邂逅
自分を失った男
最近、彼は転生にも飽きてきていた。
殺人の喜びを覚えて、殺し殺され始めもう何十何百回やったかなんてもはや忘れてしまうほどやり続けた。
しかし、やり直しがきくからこそ一回限りのスリルを一生味わうことの無い、そんなもどかしさにさいなまれていた。
かといって元の生活に戻ったところで、もはや何も楽しさなんか無い。
「あーあ、もう死にてぇー」
彼は一人ぼやいた。
誰一人としてこの世に彼のつらさ、苦しみを理解することはないだろう。
あれは何回目の転生だっただろうか。
彼が楽しみも苦しみも感じず、もはや脱け殻のように生きていた頃のこと。
道端でうずくまっている男に話しかけた。
普段ならただのダメ人間と切り捨てるような相手に、
なぜ話しかけたのかわからない。
だが、その姿が今の自分と重なるように感じたのだ。
「俺はねぇ、失ったんだ。幸せになりたい。それにしがみつきすぎて自分自身を失ったんだ。失った自分を探そうとして周りの全ても失った。もはや俺は、空っぽだ。得るものも失うものも何もない、虚しい奴さ」
自嘲ぎみに男は話す。
彼にとってその男の人生がどんなものなのか、それは分からないが、その言葉は男自身の人生を否定するものだってことはわかった。
「そんなに自分を卑下するなよ。過去は振り返らず、今ある幸せを求める。それでいいんじゃねぇの?
いつだって人生やり直せると思うぜ、俺はな」
男の瞳には微かに光が戻ったように見えた。
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