中編




 昼休みに起きた幼馴染からの衝撃告白を経て、放課後。


 俺はサッカー部へと足を運んだ。俺自身が入部している訳じゃない。件の…あの女が付き合っていると宣う、俺の親友が所属している部活だからだ。


 万年帰宅部ではあるが、1年時に各部活で助っ人をしていた事から色々な部に顔が効く。


 突然訪れ、誰々に要件があるから少し貸してほしいという唐突な要求も特に不思議がられずに受け入れられ、俺は引き摺るように校舎裏へ、親友…宮嶋 傑を連れてきた。


「一体、どうしたんだ?」


「どうした、じゃ…ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」


 俺の口から校舎の外壁へ震わせるような怒号が放たれる。

 傑は突然の大声に耳を塞いだ。


「お前、紅菜と付き合い始めたってマジか?! 一体、何を考えてんだっ?!」


「あぁ…その事か」


 傑は俺の苛立ってる様子に得心がいったのか。

 耳を塞いでいた両手を下ろし、話し始める。


「確かに最近付き合い始めたけど…そんなに驚くことか?」


「あのなぁ! あいつの噂知ってるよなぁ!」


「知ってるけど、噂はあくまで噂だろ? 別にそんなヤバい感じはしなかったけど?」


「今まであいつと付き合った奴ら、みぃ〜んな、同じことをいってたよ! 見掛けに騙されるなっ! 容姿は抜群でも中身は悪魔だぞ! すぐに飽きてポイされんぞ!?」


「別に構わないけど?」


 傑の返答に俺は唖然とした。

 何を言っているのか、意味が分からなかった。


「は? どういうことだよ」


「いや、そのままの意味。別れても問題ないって話。まぁ、一応は”契約”だから半年は付き合ってもらわないと……」


「ちょ、ちょっと待て?! ”契約”ってなんだ!」


 凡そ男女の付き合いで不自然な単語が傑の口から出た。

 訳が分からず、問いただすと傑はため息混じりに答えた。


「紅菜ちゃんと俺でカップル契約結んだんだ。期間限定でな」


「なんで、そんな真似を……」


「女避けの為。高校入ってから周りが煩くてさ。実際、困ってたのは陽介も知ってたろ?」


「そうだけどなぁ…」


 傑はイケメンだ。

 校内でトップクラスに容姿が整っていて、女子人気は高い。


 男版、紅菜で彼女のように誰彼構わず交際したりなどしていないが、毎日告白されることに参っていたのは勿論、知っていた。




 しかし───



「だからって偽装相手にあいつを選ぶか? というか、紅菜もよく了承したな…」


「彼女も困ってたみたいだからさ? その契約をしようって話をする前、たまたま校舎裏に行ったら彼女、上級生に迫られてた所だったし」


「初耳だ。もっとも、あいつの日頃の行い的に自業自得だが」


「そんなこと言って。何だかんだ言いつつ、心配してるくせに」


「冗談はよしてくれよ…。あいつの男性遍歴が原因で俺がどれだけ紅菜の元彼氏どもに絡まれてきたと思う?」


 普通振られた腹いせなら本人へ向くはずなのだが、男心というのは分からないもので、本人よりも彼女に尤も近い男である俺へ嫉妬の炎を燃やして襲いかかってくるのだ。


 お陰ですっかり荒事に慣れてしまい、当初こそ慌てていたが今ではあいつ関連の襲撃には全く動じなくなってしまった。


 そんなことで心身共に強くなどなりたくはなかったものだが…。


「今度はお前にヘイトが向くかもしれんが……いや、大丈夫か。お前に喧嘩売るやつはいない」


「分からないよ? 案外いるかもしれない」


「絶対ない」


 断言できる。


 校内カーストでイケメン男子トップ3には入ってるような男へモテない系男子どもが襲いかかるとはとても思えない。


 俺の容姿は傍から見ても普通なモブ系男子だから喧嘩売られるがヒエラルキーの上位に位置する傑が何かされることはないだろう。



 だけど───



「契約とはいえ付き合ってるなら重々注意してくれ。あいつに何か迷惑掛けられて困るようなら、すぐに俺へ言えよ」


「まるで、保護者みたいだな?」


「昔からそうだ。あいつが面倒おこせば、俺に苦情が来る。まったく家族ぐるみでの付き合いってのは厄介で困る」


 紅菜の父親と俺の両親は学生時代の同級生だったらしい。

 彼女の母親は紅菜を産んですぐ、浮気して相手とどこかへ一緒に逃げたそうだ。


 紅菜の父親は一人で娘を育てることになったが、男手一つで子供を育てるのは大変だ。


 父方の両親は紅菜の母と結婚する際に絶縁されたらしく、親戚筋も頼れない。


 見かねたウチの両親が紅菜の父親に手を差し伸べ、一緒のマンションの隣同士で住み合うことでどうにか解決したという。


 とはいえ、紅菜の父親は普段仕事で海外。


 必然的に紅菜は一人になるので、彼女は遠上家で過ごす事が殆どで最早、遠上家の一員といっても過言ではない。


「とりあえず気をつけろ。あいつも色々あるからな」


「色々って?」


 注意を促し帰ろうとしたが、傑が尋ねてきた。

 契約彼氏なら知っていて問題ないし、俺も常に紅菜へ付いてる訳じゃないから教えておくか。


「男嫌い」


「は?」


 俺の言葉に傑がポカーンとした顔をする。

 それはそうだよなぁ。男を取っかえ引っ変えしてる奴なのに。


 だが、これは本当のことなのだ。



 紅菜は───



「あいつ、極度の男嫌いなんだよ。今でこそ同年代くらいの相手には無難に会話するんだけど、小学時代は完全無言。実の父親なんて半端なく毛嫌いしてる。二人で対面しても会話ゼロ。年頃だとか反抗期とか、そういった話じゃなく存在レベルで拒絶してんだよ。付き合いが長い俺相手でも少し距離取って会話してるしな。ウチに来ても、しっかり話すの母さんくらいじゃないか?」


「マジでいってんの?」


「マジでいってる」


 四季 紅菜。

 校内の名だたるイケメンやフツメンと交際しまくり、ビッチと噂されている女だが、実際のところは極度の男性嫌いという行動と性格が全く伴ってない本当に摩訶不思議系女子である。



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ビッチと噂される幼馴染が友人と付き合い始めたのですが、視線の先には俺がいる?!~今までの男性遍歴は俺への当て付け? いや、NTRする気は更々ないが?! 嵩枦(タカハシ) 燐(リン) @rin20200813

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