刺激を求めた男
「あんたにも悩みが何かあるんじゃないのか?」
男は田中の心を見透かすように質問を聞く。
「…………なんでわかった?」
「こう見えても人生経験は豊富なんだよ」
自慢げに男は話した。
なぜかはよく分からない。
分からないけど彼は自身の身の上話をし始める。
「ちょっと前までは毎日が退屈で退屈で、刺激的な生活がしたかったんだよ。でも、ふとしたきっかけで求めていたような生活にかわって毎日が楽しかった。
でもな、それを続けていくうちにそれにも飽きてしまって、今はただ酸素を吸って二酸化炭素を吐き出す機械みたいなもんだよ」
最後までだまって聞いていた男は彼が言い終わると話し出した。
「刺激的な生活かぁ。憧れる気持ちは分かるが、退屈な毎日の中にある小さな刺激を君は見逃していただけなんじゃないのか?刺激的でスリリングなことも結構。だけどどんな生活でもいずれはつまらなくなっていくものさ。退屈な日々のアクセント、それが案外いい刺激なのかもしれないぞ」
男の言葉を聞き、彼ははじめの人生を思い出す。
あの退屈な、逃れたいと思っていたあの生活の中にも確かに刺激的なことは何度もあった。
彼は自覚した。
『俺は見ていなかっただけ』だと。
満足したような顔で彼は話した。
「俺たちは似た者同士かもしれないな」
「そうかもな」
互いに始めて出来た理解者だった。
死に続ける彼らにしか分かりあえない、彼らの人生。
互いに励まし合った両者にもはや先ほどまでの苦しみはなかった。
「俺の名前は"田中修二"。あんたは?」
「"佐藤作蔵"だ」
彼らは別れた。
それぞれの人生に戻るために……………
ツギハギ カラス丸 @po143re4
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