「猫の人形」

低迷アクション

第1話

人形文化は世界中にある。それらに求められるモノ殆どが“癒し”と思うが、特異な事例がある事も否めない。


“L”の家に“猫の人形”がやってきた。母がフリーマーケットで購入した人形は

アジア圏の山岳民族が作ったモノとの事。現地ではお守りとして、家に置かれると言う。単純なデザインと、作りでどうにか猫とわかるが、


日本の人形の方が、可愛いと思う。近所は野良猫が多い。庭先に来る彼等に、母親は餌を上げるのが趣味、購入した理由も察せられた。


居間に置かれた人形は、元からあったモノのように馴染んでいく。問題がわかったのは…


「これ、マタタビでも入ってるのかね?やたらと絡むのよ。猫が…」


母親が朝食時に、ぼやいた事でだ。


聞けば、野良猫が、この猫の人形目当てで居間に上がってくると言う。餌をあげてはいるが、室内に上がり込んでくるのはいなかった。今までは…


確かに、家の中は動物の毛が増えた気がしていたし、猫の足跡のようなモノも

チラホラあった。


人形を見る。外の生地が引っ掻かれ、中身が少し見えている。綿と粒に加えて、動物の髪のようなモノがのぞいていた。


気味が悪くなり、母親には人形を片付けるよう声をかけ、家は施錠を心がけた。


その数日後…


「ちょっとLさんとこの息子さん?おたくの庭、マネキンみたいなの置いてる?」


隣家の住人から苦情が来た。


彼女の話によると、窓から、Lの家の庭が見えるらしいが、そこに時折、女性の髪が

なびくと言う。


「垣根越しだから、よく見えないけど、長い髪…Lさんとこの家の人かと思ったけど、違うわよね?日中、ずーっとよ?多分、夜も…姿は見えないの。髪の毛だけ…まるで、家の壁から生えてるみたいに、ゆらゆら揺れて、獲物を探すイソギンチャクみたい。気味が悪いわ」


適当に答え、中に入った。


隣から見える庭の壁側は、押し入れのスペース…ウチでモノを仕舞う場所はここしかない。前に立つと、襖を勢いよく開ける。


衣装棚に置かれていた猫の人形は以前のまま…しかし、そのほつれた顔を見ている内に思い出す事があった。


何かの本で、物資が乏しい山岳地帯では、鼠等の小動物は貴重な食糧を食べる天敵だが、それを獲る猫も、同様の害獣と見る程、貧しい地域がある事を…


(この猫に見立てた人形は愛玩ではなく、別の意味があるのではないか?)


考えた末に、親には内緒で人形をゴミに出すと、苦情は止んだ。同時に、Lの近所で猫を見かける事は、もう無くなった…(終)

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「猫の人形」 低迷アクション @0516001a

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