転んだ

ぐらにゅー島

今日もまた転んだ。

 絆創膏を見て、懐かしいと思う瞬間がある。そんなもの、ありふれた日常生活に溶け込んでいるというのに。それでもなぜか、懐かしいと思うのだ。


 いつだっただろうか、あまり転ばなくなったのだ。転ばなくなったって言ったって、単に転倒しなくなったって意味で深い意味なんてないけれど。

 幼稚園に通う頃、よく転んだ。転んで、血が出て痛いと泣いた。そんなときはいつだって、お母さんや先生が「大丈夫、痛くない痛くない。」そうやって慰めてくれたものだ。

 家の絆創膏はすぐになくなった。一週間に一回は転んでしまったし、いつも身体のどこかには絆創膏を貼っていた。お風呂に入ると、少し傷に水が染みて痛かった。それが日常だった。

 ある時、一週間転ばなかった。それが、何回も何回も起こって、僕は大人になった。絆創膏を貼らなくなって、転ぶ回数だってもう一年に数回程度になって。


 そして、僕は転ぶようになった。


 今までは、転ぶと身体が痛んだ。今は、転ぶと心が痛む。僕は、『挫折』するようになったのだ。

 頑張って新しいことに挑戦した。学生時代は部活や勉強、恋だって頑張った。社会人になってからも、新しいプロジェクトや仕事を頑張った。進んでなんでもやったのだ。

 その度に、僕は転んだ。何回も、何回も転んだ。一週間に一回なんかじゃなくって、絆創膏だって役に立たなくって。

「大丈夫、痛くない痛くない。」

 いつからだろう。僕はそうやって言われるのでは無く、言うようになっていた。ただ、自分を見つめて。


 いつになったら転ばなくなるんだろう。そんな疑問を胸に、今日も転ぶ。

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