第13話「幻のエル腐」
そして各々が問題集を解き、たまに分からないところを質問したりした。
「どれも正解してるね。それ本番でね」
「う、うん」
優希は美瑠に褒められたことより近寄りすぎで少し当たっているのが気になっていた。
何がって? それは言わんでも分かるでしょ。
「えっと、こうだよな」
哲也が数学の問題を解いていると、
「お、やるじゃないの。勉強してきたようね」
千恵が覗き込んで言った。
「まあな。あの座禅のおかげか、昨夜は集中してできたぜ」
「そうね。あたしもなんか頭が冴えてきてる気がしたわ」
「たしかにあれは気が落ち着くよね。ねえ美瑠さん、うちの父親にも教えていいかな?」
大輔がそんな事を言う。
「いいよ。そういえば大輔君のお父さんって何してる人?」
「……内緒にしてね。政治家で今は内閣官房長官なんだ」
大輔が指を立てて口元に当てた。
「え、そうなのってあれ? 官房長官ってたしか
美瑠が首を傾げて言う。
「僕は戸籍上母方祖父母の養子になっててね、小三の頃に母が亡くなってから祖父母の家に住んでるんだ。父が忙しいのもあってね」
「そうなんだ……」
「大輔の父さんって俺達も会ったことあるけど、ほんとカッコよくて優しくていい人だよな。早く総理大臣になってくれって思うよ」
「そうよね。ネットで見ても周りの子に聞いても皆そう言ってるわ」
哲也と千恵が続けて言った。
「そういえば哲也君、前は大輔君を委員長って呼んでたけど、いつの間にかやめてたね」
優希がふと思い出して尋ねた。
「いや大輔がやめてくれって前から言ってたしな。たまに気付かずに出てっかもしれねえけど」
そう言って大輔の方を向く哲也。
「うん。他の人はともかく、哲也君にまでそう呼ばれたくないからね」
大輔が少し寂しげに言う。
「ごめんな、最初会った時の印象がなかなか抜けなくて」
「いいってば」
「で、二人はいつ恋人になるの~?」
美瑠が頬杖をついてとんでもない事を口走ると、
「誰がなるかあ!」
「それだけはゴメンだよ!」
二人は立ち上がって抗議した。
「え~、お似合いなのに~……ハアハア」
美瑠はなんかよだれ垂らしていた。
「ね、ねえ美瑠、あんたもしかして腐女子?」
千恵がおそるおそる聞くと、
「うんそうだよ~」
よだれ垂らしたまま答えた。
「躊躇いもなく言うか。あとそれ拭け」
少し引きながら言う千恵だった。
「隠す事じゃないもん。それにママはBL漫画中心のWEB作家だし」
「え? ねえ、お母さんってなんて名前でやってるの?」
「本名の
美瑠はそう言って立ち上がり、本棚から一冊の本を取って千恵に渡した。
「……え? ちょ、マジですかあぁ!?」
千恵は表紙を見た途端に驚きの声をあげた。
「ね、ねえ千恵ちゃん、もしかして美瑠ちゃんのお母さん、有名人なの?」
優希がおそるおそる尋ねたら、
「うん、一般には知られてないけど業界では超有名人よ! 名作を幾つも出しているけど性別以外のプロフィールは謎なもんだから『幻のエル腐』とも呼ばれているのよ!」
熱の入った説明をする千恵だった。
「美瑠ちゃんの母さんが凄いのは分かったが、お前も腐ってたのかよ」
哲也が真顔でツッコむ。
「あ、あたしは熱狂的ってほどじゃないけど、好きは好きよ。悪い?」
「いや、そういう女子は結構見かけるぞ。てかうちの女子空手部員は全員そうだ(あと、どこが熱狂的じゃないだこら)」
最後は心の中で言う哲也だった。
「哲也君、今度空手部に見学行ってもいい?」
美瑠が少し身を乗り出して言う。
「え、ああ。たぶん美瑠ちゃんの母さんのファンもいるからって、言いふらす事じゃねえよな」
「うん。普通に腐女子仲間が欲しいの。というか千恵ちゃんのおかげでママが凄い人だって分かったよ」
「え、そうなのかよ?」
哲也がやや意外そうに言う。
「うん、そこそこ人気あるなって思ってたけどやっぱ自分の親だからか、ピンと来なかったの」
「なるほどな」
「たしかにそういうのもあるかもね」
哲也と千恵が頷き、
「それより美瑠ちゃんが腐ってた……ってあれ? なぜか前から知ってた気がする?」
優希は首を傾げていた。
「ねえ、そろそろ勉強の続きしない?」
大輔が皆に言い、
「あ、そうだな」
「そうね、頑張りましょ」
皆また問題集に向かった。
「美瑠さんの気持ち、少し分かる気がするな」
大輔が小声で呟いた。
次の更新予定
優しき希望の光達 仁志隆生 @ryuseienbu
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