吉田誠治 吉田誠治作品集 パース徹底テクニック
パース、という言葉をご存知でしょうか。私は知らなかったのですが、「遠近感のある絵を描くための理論」のことらしいです。例えば正六面体(サイコロ)を上方斜めから見た図。その描かれたものは奥に行けば行くほど縮小して見えて、どこまでも描くならば、側面や上方を構成している線は一ヶ所のところに集中する。最終的に、消失点というところで交わって点になる……ような、奥行きを表す手法。
もっと単純にいえば、どう立体的に描くか、の方法論。
この作品集で、「パース徹底テクニック」という描き方を伝授されてるほどなのだから、吉田誠治さんの絵は、よほどに奥行きがあり立体的なのです。
突然ですが、風景画、好きですか? 建造物や自然の、美。本来、背景として描かれる部分の、主題化。
この本に載せられたイラスト群は、それぞれに人物は描かれている。その後ろに展開される風景の圧倒的な存在感。写実的というわけではない。あくまでも、まんま、イラスト、らしい描かれかたをした絵だ。しかし、その、重さを持ち、線がそのものの形の実在性をあらわしている、精緻さ。
パースを駆使されて描かれた、とても素人からは意識して描いたのだとは思えない、震えがくるほどの膨大な情報量。複雑さの中の秩序。とんでもなく入り組んだ一筆書きというのが脳内でその筆跡を辿れないように、計算されて描かれてあるはずなのに、それが故に? そのカラクリは見抜けないのだ。
また、例えばあなたの本棚を見てみてほしい。背の高いのから低いのまで、その背表紙の長さによってきれいに並べてるとして。その秩序だった整理の仕方は、見ると脳に心地よい……。
吉田誠治さんの絵にはその、心地よさがある。乱雑なものを描いているように見えようと、そこに練り込まれた構成の美を感じる。
「空間演出力」のセンスの良さだ。
これで、ところどころ「それっぽく描いて」適度に力を抜いている、と言われてるのだから、驚く。ガチガチに描かないのが、かえっていいのだろうか。
パース、を自在に扱えれば、絵はあらゆる方向から見たその姿を描ける、ようだ。視点を駆使した吉田誠治さんのイラストに込められた、迫力と深遠さは、間違いなく、「アート」、だと思う。
(推しの絵)
p10-11
階段文庫
ある長い階段の設られた、日本家屋の立ち並ぶ町の一角。ざっと並べられた本が収められた背の低い棚がいくつも立てられてある。古本市だろうか? おしゃれで垢抜けた服装の女性が、そこに足を踏み入れて、何かを感じたのか、ふと後ろを振り返ってこちらを見ている。
本は好きだから本をモチーフにしている絵は目がいく。でも、こんなに気持ちよく整った町の通りの秩序と無秩序のせめぎ合う構図。本来、宇宙の法則に従った人為でない、太陽と木々の織りなす光と影すらも、なんとなくで取り入れられたのではない。空間の美の要素として意味を持って描かれたのだ。「完璧」な、という言葉が頭に浮かぶ。
複製画でいいから、あったら、部屋に飾りたい。
画集、百景2023 アリサカ・ユキ @siomi
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