バーベキュー 5
楽しいバーベキューを終え、不思議屋の老婆と動物霊による食育も体験した。
客間に寝そべる
「栃木ってさぁ。自慢とかしないの?」
と、利津が聞いた。
「自慢?」
「マウント取れまくれんのに、あんま聞かないじゃん。青森と富山は、栃木の話とか聞いてるだろ?」
聞かれて流石と景都は首を傾げた。
「自慢は聞かないな。って言うか、咲哉あんまり自分のこと話さないよな」
「話しても理解できないだろう的な?」
「利津、感じ悪いぞ」
利津の隣で、世津が眉を寄せる。
枕の横で丸くなった白狐の
「咲哉が
と、話した。
「マジで? 英会話マウントじゃん」
「違うよぉ。あれ、ガチだから」
「うん。ガチだな」
と、流石も頷いている。
「日本語だと感覚がつかめない事とか、英語で説明してもらってるんだよ」
咲哉は薄く笑って答えた。
「アイスキャンディーも、去年デビューしたばっかだもんね」
「どゆこと?」
「いや、単語は聞いた事あったんだよ」
「単語……?」
「アイスキャンディーって、キンキンに冷えた飴ちゃんだと思っててさ」
咲哉が答えると、利津が噴出して笑った。
「直訳じゃん」
「長時間、冷たさを保つような飴で、口に入れとけば甘さと一緒に冷たさも楽しめるような。暑い日本の知恵かなって想像してた」
目をパチパチしながら世津が、
「ヨーロッパだとジェラート? 棒付きのアイスって少ないの?」
と、聞いた。
「……いや、食った物とか、あんまり覚えてない」
「ゆで卵も、メイドさんが剥いてくれてた的な?」
「そういうのは全部、喉に詰まらせないようにマッシュしてくれてた」
「僕も英語が話せたら、色々解説してあげられるのになぁ」
と、景都は寝そべったまま足をパタパタさせている。
「俺がマウント取れる事なんか、ほとんどないだろ?」
と、咲哉が言っても、
「デカい家に住んでて母ちゃん美人だし、勉強できるセレブのイケメンだろぉ」
と、利津は指折り数えて口を尖らせる。
「あっ、じゃあ、なぞなぞ!」
突然、景都が言い出した。
同じ布団に寝転がる咲哉に、
「一学期の給食最終日の主食は、なんだったでしょう?」
と、聞いた。
「あー、それなぁ……うーん?」
流石も楽しげに、
「俺は覚えてるぜ? 一学期最後の教科は思い出せないけど」
と、言って笑う。
「教科の最後は数学だったよ。給食は……なんだったかな」
利津はスマホを見て、
「あ、マジだ。数学。世津のクラスは?」
と、聞いた。
「うちのクラスは英語だったと思う」
「最後の給食は? 俺、覚えてるよ」
「給食……」
と、世津も首を傾げる。
「あんまりない主食だったじゃん」
「揚げパン?」
「クリーム挟んだ食パンとかだっけ?」
咲哉と世津が適当に言ってみるが、流石と景都に利津も、
「豆ご飯!」
と、声を合わせた。流石は、
「咲哉、豆ご飯が出た事も覚えてないだろ」
と、聞いた。咲哉は頷きながら、
「……食い物への感謝を忘れてるわけじゃないよ」
と、答える。
「うん。落ち着け?」
「記憶内容の方向性って個人差あるんだろうな」
と、世津が言うと、咲哉も、
「そうかもな。学校の勉強内容より、食い物の記憶の方が大事だと思う」
と、しみじみ言っている。
「確かに」
「俺、ロブスターの子どもって言われてアメリカザリガニ出されても、普通に信じて食うと思う」
などと、咲哉が真面目に言う。
「ザリガニ……」
「松茸と椎茸は?」
「……シメジとナメコなら」
「じゃあ、今度、みんなで釣りに行こうよ」
と、また突然、景都が言い出した。
咲哉は、
「つり?」
と、首を傾げる。
「おー、田舎男子の夏遊びって感じだな」
「いや、早朝ならともかく、日差しとかヤバいだろ」
「
「川?」
首を傾げたままの咲哉に、景都は目をキラキラさせながら、
「フィッシング!」
と、釣り竿を振る真似をして見せた。
「あぁ、魚釣りか。なんか吊るす方を想像してた」
などと言って、咲哉は笑う。
「いやいや、もっと日本の夏を経験させてやれよ」
スマホを覗き込みながら利津が言った。
「今年が初体験だってば」
「ほら。去年、俺と世津で海に行った時のお揃いの水着――」
差し出した利津のスマホへ重ねるように、世津もスマホを差し出した。
「はしゃいで疲れて、利津が水着のまま寝落ちした写真」
砂浜で寝ている利津の背中に、貝殻が置かれている。
「あ、これマジで貝殻の形に日焼け残っちゃってさぁ」
「うっわ、兄弟楽しそう」
と、咲哉に流石と景都も声を揃えた。
「富山の妹は女子友と仲良さそうだったし、青森の兄ちゃんは入院してるし、栃木はひとりっ子だったな。なんか、俺らが自慢しちまったな」
ニヤける利津に、世津は冷めた表情で、
「自慢のつもり?」
と、言っている。
「夏休みだし、もっと遊ぼうぜ」
「宿題は?」
「ぜったい、誰かそういうこと言うんだよな」
「そんなこと言っても宿題の存在は消えないよ」
「わかってるよ。まだ、学校に宿題関係の物を忘れて来てたりしないかを確認しただけだ」
口を尖らせて利津が言うと、景都も、
「あ、僕も同じ」
と、答えた。
「俺は、それすらやってない」
溜め息交じりに言うのは流石だ。
「俺は残ってるの、夏休みの感想文だけ」
「俺も」
世津と咲哉が答えると、
「だと思ったー」
と、流石と景都、利津も声を揃えて笑った。
男子中学生も、おしゃべりに花を咲かせる。
夏休みは始まったばかりだ。
不思議屋と心霊探偵団 ・活躍編・ 天西 照実 @amanishi
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