棒のような物と斧、青は短剣を二本と銃らしき物、緑は剣と盾とボウガンを背負っていたらしい。
「そうか。分かった。リョウガなかなか良く観察してきたな。」
俺は情報をもってきたリョウガを誉め讃えた。
それにしてもこのリョウガと言う少年はなかなか興味深い。武装神を見るの初めてらしいが良く特徴をつかんている。もしかしたら優秀な手駒になるかもしれない。
今回俺が指示したのは
一、俺達を誘き寄せる為に村を占拠する。
二、村を餌に森戻しにきた武装神と戦闘を行う事。
向こうは俺の意図を知らないので、二については本気でかかってくるだろう。
相手の腕前は分からないが、セイバーが破壊されるのは流石に避けたいが中途半端では良いデータも録れない。
単に勝つための情報をとるなら少し時間があれば直に調べて英樹達に教える事は出来る。
ただ情報の出所とか聞かれると理由を考えるのが面倒だから止めとく。
他にも確認しておく事かあるので再度質問をする。
「他に車両や兵士とかはいなかったか?」
「いや見たのは巨人だけだった。」
「三人だけ?」
「多分……。」
リョウガはやや自信が無いのか声が小さくなった。
「ずいぶん少ないんだな。」
英樹が疑問に思ったようだ。
「何かされたのか?例えば破壊や略奪的な?」
俺に代わり英樹が横から口を挟む。
「いや、盗られたものは特にないけど…水と食べ物ぐらいかな。」
「食べ物はかなりの量か?村にあるもの全部とか?」
「いや、食べ物その日の分ぐらいで多くは無かったみたいだ。水もそんな感じだったよ。」
リョウガは思い返すように答えた。
「目的は何なんだろな。」
英樹は不思議に思っているようだった。
「そいつらが村に現れたのはいつ頃?」
「確か二日前だったはず…。」
「その間何をしていた?村人に暴力を振るとか無かったか?」
「特に何も無かった。」
「何もされていないのか?」
「そう言えば、家を幾つか壊していた。」
「幾つか?全てではなくてか?」
「うん、何か選んで壊していたみたいだった。」
リョウガは俺の問いに首を傾げながら答える。
彼も疑問に思ってはいるようだ。家を壊す理由が気になるな。
「急いで助けを来たみたいだったが、今の話からするとそんなに大きな問題があるように見えないが…な。」
「そうなんだけど、あいつら急に態度変えて村人を一ヶ所に集めて明日には村を焼き払うって言い出したんだ。」
リョウガは急に声が大きくなった。
「まあ落ち着けで、君は何でここに来れたんだ?」
少し揺さぶりをかけてみるか。
「いや、あいつらが村の皆に話をして気を取られている隙に……。」
「それで見付からず運良く逃げてこれた……と。」
リョウガは俺の問いやや不満を表し肯定した。
「なんだよ!何か疑っているのかよ?」
リョウガはさらに不機嫌な表情を見せる。
「いや、焦る気持ちも分かるが少しだけ待っていてくれるか?……英樹、姫乃、ちょっとこっちへ。」
俺はそこまで聞くとリョウガを残し英樹、姫乃と共に少しその場を離れた。
「どう思う?」
俺は二人に聞いた。
「どうって早く助けに行かないと、明日村を焼き払われちゃうんでしょ?」
急かす姫乃。
「同感。俺も早く助けに行くべきだと思う。」
英樹も同じ意見のようだ。
二人の答えを聞き俺は肩を落とした。
「ふぅ、あのな……。」
ため息をつき続ける。
「俺は百パーセント罠だとみるが。」
二人は首を傾げてなぜ?みたいな表情を見せた。
全く平和ボケした日本人はこれだ。
「いいか?まず敵の目的……村へ来た理由はなんだ?」
俺は姫乃に聞く。
「え?それは占領とか?」
間の抜けた返しをしてくる。
「占領するなら歩兵が必要だと思うが?略奪にしてもそうだ。いくら武装神と言えども人間と比較したら相手は小さ過ぎる。そんな小さい者を殺さずに何とかするのは難しいと思うが。ましてや動いているんだぜ、出来ると思うか?」
俺が英樹の方に目をやると彼は首を横に振った。
皆殺しにするなら場合なら話は別だかな。
「ただ略奪目的では無いと思う。」
英樹も先程のリョウガの話から思う所があったようだ。
「どうして?」
姫乃は一人分かっていないらしい。
「略奪が目的なら脅せば一日と、かからないんじゃないかな。二日もあって最低限の水と食料だけっておかしいかなって。」
英樹が説明してやっていた。
「それに隙をついて逃げ出した、と言っていたが簡単に逃げられるなら一人だけと言うのも引っ掛かる。」
俺は二人に問いかける。
「それは分からないじゃない?もしかして油断していたかも知れないし。」
「それについては何とも言えないかな。村を占拠したのも武装神だけみたいだから小さな子供一人見逃してしまったかも。」
姫乃と英樹は交互に言う。
「武装神には生体反応装置、赤外線センサーが付いているんだぜ。見付からずに逃げられる事は難しいだろうな。」
これは災害時に行方不明者を見付けるために取り付けた物だ。事実、先の戦いでこの街が破壊され行方不明者や救助者を見付けるのにも役に立っている。
「それに今まで何もしなかったのに急に態度を豹変させて村を焼き払うと言い出したのも怪しい。」
俺は英樹を見る。考えを聞くためだ。
「じゃあ何のために彼だけ逃がしたんだ?」
英樹は分かっていないようなので
「釣りをするには餌が必要だろ?」
俺は少し離れたリョウガを見た。
獲物を呼び寄せる撒餌さは村人で釣るために引寄せる餌はリョウガと言ったところか。
「ちょっと待ってくれよ、もしかしたら彼も相手のグルかも知れないってことか?」
英樹は驚きながらリョウガを指した。
「それは分からん。」
もしかしたら大切な人を人質に取られて言うことを聞かされているのかも知れないし、本当にたまたま逃げて来たのかもしれない。
「やっぱり罠って事?」
姫乃は不安そうな表情を俺に見せた。
「どちらにしても待ち伏せぐらいはしているだろうな。下手したら至るところに罠を仕掛けているかも知れない。」
俺は英樹と姫乃を見た。
「俺は……」
「俺はそれでもリョウガの村を救いたい。」
英樹は力強く答えた。
姫乃も無言で頷いた。
「分かった。仕方ない行くとするか。」
俺はしぶしぶ折れたような演技をする。
俺達の意見がまとまったと言う事で英樹と姫乃を連れてリョウガの元へ戻った。
「話は済んだのかよ?」
待たされた事で不機嫌なリョウガ。
「ああ、君の村へ行くよ。」
英樹が力強く返した。
これから戦闘になる緊張の二人に対し、どの様なデータが録れるか期待に俺は少しだけ心を踊らせていた。
これで出発が出来ると俺達がいざ東の村へ出発しようとした時、街につながる別の道から激しい機械音と共に何かがやってきた。
武装戦記ラグナロク 錬金術師の魔王 東洋企画 @s-mathuri
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